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「この崩落事故があったという日に来た者について、話が聞きたいのですが」
私はまず、一番直近にこの集団の治療を行った、カーハインドの医師に話を聞きに行きました。
「ああ、この日は大変でした。
十人ほどの男が、大騒ぎしながらやってきまして」
医師は小さくため息をつきます。
「見れば傷は大きくないのですが、周りが紫色に変色していましてね」
「紫色……」
レオ様がぽつりと呟かれました。
「なんでも崩落事故の際に救助に時間がかかり、患部が長時間瓦礫に挟まれておったのだとか。
このまま血流障害が進めば、組織が壊死する恐れがあったので、ポーションの使用を許可しました」
なるほど。長時間血流が阻害されていたならば、壊死の可能性は十分考えられます。
傷が浅くとも、ポーションを使ったのは正しい判断だと言えるでしょう。
「その者はポーションで回復したのですか?」
「ええ、しばらくすると変色がなくなりました。傷自体は小さなものでしたし、私も変色の方ばかり気にしておりましてね。患者本人も早く作業に戻りたがっておりましたから、傷の方ははっきりとは確認しておりませんが……
患者本人も『もう大丈夫だ』と言っておりましたから、危険は去ったものと判断しました」
次に帝国の医師に話を聞きに行きます。
不安気な顔をする医師に、「あなたを疑っている訳でも責めに来た訳でもない」と伝え、崩落事故のときに来た者を覚えているかと尋ねます。
「覚えています! 騒がしい集団でしたからね。
それにあんなにまとまって怪我人が出たのは、久しぶりのことでしたから」
医師は大きく頷きました。
「ポーションを使ったのか?」
レオ様が鋭い目で尋ねると、医師は目を泳がせます。
「……はい、使用しました。
……いけませんでしたか?」
「いいえ。ただどのような症状に使用したのかを確認したかっただけです」
落ち着いてくださいという気持ちを込めて、レオ様の腕をぽんぽんと二回叩くと、レオ様は気まず気に目を逸らされました。
「あの者たちは皆、長時間瓦礫に挟まれていたそうで、患部が紫色になっていたのです。経験上、ああなった者はそのまま患部が駄目になり、切断を余儀なくされることもあります。それを防ぐためにはポーションが必要だと判断したのですが……」
この医師も同じ判断をしたのですね。
私はレオ様をちらりと見上げます。
「お前の判断は正しい。
ポーション使用になんら問題はない。
ところで、その者たちはポーションできちんと回復したのか?」
今度は務めて優しい声色で問いかけられました。
「ええ。紫色だった肌がちゃんと元に戻りました」
医師はほっとしたように答えました。
他の医師に聞いても皆、おおよその話は同じでした。
崩落事故が起きた、救助に時間がかかった、患部が紫色に変色していた、そしてポーションで変色が治った。
確かに崩落事故は起きています。
しかし救助部隊の話では、長時間瓦礫に挟まれたままになるほど、救助が難航したことはないと言いいます。
それに、診察に現れた者たちは毎回ほぼ同じ顔ぶれだったようです。
その場にいた医師や看護師に話を聞いたところ、髪色や容姿の特徴が一致していました。
いくら復興作業に従事しているとはいえ、同じ者たちがそう何度も崩落事故に巻き込まれるとは考えにくいでしょう。
この者たちが怪しいという意見は皆一致しました。
ならば患部の変色は見間違いでしょうか?
いいえ、薄暗い中での診察ならまだしも、魔道灯で十分に照らされた環境です。汚れと変色を取り違えるとは考えにくい。
それに多数の医師が診ても、誰も違和感に気付かなかった。
つまり、変色は実際に起こっていたと結論づけるのが自然です。
ですが、その変色が本当に組織の壊死を疑うほど危険なものだったのかは、別の話です。
医師は患者の証言から血流障害を疑ったのでしょう。しかし、その証言自体が虚偽であったなら、変色の原因もまた別にあったと考えるべきです。
この集団は月に二、三度のペースで現れていますが、同じ救護所を二度訪れることはほとんどありません。毎回、別の救護所で治療を受けるようにしているようです。
その行動には明確な規則性が見られます。少なくとも行き当たりばったりの犯行ではなく、組織的に行われていたと考えるべきでしょう。
この集団がいつからこの方法でポーションを掠め取っていたのかは、まだわかりません。
支援を開始した頃は、ポーションの管理が杜撰だった救護所もありました。
管理を厳格にしてからも、怪我人が落ち着くまでは、まとまった量のポーションが使用されることも珍しくなかった。
しかし記録で確認できるだけでも、彼らの掠め取ったポーションはゆうに三十本を超えます。個人の犯行で扱える量ではありません。
どうやって患部を変色させたのか。
そして、一体誰が糸を引いているのか。
まだわからないことは山積みです。
しかし、この集団を捕らえることができれば、真相に迫ることができるでしょう。
彼らはまた必ず現れる。
その時こそ尻尾を掴んでみせる。
私たちは彼らを待ち構えることにしました。




