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第四章 記号の迷宮

 瞼を開くと、そこには何も描かれていない、ただ平坦な朝の天井があった。かつて憧れた絢爛な彫刻など、そこには存在しない。しかし、ふと思う。私自身が今、タワーマンションの上層階という、現代建築が作り出した巨大な彫刻の内部に囚われているのではないか、と。そしてその窓の外には、さらに広大で冷徹な都市の彫刻が、地平線の終わりまで広がっている。宇宙という無限の空間から見れば、私は幾重にも重なる入子状の彫刻の、その最奥に収まったただの点に過ぎない。そんな空虚な思考を巡らせながら、私は天井を凝視していた。何一つ装備を着けていない、無防備で生身の身体のまま立ち上がる。広すぎる一人暮らしの部屋に残された、ダブルベッドという矛盾の象徴を背にして、私はウォークインクローゼットの折りたたみ式扉を開放した。整然と並ぶのは、総額にすれば数百、いや一千万円は容易に超えるであろう衣服や時計、靴といった装備たち。私はその中から、今日という日を生き抜くための「装飾」を選定していく。だが、これらは私を表現するための道具ではない。ただこの街を、社会を合理的に歩くために必要な、記号に過ぎなかった。嫌悪感という名の袖に腕を通し、足を踏み入れた瞬間、内側にいたはずの私の輪郭が急速に霧散していく。鏡の前に立っていたのは、私ではなく、富裕層という概念を体現した記号の塊だった。ハイブランドの服たちは、私に優しく語りかけはしない。ただ無言のまま、私の身体の無意味さを冷酷に突きつけてくるだけだ。どんなにジムで身体を鍛え上げようとも、あの夜に一ミリの膨張を許したペンドゥラムも、鍛え上げた大胸筋の曲率も、厚いウールの布地によって平坦に圧殺されていく。洗練された記号たちは容赦なく私という存在を覆い隠していく。



「見えない。私が見えない」



 鏡に向かって呟いた声は、空気に溶けて消えた。だが、それこそがこの世界の普通なのだ。稼げば稼ぐほど、社会的な地位が上がるほど、記号たちは「私を買え、私を纏え」と狂おしく訴えかけてくる。会社に似合う服装、年収に相応しい車、身の丈に合わせたと言い訳する住まい。これらは本当に、私が心から望んだものだったのだろうか。振り返り、静まり返った部屋を見渡す。そこには、大した機能も持たない高価なアートやオブジェたちが、虚ろな眼差しで私を直視していた。彼らもまた、私の虚栄心を証明するためだけに買い集められた記号の仲間だ。私は重いため息を一つ吐き出し、重厚なスーツという名の鎧を完全に纏うと、冷たい昼の世界へと、ゆっくり足を踏み出していった。


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