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その後、通信機でお父様にことの些細を説明すると、呆れたようにため息をつかれました。
しかし、「だが、悪い手ではない」と許可を出してくださったのです。
お父様も、聖王国の他にカーハインドだけがポーションの製造法を握っている現状を、決して健全とは考えておられなかったようです。
カーハインドは小さい。それに聖王国のようにポーションを主産業にしている訳でもない。
今回は実験の最中ということもあり豊富な備蓄がありましたが、常に今のような量を生産し続けるには人手が足りません。
それに原材料の調達の問題もあります。
特に月光草は、"見た目の美しい毒草"というのが世間一般の認識です。
生命力が強いため、山間部に分け入れば簡単に見つかりますが、世間ではただの毒草と認識されているため、交易品として広く流通しているわけではありません。
現在はカーハインドに自生しているものに加え、「毒素が除去できれば観賞用として価値があるかもしれない」と説明し、一部を研究目的で買い付けています。
最近は領内で栽培も始めましたが、カーハインドだけで永続的に必要量を賄うのは難しいでしょう。
かといって他国から継続的に買い集めれば、「毒草を何に使うつもりだ」と疑念を招きかねません。
しかし国土が広く、人材も豊富な帝国と提携できれば、その問題も解決できます。
お父様からの正式な許可が降りましたので、業務提携に向けて動き出しましょう。
ーー
ハイリお兄様と共に業務提携の計画書を作成していると、研究員から追加の報告が届きました。
それによると、間者が所持していた解毒薬の入っていた瓶は、聖王国のポーション瓶だったということ。
そして毒を飲まされた民の近くに落ちていたのも、聖王国のポーション瓶だったそうです。
中には民が飲まされたと思われる毒が付着していたそうですから、間違いなく間者が用意したものでしょう。
ポーション瓶からは指紋の採取も出来たとのことですから、見回りの兵に、怪しい者を見かけたら指紋を採取するよう通達しましょう。
早急に帝国内に潜む聖王国の手の者を見つけ出さねば、また民が危険にさらされるかもしれません。
それと闇市から回収されたポーションですが、回収できたのは三十二本。そのうちの七本に、毒物が混入されていたそうです。
やはり闇市に流しているポーションにも、毒物を混入していたのですね。
ただ備蓄用に置いている者が多く、なかなか事件が起こらなかった。
事件を待っている内に仲間が捕まり、焦った犯人が民に直接毒物を飲ませた。と、そういうことでしょうか。
現在、備蓄庫では手の空いている者が総出で、空のポーション瓶の確認をしています。
すり替えられた本数を明らかにするためです。
彼らが、得たポーション全てを闇市に流していたのだとすれば、すでに相当数のポーションが闇市から購入者の手に渡っていることになります。
金銭にゆとりのある者は、自ら買いになど行かない者が大半でしょう。人をやって買いに行かせたのだとすれば、購入者の絞り込みは難しいでしょうね。
それに帝国を始め多くの国では、ポーションの販売は許可制です。
購入者に罰則はないといえ、許可のない闇市で購入したなど大きな声で言えるものではありません。
立場ある者ほど口を噤むでしょう。
そうなると闇市に流れたポーションを全て回収するのは、現実的ではありません。
せめて周知して、使わないように呼び掛けてもらわねばなりませんね。
そんなことをお兄様と話しながら、帝国の広大な国土にどう周知すべきかと考えていたとき、ふと、一つの疑問が浮かびました。
「そもそも、被害を受ける可能性があるのは闇市に出入りする者たちだけではありませんか?
こんな時にわざわざ闇市まで足を運べるのは帝都近郊の者たちくらいでしょう。その辺りにだけ周知すれば十分では?」
「まあ、直接買いに来る者はそうだろうね。
ただ、その者が自分で使うとは限らないよ」
お兄様は書類に落としていた視線を私へ向けました。
「……どういうことですか?」
「こんなにポーションが潤沢にあるのは、カーハインドが支援している帝都だけだ。
他の領地では、平時以上に手に入りにくくなっているだろう。
行商人が買い付けて他所へ流していたとしても、私は驚かないよ」
お兄様の言葉に、背筋に冷たいものが走ります。
「ですが被害が大きかったのは帝都だと……!」
「そうだ。"大きかったのは"帝都だ。
だが他の領地に被害が出なかった訳ではないよ。
それに帝都から離れた地ほど、十分な備蓄を確保できていない所も多いだろう」
どうしましょう。確かに他領から支援の申し入れがあったと聞いています。
しかし私は、それをカーハインドの技術を目当てにした申し入れだと思い、レオ様がお断りされたと聞いてほっとしていたのです。
もし本当に切羽詰まっての申し入れだったとしたら……
「レオ様のところに行ってきます!」
「待ちなさい、ローラ」
席を立ちかけた私を、お兄様が呼び止めました。
「今の話はあくまで可能性だ。まだ支援が必要な地があると決まったわけじゃない」
「ですが……!」
「それに帝都の支援と、帝国各地の支援とでは意味が違う」
お兄様のおっしゃる意味がわからず、私は首を傾げます。
「私たちが他国の者だと勘付いている者も多いだろう。
だが、帝都は災害の中心地だ。国外に支援を求める理由も立つ」
お兄様は一つ息をつかれます。
「しかし、他領の支援までカーハインドが担うとなれば話は別だ。帝国が"自国の民を救えない"と認めることにもなりかねない」
「それは……」
「ローラが支援をしたいと申し出たところで、帝国側の事情で受け入れられないこともあるということだ」
「ですが、事情があるからといって放っておくわけには……」
「そうだね。だからレオ殿下と話すときには、他領の窮状だけでなく、帝国側の事情も考えて話さなければならないよ」
「わかりました。お兄様、ありがとうございます」
私はお兄様に頭を下げると、今度こそレオ様の元へ走り出しました。




