5話 地下牢にて
そんな具合で俺は鎖国を行い、その後、演説をし今に至るというわけだ。
「いやぁ、それにしても疲れた」
「お疲れ様です」
俺はイリスが運んだ食事を口にしながらそうぼやいた。
本日の食事は硬いパンに味の薄いスープだ。
今までの食事もそこまで上等なものばかりを食べていたとは思っていなかったが、いざこういう食事をするとなると、少々堪えるものがある。
まぁ、これからの食事はどうせ以前と比べれば何段かグレードの下がったものになっていくだろうし、ここで慣れておくのもありかもしれない。
ん? 何故王であるこの俺がこのような粗末な食事を摂っているかだって?
そんなもの勿論俺がとある場所にいるからに決まっている。
「そう、地下牢!」
「うわっ、やっぱり頭が……」
「イリス、その冗談はもういいよ」
「いや、まじでですが」
イリスと雑談しながら、俺は大きな溜息をつく。
元々この状況になるだろうというのは分かっていた。
結界板やその他諸々の力が現状俺にしか使えないという事が知れ渡るまではどう考えても俺は乱心した王に見えるだろうし、自国を守ると言うためにも、一旦俺を拘束するというのは何もおかしな話ではない。
しかし、それでも流石に心に来る事件が起こってしまっていた。
「まさか、イリスに裏切られるとはなぁ……」
「当然じゃないですか、陛下を擁護したともなれば私の立場も危ういですからね」
そう、俺が地下牢に入れられた経緯にはイリスがかなり深く関わっている。
まず、演説が終わったあと、自室に戻った俺は捕まるまでに殺されたりしててはいけないので、部屋全体に結界を貼り、議論の結果として国民が俺を捕まえに来るのを待っていた。
そうなれば、俺も特に抵抗することなく連行される予定だった。
しかし、誤算があった。
部屋の中には俺以外にも信用できる侍女としてイリスがいたのだ。
イリスとは長い付き合いだし、それに前日の会話もあった為、俺に危害を加える心配など何一つしていなかった。
だからこそ、俺は何の疑いもなくイリスが用意したお茶を口にしたのだ。
「陛下、お疲れでしょう、少し休まれてはいかがですか?」
「いや、今寝るのは流石にまずいだろ。いつ誰が来るか分からないし」
そう言いながら、俺はもう一口お茶を飲む。
演説で喋り続けたせいか喉が渇いていたこともあり、気付けばカップの中身は半分ほどなくなっていた。
「そうですか、では、せめてお茶くらいは飲んでください」
「言われなくても飲んでるよ」
「ええ、存じています」
イリスはそう言って、にこりと笑った。
……今思えば、この時点で気付くべきだった。
こいつがこんなに素直に俺を労るなんて、どう考えても怪しい。
だが、その時の俺は演説を終えた達成感と疲労ですっかり油断していた。
出されたお茶を全て飲み干した瞬間、俺は猛烈な眠気に襲われ、持っていたカップを手から落としてしまう。
その瞬間、魔力の制御が乱れた。
明らかな異常事態だ、眠気程度で魔力の制御が乱れることなど本来ほぼ無い。
なんなら半分寝ている状態でも結界は維持出来る。
しかし、その時はどうしてか魔力の制御がどんどんと乱れていっていた。
「イリス……お前……」
「はい?」
俺は霞んでいく視界の中でイリスを見る。
そこには先程までと何一つ変わらない、にこやかな笑顔があった。
「このお茶……何入れた……?」
「睡眠薬ですよ」
「やっぱりかよ……!」
声を張り上げたつもりだったが、実際には情けないほど小さな声しか出なかった。
俺は机に手をついて何とか身体を支える。
「睡眠薬だけじゃ……ないだろ……魔力が……上手く……」
「あぁ、それですか」
イリスは何でもないことのように頷いた。
「魔術師向けの睡眠薬ですからね、眠らせる相手が無意識に魔術を使って抵抗しないよう、一時的に魔力操作を鈍らせる作用もあるそうですよ」
「先に……言えよ……」
「言ったら飲まないじゃないですか」
「当たり前だろ……!」
このままでは暗殺されかねない、結界を失えば俺は身を守る手段が無いし、こんな事をした俺は下手すれば国民の前で処刑まで有り得る。
俺は最後の力を振り絞って結界板で身を守ろうとするが、イリスがいきなり俺のことをお姫様抱っこした事によりそれは敵わなくなる。
「大丈夫ですよ、私がちゃんと牢に入れますから」
イリスのその言葉を聞いたのを最後に、俺の意識は闇へと沈んだ。
……そして、今に至るというわけだ。
まぁ、とはいえ、イリスのお陰でこの牢に閉じ込められるまでの件を比較的安全に過ごせた。
恐らく、返答は素っ気ないが、イリスなりに俺の安全を最大限考慮した結果なのだろう。
「……まぁ、今回は許してやるよ」
「何故上から目線なんですか」
「国王だからな」
俺はそう言って、残っていたスープを飲み干した。
「それで、イリス」
「はい?」
「そろそろ話しておこうと思う」
今までは万が一情報が漏れることを恐れ、計画の一部しか伝えていなかった。
だが、鎖国まで実行した以上、もう隠しておく意味も薄い。
「これから俺は……」
俺がそこまで言いかけた瞬間、先程まで俺とイリスの二人きりだったこの地下空間に、もう1人の足音が混ざる。
俺は警戒してその主を探る。
「ハッハッハ、陛下、哀れな姿になりましたねぇ!」
現れたのは、我がカリスト王国で貿易関係を一手に取り仕切る商務大臣、ポトスだった。




