6話 商務大臣
「はぁ、とんでもないことをしてくれましたね」
ポトスは穏やかな笑顔を浮かべながらも、その額には青筋が浮かんでおり、ブチギレなのは明らかだろう。
ポトス・アルバート。
若くして商務大臣を務める、俺にとって数少ない信用できる仲間の一人だ。
この国の交易や商業を取り仕切る立場にあるため、日頃から他国の無茶な要求に最も頭を悩ませている人物でもある。
そういった要求が来る度に俺と一緒になって頭を抱え、それでもどうにかカリスト王国が不利益を被らないよう奔走してくれていた。
年齢もまだ若く、俺とは比較的話が合い、日頃から懇意にしている仲でもあるからこそ今回の計画について何も伝えなかったことに関しては、かなり申し訳なく思っている。
……まぁ、今の表情を見る限り、向こうは申し訳ない程度では済ませてくれなさそうだが。
「まさか本当に結界で国を覆うとは……いったいどうやったのかわかりませんが、思い切り結界にぶつかった馬車が横転し、御者が片腕を骨折、馬一頭が重傷だそうです」
「そうか……それは申し訳ない」
「謝って済むならそもそも牢に入れたままにはしていませんよ」
ぐうの音も出ない。
そもそも皆には何も相談せずに俺一人で計画し実行したため、何か不都合が出るのは分かっていた。
そのうえで実行したのだから、それで被害を受けた国民が居るのなら謝っても謝り切れない。
「それで、そろそろ話してくれますよね? これからの方針を決める以上、あの結界について詳しく知る必要がありますからね」
「あぁ、もちろん、ちょうどイリスにも話しておこうと思っていたところだ」
信用のできるこの二人にならと俺は計画の全容を話した。
俺が使えるようになった技術や研究の結果、これから起こるであろう出来事やそれに対する対処、そのできる限りを話した。
ポトスはもちろんのこと、イリスも結界板の事などは知っているとはいえ、俺がやった突拍子もない計画に唖然としていた。
「はぁー、やっぱり天才って嫌いだっ! そんなの普通思いついてもやらないんだよ……!」
「馬鹿と天才は紙一重とはこういうことなのでしょうね……ポトス様、激しく同意します」
「誉め言葉として受け取っておこう」
俺の返答にポトスははたから見てもわかるほどに不機嫌になりながらも、こめかみをつまんで思考を巡らせる。
「まぁ、さっきの御者の一件で貴族連中もこれが本物なのだと気づき始めました、各国の影響にどっぷりつかった奴らは明らかに焦りだしてますし、王国派の貴族は貴方からの直接の説明を求めています」
「そうか、思ったよりも早かったな」
「えぇ、近頃は国際緊張も高まっていましたからね、自ずと鍛えられたのでしょう……それでです、誠に遺憾ですが今の話を聞く以上、陛下をいつまでもここへ閉じ込めておくわけにもいかなくなりました」
「お?」
「嬉しそうな顔をしないでください、別に許されたわけではありませんからね」
「わかってるって」
俺の軽い返答にあきれながらも、ポトスは真剣な眼差しで俺を見つめる。
「今日中にでも会議が開かれます、そこで王国派を味方につけてください」
「あぁ、そうだな」
この計画で一番重要になるのは国民の団結だ。
国民がバラバラになった状態では考えうる中でもかなり最悪な結果となるだろう。
そして、その団結の第一段階としてやらなければいけないのは国政の掌握だ。
その際、他国の影響を受けた貴族は俺の見方をする可能性は限りなく低いだろう、だが、この国を真に思っている王国派の貴族ならば可能性はある。
「とはいえ、王国派だからといって全員が素直に陛下へ賛同すると思わないでくださいね」
俺の考えを読んだかのように、ポトスがそう付け加えた。
「王国派の者達がこの国を思っているのは事実です。ですが、だからこそ今回の鎖国に反対する者も当然出てくるでしょう」
「国のためを思えば、鎖国なんて危険すぎるってことか」
「えぇ、少し考えただけでも問題はいくらでも出てきますからね」
ポトスは指を折りながら1つ1つ数えていく。
全て俺も当然想定していることだが、王国派の貴族達からすれば、そんなことは知る由もない。
昨日まで普通に他国と交易していた国が、国王の独断によって突然完全に閉ざされたのだ。
俺が逆の立場なら、真っ先に正気を疑っているだろう。
「ですから、今日の会議で重要なのは1つです……陛下が何も考えずに鎖国したわけではないと、彼らに理解させることです、それができれば……」
ポトスはそこで一度言葉を切ると、先程までの穏やかな表情を消し、口元だけを僅かに吊り上げた。
「……それができれば、あとは簡単です」
「簡単?」
「えぇ」
ポトスは静かに頷く。
「この国より他国の利益を優先する売国奴どもを、一人残らずぶっ潰しましょう」
「……怖っ」
「何を仰るんですか、陛下が始めたことでしょう?」
そう言って笑うポトスを見て、俺はこの国で一番敵に回してはいけないのはこいつかもしれないと密かに思った。
そして数時間後、王城の大会議室には、王国の重臣と有力貴族達が一堂に会していた。
俺が扉を開けた瞬間、室内の視線が一斉に突き刺さる。
「……さて」
俺は国王の席へ腰を下ろした。
「まずは今回の鎖国について、俺から説明しよう」




