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第一章 シリコン・カクテル

 港区内では、酸化すなわち日焼けや乾燥による劣化を防止するための、特殊なオイルの塗布が義務付けられている。男たちは一日に一度、指定されたドックと呼ばれる、ガソリンスタンドに酷似した無機質な施設でメンテナンスを受けなければならない。肉体の建築物化。それがこの区を歩くための絶対条件だった。私は、彫刻。石畳の通路が足裏から熱を奪っていくが、そのような微小な環境変化に動じる脆弱な個体は、この港区には不要だ。その時、私は前方の空間から収斂するような強い視線を感じた。 視線の先には、ブロンズ色のロングヘアーを夜風に揺らし、鮮烈な黄色いロングドレスを纏った一人の女が立っていた。彼女の瞳の奥に、月光に濡れた私の彫刻が深く映り込んでいる。「今日は一人なの? 良かったら一緒に飲まない?」私たちは彼女に向かって静かにお辞儀をし、その刹那的な出会いに感謝の意を示した。案内されたバーの椅子はすべて、彫刻たちの剥き出しの肌を傷つけないよう、あるいは塗布されたオイルが「色移り」しないよう、滑らかな大理石や特殊な樹脂によって精密に設計されていた。「これ、どうぞ」差し出されたのは、彫刻の「艶」を永続的に保つための、高分子シリコンが配合された特殊なカクテルだ。グラスの底で、重たい液体が怪しく光を屈折させている。「その大胸筋の曲率、先週より〇・五上がりましたね。素晴らしい増築だわ」隣の席からは、肉体を高度な構造物として褒め合う男たちの無機質な会話が聞こえてくる。女は私のカクテルを持つ手元をじっと見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。「素敵なお辞儀ね。でも、あなたのその左の広背筋、少しだけ情緒が混じっているわ。ここではもっと純粋な石になりなさいよ」彼女が放った物質としての冷徹な評価を覆すため、私は瞬時に体の表面積を最大化させるように胸を張った。「石は変化しませんが、私は柔らかく、固く、そして大きくなれますよ。一杯奢らせてください」



 女は私の彫刻に、完全に釘付けになっていた。「じゃあ、頂こうかしら」彼女は長いまつ毛を揺らしながら、私に微笑んだ。その瞬間、私は微小な体内規律のコントロールを失い、ペンドゥラムが直径一ミリ膨張してしまった。


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