7
それにしても、もしロルフの言う通り、宰相がこちらの富だけでなく王族の婚姻問題の解消も狙って婚約を持ちかけてきたのだとすれば、ますます厄介なことになりますね。
こちらに富がないと示すだけでは引かないかもしれません。
輿入れの費用がない、婚姻後の生活が成り立たないと訴えたところで、せいぜい暴利での金の貸付を提案してくるぐらいでしょう。
婚姻後、私がいくら生活に困ろうが、宰相にとっては痛くも痒くもないですからね。
それにマリウス王子はもう十七歳。
適齢期の王族が婚約者の一人もいないというのも世間体が悪い。
体面を取り繕うために、とりあえず私を婚約者として据えようとするかもしれません。
婚姻はもちろんのこと、婚約もお断りです。
王族の婚約者となれば王都への滞在を余儀なくされ、カーハインドの改革が止まってしまうかもしれません。
とにかく正式に婚約が整うまでに、相手に非がある形でこの話を流してしまいたい。
お父様の意見に反する形になるのは申し訳ないですが、やはり一度は私が王都に出向くべきでしょう。そして早急に解決してしまいたいですね。
それにこの問題を上手く解決できれば、今後は王都からの横槍をかわしやすくなるかもしれません。
「皆様、お忙しいところ申し訳ありませんが、当面この問題の解決を第一に動きます。ご協力をお願いします」
「シル、エルザ、ロルフ、一緒に王都まで行っていただけますか?」
「もちろん」
三人とも即座に返事を返してくれました。
「ありがとう。心強いです」
「留守をお願いする皆様にも王都の動きは逐一お伝えする予定ですので、なにかご意見やご懸念があれば、伝えてくださいね」
「留守はお任せください」
「気ぃつけてな」
「お前ら嬢ちゃんを頼んだぞ」
アンヌ様とロルフとイヴァンが居れば、領地は大丈夫でしょう。
あとはお父様――は、領地を離れらませんから、誰かお兄様が付き添いしてくださると心強いですね。今日の晩餐のときにでも話してみましょう。
◇
「――ということで、王都に行こうと思います。お兄様方、誰か付き添いをお願いできませんか?」
「「「行こう」」」
三人のお兄様全員が声を揃えて同じお返事をしてくださいます。
「ふふふ、お気持ちはありがたいのですが、領地のこともありますし、誰かお一方来てくだされば良いのですよ」
お兄様全員が来てくださればこれほど心強いことはないですが、それはさすがに贅沢が過ぎるというもの。
「では私が行こう。父上の代わりを務めるとすれば嫡男である私が適任だ」
と、長男のハイリお兄様。
「いや、少人数で移動するのだろう? 護衛もできる俺が行くべきだろう」
と、次男のマルクお兄様。
「いやいや、最新機器も持って行くんでしょ? なにかあればメンテナンスできる僕が行くべきでしょ」
と、三男のアルフお兄様。
どうしましょう。皆笑顔ですが空気が不穏です。
「う〜ん、今回はマルクちゃんが行きなさい」
私が悩んでいるとお母様がそう助け舟を出してくださいました。
「道中の安全確保ももちろんだけれど、マルクちゃんは王都で沢山お友だちを作って遊ぶといいゎ〜」
「ははっ、なるほど。確かにそれならマルクスが適任ですね」
ハイリお兄様は納得してくださったようです。
「困ったことがあったらすぐ連絡しなよ、いつでも行けるように準備しておくから」
ふふ、アルフお兄様は少し不満気ですね。
皆の気持ちがありがたいです。
「お父様、お気遣いくださったのに申し訳ありません。やはり私が自分で王都に行って参ります」
最後にお父様にもきちんとお伝えしておかなければ。
「そうか、お前が決めたのならそれでいい」
お父様はゆっくり頷くと、私の目を見据えました。
「ただ一つだけ約束してほしい」
「領地のことはもちろん大切だが、お前はまず自分自身のことを一番に考えるように」
「判断に迷うことがあれば、領地がどうなるかよりもお前がどうしたいか、どうなりたいかを考えて決めるんだぞ」
お父様……ありがとうございます。
「そして必ず無事に帰ってきなさい」
「はい! 必ず」
「マルクス、頼んだぞ」
「ああ、任せてくれ。必ず無事に連れ帰る」
「マルクちゃん、王都に行ったらその言葉遣いじゃだめよ」
「……母さん。大丈夫だ。わかってる」
さすがお母様。真面目な雰囲気をぶち壊しましたね。
マルクスお兄様の苦々しい顔にハイリお兄様もアルフお兄様も忍び笑いしています。
私も思わず笑ってしまいました。
またここで、家族と笑い合えるように頑張りましょう。




