↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/28

第22話「雪の日は子悪魔と一緒」

冬休みに入って数日が経った、とある日の午前中。

朝から降り続いている雪が、窓の外を白く染めていた。

こんな日にわざわざ外へ出る気にもなれず、自室のベッドに寝転がりながら、スマホを眺めていた。


冬休みだからといって、毎日何か予定があるわけじゃない。

こうして暖かい部屋でのんびり過ごすのも悪くないだろう。

そんなことを考えていると――。


――コン、コン。


「……ん?」


小さな音に気づき、スマホから顔を上げる。


――コン、コン。


もう一度、同じ音が聞こえた。

どうやら窓の方から聞こえてくる。


「なんだ……?」


ベッドから身体を起こして窓へ近づき、カーテンを開ける。


「……は?」


そこにいたのは莉夢だった。

背中から翼を広げ、降りしきる雪の中、窓の向こうで宙に浮かんでいる。


「ちょっと結飛! 早く開けなさいよ!」


窓越しでも聞こえる声に急かされ、慌てて鍵を外して窓を開ける。


「お前、何やって――」


「寒っ! もう、早く閉めてよ!」


俺の言葉を遮るように莉夢が部屋へ飛び込んでくる。

床へ降り立つとすぐに翼をしまい、両腕で自分の身体を抱くようにして震え始めた。


「そりゃ、こんな雪の中を飛んできたら寒いだろ……」


「思ったより寒かったのよ!」


「普通に玄関から来いよ」


「どうせ結飛、自分の部屋にいると思ったし。こっちから来た方が手っ取り早いじゃない」


呆れる俺を気にも留めず、莉夢は暖房の前へと歩いていく。


「あ~、あったかい……」


冷えた身体を温めるように両手をかざす莉夢を見ながら、小さくため息をついた。


「それで、今日は何しに来たんだ?」


「何って……遊びに来ただけよ」


「この雪の中を?」


「いいじゃない。どうせ結飛も暇してると思ったし」


「まあ、暇だったけど……」


それからしばらく、俺たちは他愛のない話をしながら部屋で過ごした。

雪の中を飛んできた莉夢もすっかり身体が温まったらしく、いつの間にか暖房の前を離れ、俺のベッドに腰掛けている。

そうして過ごしているうちに、窓の外が静かになっていることに気づいた。


「……雪、止んだみたいだな」


窓へ目を向けると、さっきまで降り続いていた雪はすっかり止んでいた。

雲の切れ間からは薄く陽も差し込み、屋根や道路に積もった雪が白く照らされている。


莉夢もベッドから立ち上がり、俺の隣から窓の外を覗き込む。


「結構積もったわね」


「ああ。朝からずっと降ってたからな」


莉夢はしばらく外の景色を眺めていたが、やがて何かを思いついたようにこちらを振り向いた。


「ねえ結飛、外行きましょうよ!」


「えぇ……寒いから嫌だよ」


せっかく暖かい部屋でのんびりしていたのに、わざわざ寒い外へ出ようとは思えない。


「いいじゃない。せっかくこんなに雪が積もったんだから」


莉夢はそう言って、窓の外に広がる真っ白な景色を指差す。


「さっきまで寒いって言ってたのは誰だよ」


「もう暖まったからいいのよ。ほら、行くわよ!」


「おい、まだ行くなんて言ってないだろ!」


俺の返事など最初から聞く気もないらしく、莉夢はさっさと部屋の出口へ向かっていった。


◇ ◇ ◇


それから俺たちは上着を着込み、家を出た。

雪は止んでいるものの、外へ出た途端、冷たい空気が頬を刺す。


「やっぱり寒いじゃないか……」


「冬なんだから当たり前でしょ」


「わかってるけど、寒いものは寒いんだよ」


そんなことを言い合いながら、雪の積もった道を歩いていく。

向かったのは、家からそう遠くない場所にある公園だった。

普段なら子供たちの姿も見かける場所だが、今日は人影もなく、辺り一面が真っ白な雪に覆われている。


「わぁ……結構積もってるわね!」


公園へ入るなり、莉夢はまだ誰にも踏まれていない雪の上へ足を踏み出した。

ザクッ、ザクッと音を立てながら歩き、自分の足跡が残っていくのを楽しそうに眺めている。


「結飛、見て。こんなに埋まるわよ」


「転ぶなよ」


「子供じゃないんだから転ばないわよ」


そう言いながら、今度はその場にしゃがみ込み、莉夢は足元の雪へ手を伸ばした。

両手で雪をすくい上げ、ぎゅっ、ぎゅっと丸めていく。

やがて莉夢の手の中には、一つの雪玉が出来上がっていた。


「…………」


莉夢がゆっくりと俺の方へ顔を向ける。

その口元が、にやりと持ち上がった。


「……おい」


なんだか嫌な予感がする。

そう思った次の瞬間――莉夢の手から雪玉が放たれた。


「うわっ!?」


咄嗟に身体を捻ったものの間に合わず、雪玉が俺の肩にぶつかって砕ける。


「あははっ! 当たった!」


「やったな……!」


俺もすぐに雪を丸め、莉夢へ投げ返す。

それを合図に、雪合戦が始まった。

互いに雪玉を投げてはかわし、時には身体に受けながら、しばらくは普通の雪合戦を楽しんでいたのだが――。


「甘いわよ!」


俺が投げた雪玉を、莉夢の尻尾が横から弾き飛ばす。


「おい! 尻尾使うのはずるいだろ!」


「尻尾だって私の身体の一部よ!」


悪びれる様子もなく、莉夢は今度は翼を大きく広げた。


「今度は空からいくわよ!」


「お前、それはもっとずるいだろ!」


ふわりと宙へ舞い上がった莉夢から、次々と雪玉が降ってくる。

俺が逃げ回っていると、莉夢はさらに楽しそうに笑った。


「じゃあ、これならどう?」


「まだ何かする気かよ!?」


莉夢が手をかざした途端、足元の雪がいくつもの塊となって宙へ浮かび上がった。


「ちょっと待て! 魔法まで使うのは反則だろ!」


「雪合戦にそんなルールないでしょ!」


「普通は魔法を使える奴がいないんだよ!」


降り注ぐ雪玉から逃げながら、俺も負けじと莉夢へ雪玉を投げ返した。

それからどれくらい夢中になっていたのだろう。

気づけば俺も莉夢も、頭から服まで雪まみれになっていた。


「はぁ……はぁ……もう、疲れた」


「俺も……」


さすがに限界を迎え、俺たちはようやく雪玉を投げる手を止めた。

近くのベンチへ腰を下ろし、しばらく息を整える。


「ちょっと、はしゃぎすぎたわね」


「誰かさんがズルするからだろ」


「結飛だって本気で投げてきたじゃない」


「そりゃ、あれだけやられたらな」


そんなことを言い合っているうちに、乱れていた呼吸も少しずつ落ち着いてきた。


何気なく空を見上げると、いつの間にか陽が傾き始めている。

雪に覆われた公園も、昼間とは違う淡い色に染まり始めていた。


「もうこんな時間か」


「結構遊んでたものね」


「そろそろ帰るか」


「そうね。また寒くなってきたし」


莉夢も立ち上がり、服についた雪を手で払い落とした。


「まだついてるぞ」


「え? どこ?」


「そこじゃなくて、髪」


雪合戦で散々走り回ったせいか、莉夢の髪や黒い角にはまだ白い雪が残っていた。


莉夢の髪へ手を伸ばし、指先で雪を払っていく。

最後に角の根元に残っていた雪をそっと落としたところで、莉夢が妙に大人しいことに気づいた。


「……」


いつもなら何かしら言い返してくるのに、珍しく何も言わない。


「どうした?」


「べ、別になんでもないわよ」


そう答えた莉夢は、なぜか俺と目を合わせようとしなかった。


「……まあいいけど。じゃあ帰るか」


「そうね」


公園の出口へ向かおうとしたところで、莉夢が「あっ」と声を上げた。


「そうだ! 帰りは私が結飛を運んであげる!」


そう言うと、莉夢は得意げに背中の翼を広げた。


「いや、俺を抱えて飛べるのか?」


「それくらい余裕よ。ほら、じっとしてなさい」


自信満々に言い切ると、莉夢は俺の正面に立った。


「ちょっ、待て! どうやって運ぶつもりだよ?」


「こうするのよ」


莉夢は俺の両脇に腕を通し、そのまま背中へ回してくる。

俺を持ち上げるためなのだろうが、莉夢の身体がぴったりと俺に重なる。


「…………っ」


密着した莉夢の温もりが、上着越しにも伝わってくる。

すぐ目の前で髪が揺れた途端、さっきまでとは違う速さで鼓動が鳴り始めた。


「結飛? なんで固まってるの?」


「いや……なんでもない」


莉夢の方は、俺をどう持ち上げるかしか考えていないらしい。

俺だけが妙に意識しているようで、それが余計に恥ずかしかった。


「じゃあ飛ぶわよ!」


「あ、ああ……」


莉夢が俺の背中に回した腕に、ぎゅっと力を込める。


「うおっ!?」


身体を引き寄せられたかと思うと、背後で翼が大きく広がった。


「よいしょっ!」


ばさっ、と莉夢が勢いよく翼を羽ばたかせる。

巻き起こった風に足元の雪が舞い上がり、思わず目を細めた。


しかし、いつまで経っても俺の足は雪の上についたままだった。


「……莉夢?」


「ちょ、ちょっと待って」


莉夢は俺を抱いたまま、もう一度翼を大きく広げる。


「今度こそ!」


「お、おい」


「んんんっ!」


さっきより強く身体を抱き締められ、翼が何度も激しく羽ばたく。

それでも俺の足は、雪の上から離れなかった。


「はぁ……はぁ……」


ついに諦めたのか、莉夢が俺の背中に回していた腕をほどく。

何度も翼を羽ばたかせたせいで疲れたらしく、肩で息をしながら俺の顔を見上げた。


「……結飛、重い」


「お前が運べるって言ったんだろ!」


「だって、こんなに重いなんて思わなかったのよ!」


「人一人抱えて飛ぼうとしてるんだから当たり前だろ!」


「もう少し軽ければ飛べたのに……」


「俺のせいにするな!」


結局、空を飛んで帰るという莉夢の思いつきは諦めることになった。

俺たちは並んで公園をあとにし、来た時と同じ雪道を歩いていく。


まったく、こいつと一緒にいると何が起こるかわからない。

それでも、こんな他愛のない冬休みの一日も、悪くないと思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。