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そもそもカーハインド領では諜報や情報漏洩を防ぐため、他領からの訪問者には入域許可証の取得を義務付けており、名前や所属、滞在目的などを確認しています。
しかし教会に所属する者や身分ある者が訪れる際は、大勢の世話役を連れているのが当然です。
そのため、本人や使用人頭など代表者のみに許可証を発行し、その他の者には原則として領内での自由行動を認めていません。
それでも大勢の世話役一人一人を監視することなど現実的ではありません。
そのため実際には決められた建物から出ていないかを監視している程度で、許可証を発行した者よりも必然的にチェックが緩くなってしまうのが現状です。
教会がどこまでこちらの防衛システムを理解して、わざわざ世話役の中に間者を紛れ込ませたのかはわかりません。
しかし、もし狙ってのことだったとしたならば、頭の切れる者が居るということになります。
今回のように間者を紛れ込ませる者が現れるならば、このシステムも考え直さなければなりませんね。
ーー
領地の防衛対策のことは一先ず置いておいて、今は婚約の話です。
まずわかったことは、王都もこちらの現状に確証がある訳ではないということ。
なんらかの噂を聞いて、念のための保険として婚約話が持ち上がったのでしょう。
であれば縁談のお相手は誰でしょうか。
「第三王子か第五王子あたりじゃねぇ?」
「そうだな。王太子である第一王子とスペアである第二王子はありえない」
「第四王子は生まれつきお身体が弱いようですしぃ」
ルーカスの意見にシルとエルザも異論はないようです。
現在王家が公式に発表している王子は七人。
そのうち第六王子と第七王子はまだ七歳と三歳。さすがに十五歳の私との婚約はありえません。
第五王子もまだ十二歳ですから、年齢的な釣り合いで考えると十七歳である第三王子、マリウス王子の可能性が高い。
「マリウス王子のお人柄ってわかります?」
「おいおい嬢ちゃん、人柄がよかったら王家に嫁ぐってのかよ」
私の問いかけにイヴァンが慌てて口を挟みます。
「まさか。ただ人柄がわかれば作戦も立てやすいでしょう?」
「なんだよ、驚かすなよ」
イヴァンの慌てぶりに場の空気が弛みます。
「マリウス王子は王都でもあんまり評判がよくないわねぇ。王太子である第一王子に敵意を持ってるそうよぉ。
自分の方が王太子に相応しいって思ってるみたい」
エルザの報告に皆がなんとも言えない顔します。
「腹の中で何を思おうが自由だが、周りに伝わっちまってるようじゃあなあ……」
ルーカスの言う通りですね。
何を思っても信頼できる人の前以外では顔には出さない。為政者の基本です。
それすらできていないようではたかが知れています。
まあもしかしたら彼が信頼している人が情報をリークしている可能性もありますが、それならそれで人を見る目がないということ。
どちらにしても大した相手ではなさそうですね。
「というかこれさぁ、見ようによっては王家の不良債権を押し付けたようにも見えない?」
そうこぼしたロルフに、皆の視線が集まります。
「うちが実際に豊かなら、この婚約を足掛かりに奪い尽くす。そうでなかったとしても王家の結婚問題が一つ片付く」
「向こうにとってはどっちに転んでも損はないよね」
ロルフの言う通りかもしれません。
今の王家には力がなければお金もない。
政治を院政家に任せすぎた結果、王家としての発言力が低下し、集まるはずの税も中抜きされ放題なのが現状。
それでも歴史と権威だけは高いので、王族の婚姻には複雑な手順があります。
さらに納める品にも格式が必要で、嫁ぐ側にかなりの費用が発生します。
当然そんな内情を知っている王都の貴族家には、王家に嫁ぎたい娘も、嫁がせたい親も多くはありません。
しかし王家の者に婚姻相手が居ないなど、周辺国に知られれば恥辱もいいところ。
「そもそも王族の数が多すぎるのが問題ではないでしょうか。
王族というだけで一定の品位保持費が働かずして受け取れますから、誰も王籍を離れません」
アンヌ様の言うようにこれも問題ですね。
王族が貧しいと言っても民のように食うにも困る訳ではもちろんありません。
贅沢品を買い込まなければ、与えられる品位保持費だけで充分暮らしが成り立つのです。
そして王家に子が産まれるたびに、品位保持費の増加分として地方から王都への税が増やされます。
……なぜか逝去されても減らされることは稀ですが。
しかしこの品位保持費、王族と婚姻を結んでも新たに受け取れるのは王の妃となったものだけ。
それ以外の王子の妃は、婚姻後も実家からの援助で暮らさなければなりません。
地方への負担を考えれば当然の制度ですが、妃を出す家からすれば負担ばかりが増える形となり、ますます王族との婚姻を願うものが減っているのが現状です。




