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【完結】知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 side:カロルド


 やっとユリアが帰ってきてくれた。


 こんなに長く離れたことはなかった。


 しかも故郷へ向かったのだ。


 このまま帰ってこなかったら――。


 そんな考えが、何度も頭をよぎっていた。


 ユリアに言えば怒られただろうがな。


 だがほっとしたのも束の間、またローラが暴走を始めたようだ。


 ユリアとゆっくり話したかったのだが、仕方がない。


 父を執務室に招いて話を聞くことにした。


 ーー


「お前、いつまでこの状態を続ける気だ?」


 父の問いの意味がわからず、私は目を瞬かせる。


「独立するって言いながら、いつまでこの状況に甘んじてるつもりだって聞いてるんだ」


「甘んじているつもりはありません。

 現に他領や他国との交易も始めています」


 父の言い方に私は眉を寄せた。


「ハイン商会の名でか?」


 父の目が鋭くなる。


「独立すると言っておきながら、いつまで『ハイド商会』の看板に隠れているつもりだ?」


「領地の名を伏せているのは、王都に目を付けられないためだろう」


「……はい。ですがそれは領地を守る上で必要なことです」


「ああ。その判断は間違っていない」


 父は腕を組み、静かに続けた


「力をつけるまで王都に知られないようにする。あの頃のお前たちには、それしか道はなかった」


「だが、いつになったら『カーハインド』という名は世に出るんだ?」


 私は息を呑んだ。


「商会の信用を積み重ねれば、やがてその信用は領地にも及ぶ――そう考えているんだろう」


 その通りだった。

 父は私の考えを見透かしたように続ける。


「だが、その『やがて』はいつだ?」


「十年後か。二十年後か」


「その間に掴めたはずの商機を、いくつ逃す?」


「その間に、お前たちだからこそ結べた縁を、いくつ逃す?」


「カーハインドの名を出すなら、いつだ?」


 言葉に詰まった。


 商会を育てる道筋は描いていた。


 だが、いつカーハインドの名を前面に出すのか。


 その節目だけが、私の中にはなかった。


「今のカーハインドには画期的な発明品があり、帝国への貸しも作った」


「もう十分、土台はできている」


 父は椅子に深く腰掛けたまま、じっと私を見据えて言った。


「恐れて名を隠し続ける者に、本当の独立はないぞ」


 静かに言い切る父に、私は返す言葉を失った。


 しばし沈黙が流れる。


「とまあ、そんなことをローラにも言ったんだよ」


 父はそこでふっと口元を緩めた。

 張り詰めていた空気が緩むのを感じた。


「そしたら俺にも協力してほしいって頼まれてな。こうして領主様にお伺いに来たってわけだ」


「……お伺い、ですか?」


「ああ。お伺いだ」


 父は肩をすくめる。


「『領主様はどうお考えですか?』ってな」


 どう考えてもお伺いの勢いではなかったが……


 まあいい。

 父に文句を言ったところで丸め込まれるのがオチだ。


「なるほど。ローラはその話を聞いて動き出そうとしている。そして父上にも協力を頼んだ、と」


 私は一つ息をついた。


「では父上も協力してくださるのですね」


 だが。


「勘違いするな」


「今の領主はお前だ。俺はしゃしゃり出るつもりはないぞ」


 そう言って、父は口元を緩めた。


「だから聞きに来たんだ。お前がどうしたいのかをな」


 どうしたいか。


 これまで考えていたのは、どうすれば領地を守れるかだった。


 王都に知られないように、そして奪われないように。


 そのことばかりを考えてきた。


 だが父は、違う未来を見ている。


 どう守るかではなく、どう前へ進むか。


 私は静かに目を閉じた。


「……今、動き出すべきだと思います」


 父は満足そうに頷いた。


「なら話は早い」


「命令しろ」


「今の領主はお前だ。俺はその命令に従うだけだ」


 私は大きく息をついた。


 そして。


「父上」


「カーハインドの名を広めます」


「その先陣を、お願いします」


 力強く言い切った。


「任せろ」


「俺が突破口を開いてやる」


 父はニヤリと笑った。



 ーーその後すぐに領地会議が開催され、カーハインド領は独立に向けて大きく動き始めた。


「一先ずポーション事業の提携は、サイブル帝国とポーネ王国だけでよろしいですか?」


 ハイリが問いかける。


「ああ。独立に向けて動き出す以上、切れるカードは手元に置いておくべきだろう」


「そうですね。それに王都に行くとなれば、これ以上カーハインドの人手を減らすわけにもいきませんから」


 私の意見にローラも賛成を示した。


 他の者も概ね同じ意見のようだ。


「王都にポーションは広めないのですか?」


 財務局長のシルヴェスターが問いかける。


「カーハインドとしては酒で十分だ。ポーションは帝国の品を輸入して流すならありだな」


 父は言った。


「王都の連中は、辺境が作った品よりも、帝国から渡ってきた品という肩書きをありがたがる」


「それにカーハインドに帝国とのつながりがあるとわかれば、奴らは手を出しにくくなるだろう」


 父の言葉に皆が「なるほど」と頷いている。


「では通商局長は、おじい様にお譲りしますね」


 ハイリがにこやかに言った。


 こいつ、自分の仕事が減ることを喜んでいるな。


「何言ってんだ。俺は補佐だ。カロルドの跡を継ぐお前が、王都の貴族どもに実力を見せつけないでどうする」


「……はい」


 ハイリは何か言おうと口を開いたが、父の言葉が正論すぎたからだろう。結局何も言えずに素直に頷いた。


「王都へは父上とハイリが行くように。情報局はサポートを頼む」


 私がそう言うと、ローラが頬を膨らませてこちらを見据えてきた。


「私も行きます!」


「……だがお前が行くと女性の社交場にも顔を出さねばならなくなる」


「だからこそです! 女性同士だからこそ築ける関係があります」


「女性同士の社交ほど厄介なものはない。侮る者も、利用しようと近づく者も多いだろう」


 王都の社交界の厄介さは身に染みて知っている。

 だからこそ、あの渦中にローラを送り込むことは避けたかった。


「承知しています。ですが、私にしかできない役目です」


「だがな……」


 こうなったローラは引かない。

 それがわかっていても、私は素直には頷けなかった。


「令嬢方とのつながりは、社交界そのものを動かします。だからこそ、女性の社交は誰かが担わなければならないのです」


「それとも、お母様やおばあ様に矢面に立っていただくおつもりですか?」


「…………わかった。ローラに頼もう」


 本心では行かせたくない。だが、それは私の都合でしかない。

 ローラの覚悟を前に、これ以上止める理由は見つからなかった。



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