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ポーネと正式に提携を結ぶことが決まり、準備が始まる中、お母様たっての願いで、通信機がお披露目されました。
ポーネに通信機を置くことは、私も大賛成です。
これでお母様はいつでも母国と連絡が取れますね。
しかし……てっきりお母様も、ご自身が母国と連絡を取れるように通信機のお披露目を願われたのかと思っていましたが、そうではありませんでした。
お母様の狙いは、お父様とお祖父様に直接お話しをしていただくことだったのです。
ポーネとカーハインドは、お母様が一度も帰郷できなかったことからもわかるように、とても遠い国です。
国王であらせられたお祖父様と、領主のお父様、どちらも治める地を長期間離れることなどできません。
それゆえ双方が顔を合わせたことはもちろんなく、この数十年、手紙のやりとりだけの関係でした。
通信機が繋がり、どのようなお話をされたのか、その場に同席しなかった私にはわかりません。
ですがお話を終えられた後のお祖父様の愉快そうな顔を見れば、きっと有意義なときを過ごされたのでしょう。
◇
私たちはポーネの王宮に滞在させてもらいながら、ポーション生産を進め、その合間には街を散策したり、遺跡の見学に行ったりと、忙しくも楽しい日々を過ごしていました。
そんなある日。
お祖父様から「王宮に来た客人がお前たちに会いたがっている。同席してくれないか」と伝言がありました。
私とアルフお兄様は顔を見合わせます。
ポーネに知り合いなど居ないはずです。
どうすべきかと悩んでいると、
「いいじゃない。お父様がおっしゃってるのだから、怪しい人じゃないわよ」
そうお母様に背中を押されました。
確かにその通りです。
お祖父様がおっしゃるならば、私たちにとってお会いすべき人なのでしょう。
ーー
「失礼します」
入室した私は目を丸くしました。
「アルフレートにローラか! 大きくなったな!
ユリアちゃんは変わらねえな!」
「おじい様!? おばあ様!?」
そこにいらっしゃったのは、カーハインドの前領主であるおじい様と、その妻であるおばあ様だったのです。
おじい様はハイリお兄様が産まれて間も無く、お父様に領主の座を譲り、長年の夢であった商人になられました。
まだカーハインド領が苦しい頃は、よく領地に戻られて、新しい農作物の種を持ってきてくださったり、交易路のアドバイスをくださったりと、カーハインドの発展に大きな力を貸してくださいました。
しかし、最近ではとんとお戻りになられず、何年もお顔を拝見していなかったのです。
「あの二人なら、きっと元気でやっているさ」
お父様はそう言って笑っておられましたが、きっと本音では心配だったと思います。
もちろん私も他の家族も、それだけでなく領地の皆も心配していました。
「お元気そうで良かったです」
私は思わずおばあ様に抱きつきました。
「あらあら、心配させてたのね。
この人ったら商売に夢中になって、なかなかカーハインドに戻らないんだから」
「ははは、悪いな。カーハインドはもう大丈夫そうだったからな」
おばあ様に呆れた目で見られても、おじい様は意に返しません。
「な、ん、で、ポーネの、しかも王宮にいるのさ」
お兄様が眉を寄せます。
お兄様はお二人が大好きですから、帰って来られないことを人一倍心配しておられました。
「ユリアちゃんが嫁いできてくれた頃からの縁でな。
商人になってからはお得意様だ」
お母様が嫁がれた頃からならば、随分長いお付き合いですね。
「あなたたちも見たでしょう? ポーネの美しい伝統工芸品を。
この人もうずっとそれの虜なのよ」
おばあ様がおっしゃるように、ポーネの伝統工芸品は繊細で美しかった。
特に鮮やかな刺繍がほどこされた伝統衣装は、ポーネの歴史を感じられる素晴らしい逸品ばかりでした。
「商売を始めた頃、ここにユリアちゃんの絵を売りに来てな。ずいぶん儲けさせて貰ったなあ」
おじい様はガハハと笑われます。
「やだわ、お父様ったら。
私の絵と手紙を届けるために、わざわざポーネに向かわれたくせに」
お母様がくすくす笑われます。
「ああ。あのとき持ってきてくれた家族の絵は、今も私の自室に飾ってあるよ」
お祖父様は穏やかなお顔をしながら、懐かしそうに目を細められました。
「あれ以降もユリアに子供が産まれるたびに、新しい絵が届いてね」
「ええ。カーハインドにもポーネから出産のお祝いがたくさん届いたわ」
お祖母様もお母様も、記憶を振り返って嬉しそうです。
おじい様は国に帰れないお母様のために、商人として双方を行き来されていたのですね。
決して安全な道のりではなかったでしょう。
それでも何年も続けられた。
私がしみじみと感動していると、
「じいちゃん、ばあちゃん、とりあえず一回カーハインドに戻ってきてよ。僕らと一緒に飛行艇で帰ろう」
お兄様が前のめりにおっしゃいます。
しかし。
「ええー……」
おじい様は乗り気ではないようです。
お兄様は悲しげに眉を下げられました。
お兄様……
私に任せてください。
「おじい様! カーハインドは今、かなり栄えていますよ。それに”黄金酒"ってお聞きになったことありません?」
私はおじい様に問いかけました。
「ハイン商会が売り出してる酒だろ?いいもん作ったよなあ」
おじい様は領地におられましたから、当然ハイン商会の正体もご存知です。
黄金酒の話もご存知とは。さすがですね。
ですがーー
「……ではそのハイン商会が、帝国の皇帝陛下に献上した"琥珀酒"のことは?」
おじい様の眉がピクリと動きました。
「それに」
私は声をひとつ小さくしました。
「まだどこにも出していない、まぼろしのお酒があることは?」
「……」
「うん。そうだな。
一旦帰ろう。最近帰ってなかったからな」
おじい様の変わり身の速さに、私とおばあ様は顔を見合わせます。
ですがお兄様のお顔は明るくなりましたから、よしとしましょう。




