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side:レオニール
やっと支援部隊のメンバーが決まった。
皇太子部隊を作るという慣れない試みとはいえ、ここまで揉めるとは予想外だった。
平時であれば王族は近衛と共に動く。
だが今回は地方支援ということもあり、近衛を大勢連れて行っても仕方がない。
あいつらの役目は俺の護衛であり、被災地支援のための人員ではないからな。
……それに護衛が増えると俺が動きにくい。
有事の際にすぐに動ける実働部隊を平時から作っておきたいな……
皇太子部隊をこのまま維持できないだろうか。
そんなことを考えながらマルクス殿の元へ向かう。
ーーあの空挺降下のとき以来、俺はあの人に頭が上がらない。
だが、俺を皇太子ではなく一人の人間として扱うマルクス殿とのやり取りは、不思議と嫌いではなかった。
「マルクス殿! 」
彼を見つけて声を掛ける。
「おう。レオか。
部隊が決まって良かったな」
マルクス殿はニカッと笑った。
「ええ。なんとか決まりました。
そこで少し相談があるのですが……」
「なんだ?」
「空挺降下の際に、毎回カーハインドの者に補助についてもらうのは申し訳ありません。
部隊の者だけで飛べるよう、短期間でも訓練をしたいと思っているのですが、協力してもらえませんか?」
そう。俺はこの人に協力要請に来たのだ。
支援に向かう前に、少しでもカーハインドへの負担を減らしたい。
自国でできることは自国でやるべきだ。
そこでまずは空挺降下の際の補助をなくせれば、と考えたのだ。
だが、空挺降下の訓練をするためには、飛行艇を飛ばしてもらわなければならない。
なにより飛び方の指導も必要だ。
俺が飛び降りる前。
あのときローラは"マルクス殿はカーハインドでも随一の腕がある"と言っていた。
ならば彼以上に適任者は居ないだろう。
そう判断してマルクス殿に頼みにきた。
しかし――
「これ以上隊員を減らしたくないならやめとけ」
マルクス殿は申し出を受けてはくれなかった。
どうして……
「今回の部隊は、補助があれば空挺降下が出来る者だけを選びました。
訓練から逃げ出すような者は居ません」
訓練を始めたからといって、隊員が減るようなことにはならないはずだ。
「あのな、人に抱えられて飛ぶのと、一人で飛ぶのは全然ちげーの」
なおも食い下がる俺に、彼は眉を下げた。
「飛びながら目的地に向けて風を読んで、適切なタイミングでパラシュートを開く。それもあの速度の中だ」
「難しいのは承知しています!
だからこそ訓練を……」
「――失敗したら死ぬかもしれねえんだぞ?」
俺に向ける視線が鋭くなった。
「俺らがどれだけ訓練積んで一人で飛べるようになったのか、知らねえだろ?」
納得いかない顔をする俺に、マルクス殿は一つ息をつくと話し始めた。
「俺らはな、飛行艇が出来上がる前から訓練初めてんだ」
「出来上がる前からですか……? どうやって?」
目を瞬かせる俺にマルクス殿が語ってくれたのは、驚きの内容だった。
「最初は座学だ。見たことも聞いたこともねえもんから飛ぶためのな。
仕組みから対処法、装備の点検方法に始まり、姿勢の取り方やら着地の仕方まで徹底的に叩き込まれた」
訓練を思い出すように、彼は遠い目をしていた。
「座学の試験に合格したら、建物の上から飛び降りろって言われてな。
下には分厚い布が敷いてあるが、普通なら怪我しかねねえ高さだ。それを『学んだ通り飛べば大丈夫です』なんて笑顔で言われてよ……」
「え……」
「他にも宙吊りにされたりもしたな……。挙げ句の果てには"崖の上から飛び降りろ"だ。命綱が付いているとはいえ、下を見たら足が竦むぞ」
崖の上から?
想像しただけで背筋が寒くなった。
「それをクリアした奴らだけが飛行艇に乗れた。だが、今度は飛行艇での訓練だ」
そう言って大きなため息をついた。
「……よく従いましたね」
「まあな。文句を言おうにも、教官が先にやるんだ。『大丈夫です』なんて笑顔でな」
そこでマルクス殿はこちらを見てニヤリと笑った。
「わかるか? 教官はお前もよく知ってる奴だよ」
「……?」
教官役などマルクス殿以外に思いつかないが……
全く検討のつかない俺を見て、彼はさらに笑みを深めると、言った。
「ーーローラだ」
「まさか!?」
「だよな。信じられねえ気持ちはわかる。
見てきた俺らだって、未だに信じられねえぐらいだからな。
だが、教官がローラだったからこそ、俺らは訓練を辞めなかった。いや……辞められなかった」
虚ろな目をして語る彼の言葉が信じられない。
「ローラが先頭に立って指導した。
『カーハインドのためならなんでもやります!』って奴らを集めてな。
それでも結構な数の脱落者が出たんだ。
それくらい空挺降下の訓練は過酷だ」
未だに唖然とする俺を見て、彼はくすりと笑った。
「短期間でどうにかなるもんじゃないってわかったろ?
今後帝国に飛行艇が配備されるならともかく、今回のためだけに訓練する必要なんかねえよ」
「……! 配備されるんでしょうか?」
「そんなこと俺は知らねえ。そーゆー話は兄貴にしてくれ」
思わず声を上げた俺に、マルクス殿は肩を竦めた。
「とにかく、俺らが帝国の兵に求めるのは一つだけ。共に飛ぶ時に、冷静でいてくれればいい」
そう言って去って行こうとしたマルクス殿だが、ふと足を止めると振り返った。
「どーしても訓練したいなら、ローラ教官に頼むんだな」
それだけ言い残すと愉快そうに喉を鳴らしながら、今度こそ彼は去っていった。
俺は空挺降下の訓練を甘く見ていたようだ。
だがそれ以上にローラのことを見誤っていた。
彼女が深い知識を持っていることは知っていた。
常に領のことを考えて動いていることも。
だが飛行艇から飛び降りるような危険な訓練まで積んでいるとは想像もしなかった。
それも、自ら教官を務めるほどの腕前だとは。
あまりの衝撃に、去っていくマルクス殿を呼び止めることもできず、呆然と見送ることしかできなかった。
――俺はまだ、ローラのことを何も知らないらしい。




