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第五章 非実在の構造

 コンクリートで覆われた蓄熱体が人々を蒸し、ガラスの反射が人間を焼いている。太陽中心主義の世界。この洗練された都市という名の底なし沼のなかで、私たちは、いや昼の世界の私は生きていくことができない。一日何千人とすれ違う中で、私は、私自身を知覚することができなかった。首から同じネクタイという記号をぶら下げながら、その差異は、色や結び方、あるいは素材でしかなかった。カッツ、カッツ、と響く富裕層の木の音色が、まるで姿を見せない鈴虫のように街中を飛び交う。ここでの階級制度は、ブランド、素材、形式、そして音や反射にいたる現象までが、五線譜の上の規律に従って踊っている。その中には樹脂製の不協和音を奏でるソールの音も入り交じりながら、個々のソリストが自由に虚栄の音色を奏でていた。時折すれ違う高級外車のテールランプの黄色が、あの夜のオクタヴィアヌスのドレスの残像のように私の網膜を穿つ。私は、鞄の中からイヤフォンを取り出し、耳にねじ込んだ。逃げ込んだ電車に揺られながら、重い瞼を閉じる。電車の揺れは、あの港区の海面の揺れと近しいリズムを刻んでいた。所詮は一定ピッチの反復に過ぎないそのリズムが、窶れはてた私の心情を少しだけ癒していく。耳栓の奥からは、かつて港区で録音した本物の海の音が流れ込んでいた。私は昼の世界にいながら、三分の一歩だけ、夜の世界に浸ることができた。しかし、これも偽物の疑似体験に過ぎない。耐え切れなくなった私は、予定していた午後のスケジュールをすべてキャンセルし、駅のホームから這い出るようにして流しのタクシーを止めた。「み、港区までお願いします」

私は座席で再び目を閉じ、偽物の揺れと偽物の音を聞きながら、海への扉を開け放とうとした。タクシーの窓の外、太陽が海へと吸い込まれていく。私は、その風景に心を揺さぶられずにはいられなかった。「早く沈め」そう呪詛のように願いながら、瞳孔を開き、血のような海を見つめ続けた。やがて、瓢箪の形をした太陽は、薄いオムライスの平面に近づきながら、その存在を零へと変化させた。夜が来る。私は、私があるべき私になれる聖域の開館に、胸をときめかせながら振り返った。それは、いつもと同じ風景であるはずだった。歓喜に揺れる瞬間であるはずだった。だが、私の目の前に立ちはだかったのは、直視できる円形の記号を持つ、白に近い夜の太陽の記号だった。



 私は、自らの思考を押し殺した。自身に嘘をついた。あの全裸の規律に身を委ねれば、再び私を取り戻せるはずだと自分を騙し、再び管理局の最後尾の列へと並んだ。それは私が私であるために必要な嘘であったが、数分後、私は虚偽罪で自身に逮捕されることとなる。


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