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お食事に誘っていただいて、私たちは晩餐室へとやってきました。
お祖父様、お祖母様、それに女王陛下ご夫妻までご参加くださった食事会は、その顔ぶれの豪華さとは裏腹に、終始和やかな雰囲気です。
使用人たちの表情にも、どこか明るい色が差しているようでした。お母様の帰郷を、皆が心から喜んでいるのが伝わってきます。
ポーネの美味しい料理をいただきながら、楽しい食事の時間は過ぎていきます。
お母様が幼い頃の思い出話を始めると、お祖母様や伯母様も懐かしそうに話に加わられ、時折晩餐室に響くほどの笑い声が上がります。
――やがて話題はそれぞれの近況へと移り、伯母様方のお子たちの話になったところで、お母様が残念そうにおっしゃいました。
「お姉様方のお子にもお会いしたかったわ」
女王陛下のお子様方は、国外へ留学に行っておられて不在だそうです。
「ポーネはもっと、国外との繋がりを密にしなければいけませんからね」
女王陛下のお言葉にお祖父様やお祖母様も大きく頷いていらっしゃいます。
ーー外交に力を入れてらっしゃるのでしょうか?
「長期休暇になれば帰ってくるわ」
「会うたびに大きくなっていて、私も楽しみなのよ」
陛下とお祖母様の話を聞いて、お母様が「私も会いに来るわ」とおっしゃった、そのときーー
バターンッ!
晩餐室の扉が激しい音を立てて開かれました。
「マリア!!」
呆気に取られる私たちの前に、涙を流しながら駆け込んで来られたのは、煌びやかなドレスを纏った華やかな女性。
「お姉様!」
弾かれたようにお母様が立ち上がると、女性はお母様の元に駆け寄り、ひしりと抱き寄せられます。
この方がお母様のもう一人のお姉様ですか。
「メロディー、落ち着きなさい」
「だって……だって……マリアが……マリアが……」
陛下が宥めても、メロディー伯母様は感情を抑えきれないようです。
「お姉様、私は元気です。
ずっと幸せに暮らしていましたわ」
お母様が伯母様の背を撫でながらおっしゃいます。
「そう……良かった……本当に……」
声を詰まらせるメロディー伯母様。
「……会えて嬉しいわ。お帰りなさい、マリア」
瞳から次々と涙を流しながらも、メロディー伯母様の顔からは笑みが溢れます。
ひとしきり涙を流し、伯母様が落ち着かれた頃、お祖父様がおっしゃいました。
「まさか今日来るとは思っていなかったぞ」
「ええ。あなた、いつもは呼んでもなかなか来ないのに」
お祖母様も驚いていらっしゃいます。
そうですね。気長にお待ちしましょうと先ほど話していたところですもの。
「うちに連絡をくれたでしょう?
旦那様が慌てて劇場まで駆けつけて伝えてくれたのよ。
私がずっとマリアに会いたがっていたこと、あの人知っていたから」
ずっとお母様のことを気に掛けてくださっていたのですね。
「劇場からそのまま来たからお腹ぺこぺこよ。
私の食事もお願いね」
メロディー伯母様はお母様の隣に席を用意させると、にこにこと食事を始められました。
一時はどうなることかと思いましたが、食事会に和やかな雰囲気が戻って良かった。
そう思っていたのに……
「あのね、ポーネでポーション作らない?」
お母様の唐突な一言に、場の空気がふっと止まりました。
皆の視線が一斉にお母様へ向き、しばしの沈黙――
そのまま、ぽかんとした表情が広がります。
「お母様、何も今話さなくても……」
「あらあ、だって皆んな揃ってるのよ?
一番のタイミングじゃない」
私は慌てて止めに入りましたが、お母様は意に介しません。
「今ね、カーハインドでポーション作ってるのよ。
それでサイブル帝国と提携することになったんだけど、ポーネもどうかなと思って」
周りが事態を飲み込めていないにも関わらず、お母様はどんどん話を進めてしまいます。
「ただポーションを作ると聖王国がね――」
「ちょ、ちょっと待って! ストップ!」
尚も話し続けるお母様を、席から立ち上がった陛下が片手を上げて制止されました。
「マリア……いえ、ローラ。
いちから、わかるように、話しなさい」
「はいっ!」
陛下の鋭い視線に、自然と背筋が伸びました。
私は帝国で行った支援のこと、その際に受けた聖王国からの被害のこと、そしてポーションを帝国と作るに至った経緯まで、出来る限り丁寧に説明しました。
時折飛んでくる質問に答えつつ話を終えると、皆が揃って「お腹いっぱい」と言いたげな顔をしています。
「えーっと……つまり。
この話に乗れば、自国でポーションが作れるのね?」
「はい」
陛下は片手で頭を抑えつつ、情報を整理されていきます。
「ただ懸念は聖王国からの嫌がらせ。
それと帝国が我が国の参入を認めるかどうか、ってことね?」
「いいえ。聖王国への懸念はその通りですが、帝国は問題ありません」
「なぜ? 帝国の利益に反するもの。お伺いは立てなければならないわ」
陛下は諭すようにおっしゃいます。
「帝国の皇帝陛下がおっしゃられたのよ。
他国を引き入れた方がいいって」
ここでお母様が口を挟まれます。
「道理が通らないわ。……どんな裏があるの?」
陛下は鋭い目をお母様に向けました。
「裏なんてないのよ。
帝国が暴走しないために、カーハインドを守る盾を増やせっておっしゃられたの」
お母様は笑っておっしゃいます。
「ローラ、説明して」
埒が開かないと思われたのか、陛下が私に話を戻されました。
ただ、説明してと言われてもお母様のおっしゃる通りなのですが……
「伯母様。ローラたちが直接乗り込んで、何ヶ月も帝国のために支援を続けたんだよ。
陛下は、恩を仇で返すことだけは出来ないって思われたんだ」
私が答えに瀕していると、お兄様が助け舟を出してくださいました。
「俄には信じられない話だけれど……
まあいいわ」
「あの、もしご不安がおありでしたら無理にとは申しません」
「今後、他国からポーションが販売されれば、ポーションの価格自体が下がると思います。
ですから自国で生産しなくとも、きっと今よりは手に入りやすくなりますから」
眉を寄せる陛下を見て、私は慌てて付け加えました。
しかしーー
「いいえ。参加させてちょうだい。
正式な返事は議会を通してからになるけれど、まず間違いなく承認されるわ」
陛下は力強く言い切られました。
「……よろしいのですか?」
「当然よ」
「我が国は調査のために、古い遺跡に入ることも多い。
当然、崩落事故が起こることもある。
ポーションが潤沢にあれば、救える命は飛躍的に増えるわ」
「聖王国との関係は間違いなく悪くなりますが……」
先ほどのお話からすると、ポーネは外交に力を入れているようでしたが。
「ポーションが自国で賄えるならば構わないわ」
「それに例え軍事的な圧力がかかっても、すぐに屈しない程度の備えはしてあります」
「ああ。この二十年、ポーネは力をつけた。
他国からの圧力にもそう簡単に負けはしない」
陛下のお言葉に、お祖父様が決意のこもった目で頷かれました。
まるで過去の何かを思い出しているかのように、強く拳を握っておられます。
……何かあったのでしょうか。
「それに我が国が参加することで、カーハインドの盾が増えるのでしょう?
もし反対する人が居たら、私がお説教するわ」
メロディー伯母様がにこりと微笑まれます。
優しい笑顔のはずなのに、何故か背筋がぞくりとしました。
「うふふ。じゃあ決まりね!」
お母様が嬉しそうに手を叩かれます。
「それにしても、飛行艇といいポーションといい、カーハインドはいつからそんな技術を持つようになったの?」
お祖母様が首を傾げておられます。
「それはここにいらっしゃるアルフお兄様のお力です!
お兄様は恐らく、世界で最も優秀な発明家ですから」
「ちょっとローラやめてよ!
ほとんどローラのアイデアじゃないか!」
私がお兄様の功績を誇ると、お兄様は慌てたように止めに入られました。
しかし私は気にせず続けます。
「お兄様の発明品をお土産としてたくさんお待ちしましたから、楽しみにしていてくださいね」
「おお、そうか」
「楽しみね!」
「私の分もあるの?」
食事会は再び和やかな空気を取り戻した後、お開きとなりました。
ポーネの過去になにがあったのか。
詳しいお話は
愛のない政略結婚だと思っていたのに、夫はそうではなかったようです ~辺境で描いた一枚の絵が王都を騒がせるまで~
で、お読みいただけます。
よろしければ、ぜひご覧ください!




