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王都への出立は一月後に決まりました。
今日は王都に持ち込む機器のメンテナンスのために、研究所にあるアルフお兄様の研究室に来ています。
初めは私の知識を元に、アルフお兄様が自室で細々とした機器を作ってくださっていました。
ですが、お兄様があまりに優秀だったため、次から次へと新しい発明品が生まれ、気付けば部屋がすっかり埋まってしまったのです。
さすがにこれでは、秘密保持の面でも問題があります。
そこで新たに建物を作り、研究室を設けることになりました。
当初、研究室の建物はアルフお兄様しか使わない予定でしたので、領主邸の隣に建て、領主邸に勤める者が交代で研究室のお世話もする予定でした。
しかしお父様が、
「研究室ではなく研究所にすべきだ。アルフレートだけに負担をかけず、新たな研究者も育てなければならない」
とおっしゃったことで、当初の予定の三倍の規模の建物と、実験のための広い庭が設けられた立派な施設が、領主邸の隣に出来上がることになりました。
両属ではとても回せない規模になったことで、新たに信頼できる警備兵や世話係、下働きの人々を雇い入れ、今では領主邸以上に多くの人が働く場となっています。
そしてそのときに集められた研究者の卵たちが、今ではアルフお兄様顔負けの研究者となり、様々な研究室や実験場、工房などで活躍しています。
建物を大きく作り雇用を生み出し、研究者を育てる選択をしたお父様の慧眼は確かでしたね。
もちろんカーハインド領の頭脳とも呼べる最重要施設ですから、領主邸と共に最大限の警備網が敷かれています。
ーー
「通信機がきちんと作動するか、それだけが心配だね」
アルフお兄様が生み出した発明品の中でも、最大の功績と言われている通信機。
これは遠く離れた人との会話が可能になるもので、元になったのは私の知識です。
と言っても、私が知る通信機はこの国では見つかっていない素材や技術が必要なものも多く、そのままでは再現できませんでした。
それを再現可能なまでに落とし込み、作り上げたのですから、アルフお兄様の凄まじさがわかりますね。
しかし通信機は機密中の機密。諸国を旅する商人に預けて通信テストをする訳にはいきませんから、王都から領地への通信実績はありません。
代わりに船で海に出て、王都から領地以上に距離の離れた場所からの通信テストは行っていて、問題なく通信ができています。
ですから王都からでも大丈夫だとは思うのですが……
もちろん絶対とは言い切れません。
通信機が使えなかったときを考えて、手紙鳥も持ち込みます。
こちらもアルフお兄様が作ってくださったもので、従来の人の手による配達とは比べ物にならない速度で、遠方に手紙が送れる便利な機器です。
あとレーザー盗聴器とジャミングポインタは必ず持っていきたいですね。火薬類はどうしましょうか。
便利な機器はできるだけ多く持ち込みたいところですが、王都の者に露見すると大変ですから、不自然にならない程度に自重しなければなりませんね。
◇
side:アルフレート
僕の可愛い妹が王都に行く。
僕もついていきたかったけど、母上に止められた。
確かに僕はコミュニケーション能力がないし、演技も苦手だから、足手纏いかもしれないけど。
元々僕は兄上二人に比べて頭も要領も悪くて、領地のお荷物になってるんじゃないかって不安を抱えて生きいた。
でもそんな僕にローラは役割をくれたんだ。
「こんな機器が欲しいんです」
「この材料があればこれをこうすれば作れるんですけど、これがないみたいで……」
「アルフお兄様、ここはどうすれば良いと思いますか?」
そんな風に僕を頼ってきた妹。
ハイリンヒ兄様でもマルクス兄様でもなく、一番に僕を頼ってきた妹。
初めは理解ができないことも多くて失敗ばかりだったけど、ローラの期待に答えたい一心で打ち込んで、今では国一番の研究者、なんて言われるほどになった。
それだってローラが必要な情報や的確なアドバイスをくれたから成し得たことで、僕一人では無理だっただろう。
なのにそんなローラが誰よりも僕を称賛して、僕の名声が上がるのを自分のことのように喜ぶんだから、困っちゃうよね。
自分のおかげだなんて露ほども思ってないんだ。
僕の可愛い妹は、自分がどれだけ特別な存在なのかイマイチ理解していないようだから不安になる。
知識を沢山持っているからじゃない。
ローラの前向きさ、優しさ、強さに救われてる人がいっぱい居るんだ。
僕が付いていけない以上、僕の発明品がローラを守ってくれるように念入りにチェックしよう。
どうか無事に帰って来て欲しい。




