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side:ポーネ王国国王シエル
晩餐の後、私はユリアとメロディーをお酒に誘った。
「乾杯!」
「三人でお酒を飲むなんて、変な感じ」
メロディーがしみじみと呟いた。
ユリアは十五でカーハインドへ嫁いだ。
まだお酒を飲める歳でさえなかったものね。
もう二度と会えないかもしれない。
でも国を守るためには、他に取れる選択肢がなかった。
だから涙を堪えて送り出した。
天真爛漫で太陽のようだった妹。
妹が嫁いでから、王宮は……いえ、この国は火が消えたようだった。
それを思うと、こうしてまた会えたことが奇跡のように感じる。
気づけば、目尻を指でそっと拭っていた。
「やだ! シエルお姉様ったらもう酔ったの?」
そんな私を見て、ユリアが笑う。
その笑顔はあの頃と変わらない、私が大好きな明るい笑みで。
でもきっと、こうして笑えるようになるまでには、たくさん苦労もしたのだろう。
そう思うとまた熱いものが込み上げる。
気が付けば隣のメロディーも、そっと目尻を拭っていた。
「もう! やめてよお姉様方! 私はずっと幸せだったのよ」
「……ほんと?」
メロディーが震える声で問いかけた。
「ええ。旦那様は不器用な人で、最初はどうなることかと思ったのだけれど、お母様やお父様は最初から親切でーー」
私たちはユリアの話に耳を傾けた。
晩餐の席でも、ユリアはずっと明るくカーハインドでの話をしていた。
けれど、子どもたちの前だ。口にできない苦労もあるのだろうと気を揉んでいた。
だけど、どうやらそれは杞憂だったようだ。
旦那様との喧嘩話でさえ、こちらには惚気話にしか聞こえない。
「よかったわ。本当に幸せそうで」
メロディーが心の底から安堵したように呟いた。
マリアが嫁いで、誰よりも気落ちしていたのがメロディーだった。
『やっぱり私が行くべきだった』
『妹に全て背負わせてしまった』
そう言って自分を責める姿は痛々しくて、見ていられないほどだった。
「そうね。メロディーは『自分だけ幸せになんてなれない』って、大好きな彼からのプロポーズをずっと拒んでいたものね」
私がそう言うと、メロディーは恥ずかしそうに目を逸らす。
「ええっ!? そうだったの?
手紙にも"私は幸せよ"って書いたじゃない」
ユリアは目を丸くした。
「そんなの本当かどうかわからないじゃない」
唇を尖らせるメロディー。
「ユリアの描いた絵が話題になってからね、メロディーが落ち着いたのは」
私は過去に思いを馳せた。
あれはユリアが嫁いでから、ちょうど一年ほどが過ぎた頃だった。
諸侯外交会議にユリアの絵が展示され、その見事な出来栄えが大きな話題になっている、そう外交官たちが涙ながらに報告してきたのだ。
あのときは国中が安堵した。
「ええ。ユリアが絵を続けてる……続けられる環境にいるんだって知って、ほっとしたの」
「それで、やっと私もまた歌えるようになって」
「メロディーお姉様……」
ユリアは涙を滲ませて、メロディーの名を呟いた。
それが精一杯のようだった。
「結局プロポーズを受けたのは、ユリアの子供が産まれてからだったけれどね」
「もー、お姉様! あんまり言わないで」
「行き遅れになるんじゃないかって、冷や冷やしたのよ」
私たちは声を上げて笑った。
「でもお姉様だって。あのあと急に『留学に行く!』なんて行って、婚約者様放って行っちゃったじゃない」
「あれは……ポーネに足りないものを見つけたんだから、次期国王として行かなきゃならなかったのよ」
メロディーに言われて、私は言葉に詰まった。
ユリアが嫁ぐ原因となった外交問題。
どこか仲立ちしてくれる国があれば、あれほど拗れずに済んだのではないか、という思いが消えなかった。
だからポーネは、もっと他国との誼を結ぶべきだと思ったのだ。
「やっと帰って来たと思ったら、今度は『軍の再編だー!』って大騒ぎして。ほんとに心配したんだから」
「……それは悪かったけれど。でも、そのおかげで今ではポーネを侮る国も減ったわ」
私は改めてユリアに向き直った。
「だからね」
「もしカーハインドが危うくなったら、いつでも頼ってね」
「もう二度と、あなたを犠牲にしたりしないわ」
私の言葉に、ユリアは目を瞬かせた。
「私は犠牲になっただなんて思ったことはないわ。
カーハインドに嫁げて良かったと思ってるもの」
ユリアは照れたように目を細めた。
「だけど……心強いわ」
「ありがとう、シエルお姉様」
そう言うと、涙でくしゃくしゃになった顔のまま笑った。
私たちは夜が更けるのも忘れて話し続けた。
会えなかった時間を埋めるように。




