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「なるほどな。さすがは大国の皇帝」
陛下の提案を受けて、ハイリお兄様はすぐお父様に連絡されました。
お父様も陛下の決断に深く感服されたようです。
「どの国と誼を結ぶのか考えねばならん。
お前たち、そろそろこちらへ戻ってきてはどうだ?」
気が付けば随分長い期間、帝国に滞在しています。
復興もひと段落ついたので、そろそろ戻る頃合いかもしれません。
しかし――
「マルクお兄様がまだお帰りになっていません。
それにポーションの生産やロルフのこともありますし……」
ポーションは生産の目処は立ったものの、販売まではまだ漕ぎ着けていません。
それに次の地方視察の飛行艇には、ロルフが乗り込む予定です。
「何も全員で引き上げろとは言っていない。
だがお前たちが現場に居る時期は過ぎたのではないか?」
お父様のおっしゃることも理解できます。
「そうですね。カーハインドの状況も気に掛かります。
こちらには何人か責任者を置いておけば問題ないでしょう。
ローラもそれでいいな?」
「……」
ハイリお兄様はそうお答えになりましたが、私は素直に頷けません。
「……どうせローラのことだ。
途中で投げ出すようで気が引けるんだろう。
大丈夫だ。皇帝陛下と皇太子殿下には、通信機をお渡しする」
「……! 宜しいのですか?」
お父様の言葉に私は顔をあげました。
カーハインドの技術は、原則としてカーハインドの管理下でのみ使用を認めています。
特に通信機のような重要な魔道具を国外へ渡すことは、これまで許されていませんでした。
「構わん。それだけのものを示してくださった」
「ありがとうございます!」
それならば安心です。
引き継ぎもありますので、私たちは次の地方視察部隊が戻るのを待って、カーハインドに帰ることになりました。
◇
「レオ様!」
お戻りになられた視察部隊を出迎えます。
レオ様はこの数ヶ月、被災地で指揮をとっておられたからでしょうか。以前よりも精悍な顔つきになられたように思います。
「ローラ! 出迎えなんて珍しいじゃないか」
言われてみれば、視察部隊を出迎えたのは初めの一回だけだったかもしれません。
「実は、カーハインドへ帰ることになりました」
眉を下げるレオ様に、私は今までのことをかい摘んで話します。
「ですから、レオ様にも通信機をお渡ししますね。
何かあればご連絡ください。すぐに駆け付けます!」
「何もなければ連絡してはいけないのかい?」
レオ様は悪戯っぽく口角を上げられました。
「もちろん大丈夫です!」
私は微笑みます。
「通信機は便利ですからね。陛下との業務連絡にもぜひご利用ください」
「…………そういう意味じゃないんだけどな」
「?」
「……いや、ありがとう」
何故か項垂れたレオ様と共に、陛下とのお目通りのために城へと向かいます。
部屋にはすでに二人のお兄様と陛下がおられ、和やかな様子でお話しされているようです。
「レオニール、マルクス殿に迷惑をかけているようだな」
レオ様が入室した途端、陛下はどこか意味ありげに目を細められます。
その言葉にレオ様の足がぴたりと止まりました。
「さて、何のことでしょうか」
しかしすぐにいつもの笑みを浮かべると、何事もなかったかのように席へと向かわれます。
その様子を見ていたマルクお兄様は、笑いを堪えながら続けます。
「おかげで近衛の皆さんと仲良くなりましたよ」
「そのようだな。近衛からマルクス殿をレオニールの専属として引き抜けないかと打診があったわ」
「光栄です。ただうちにも暴走するやつが居ますんでねえ」
陛下と楽しげに話していたマルクお兄様の視線が、ふいに私へと向けられます。
なんでしょう? 私は小首を傾げます。
「……苦労しとるようだな」
陛下が苦笑しました。
「こちらは自覚さえありませんからね……」
マルクお兄様は眉間に手を当てます。
「その分抑えも多く必要です。マルクスを引き抜くのはご勘弁ください」
ハイリお兄様が苦笑しながらおっしゃいました。
マルクお兄様の引き抜きの話だったのでしょうか?
お兄様はカーハインドにとっても重要な方ですから、引き抜きは困ります。
「あいわかった。地方視察の間だけ頼む」
笑いながらおっしゃる陛下の言葉に、私は胸を撫で下ろしました。
早速、陛下とレオ様に届いたばかりの通信機を渡し、使い方を説明します。
魔石の交換こそ自国で行ってもらいますが、メンテナンスはもちろんカーハインドが請け負います。
そうした説明や、帝国に残していく者たちの衣食住に関する取り決め、さらには災害支援に伴う概算費用の書類などをお渡しし、今後の運営やポーション事業についての打ち合わせなどを行います。
――話が終わる頃、陛下とレオ様は私たちに深々と頭を下げ、感謝の言葉をくださいました。
私たちは慌てて「頭を上げてください」と声をあげましたが、お二人はなおも頭を下げ続けられます。
そしてようやく顔を上げた陛下は、静かに口を開かれました。
「この恩は忘れぬ」
陛下の想いのこもった言葉に、私たちも深々と頭を下げ返したのでした。




