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第二章 アントニウスの柱

 「ん〜、それは上の名前? それとも下かしら?」女は細い指先でグラスの縁をなぞりながら、私の全裸の彫刻を上から下まで、まるで精密なレーザーでスキャンするように眺めた。「ここ港区に、上や下といった階層は存在しませんよ。私はただのペンドゥラムという名の、単一の構造体です」一ミリの膨張を隠すように、私は大理石のカウンターへ静かに重心を移行させる。「……強いて言うなら、あなたの視線が注がれる場所が、私にとっての上になります」「ふふ、上手いこと言うわね」女は喉の奥で転がすように笑った。「でも、石のくせにそんなに饒舌だと、中身が空洞なんじゃないかって疑っちゃうわ。……ちょっと、叩いてみてもいい?」彼女の爪が、大理石のテーブルを硬質な音で叩く。その挑発に対し、私は一級の彫刻としての構造計算を狂わせるわけにはいかなかった。「私の上は、あなたが住む高層階のテラス。私の下は、今夜あなたが踏みつけるこの石畳。その中間にあるのが、このアントニウスという名の柱です」港区という絶対的な構造物の中には、肉体の価値と納税額(供物)によって厳格に査定された四つの階層が存在する。最高位たる、選ばれし支配者層「カエサル級」。 実力はあるが、内側に情熱という名のバグを抱えた一級の彫刻「アントニウス級」。 裏切りを虎視眈々と狙う、野心的な新参者「ブルータス級」。 そして、ただの使い走りに過ぎない奴隷「スパルタクス級」。私は今、自身の総身をもって「アントニウス」という構造の引張強度を証明している最中だった。「私はオクタヴィアヌス。先月の納税額により、この名を維持している」背後の大理石シートでは、浅黒く酸化させたブロンズ肌の男が、自身の身分を誇示するように語っていた。「あいつはネロだ。昨夜、麻布十番でハメを外して、サイズ不足で品川に追放されかけたらしい」



 そんな囁き声が、高分子シリコンのカクテルに溶けていく。品川入区管理局の公式スタンプを押され、文字通り「存在の瑕疵」として弾き出された男たちの恨み言が綴られた石碑が、この港の境界線には無数に突っ立っているのだ。私は静かにグラスを傾け、女の瞳の奥にある空洞を見つめ返した。


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