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side:レオニール
「皇……太子……?」
唖然とした顔で俺を見るマルクス殿。
「改めてご挨拶させていただきます。
サイブル帝国皇太子、レオニール=サイブルと申します。
カーハインドの皆様には、引き続きお世話になります。
よろしくお願いいたします」
背筋を正して頭を下げると「ええー……」という消え入りそうな声が聞こえた。
正体を明かすつもりなどなかった。
だが、俺の名で支援を行う以上、隠し通すのはもはや不可能だ。
こんな場で明かすことになり申し訳ない思いだ。
しばらくは混乱が続くだろうと思ったのだが――
顔を上げたとき、マルクス殿の顔からは困惑の色が綺麗に消えていた。
その変わり身の早さに、こちらの方が戸惑う。
それどころか彼はその場で静かに膝をつき、丁寧に頭を下げた。
「数々のご無礼、お詫びいたします」
その精悍な姿に背筋が震える思いがした。
「顔を上げてください。
礼を失したとは思っていません。あなたは当然の務めを果たしただけです」
「そうだ。身分を隠していたのはこの愚息だ。
気にすることはない。
それに君には支援の間、此奴の手綱を握っていてもらわねば困る」
陛下は笑ってマルクス殿の肩を叩いた。
「……荷が重いです。
念のため、予備の手綱も用意してよろしいですか?」
「ん?」
「カーハインドに連絡を入れさせていただきたい」
「それはもちろんだ。
支援の話も通しておかねばならん」
眉を下げるマルクス殿と、機嫌の良さそうな陛下。
ここで俺が口を挟んだ。
「ですがカーハインドまでの道は、まだ塞がれているのでは?
飛行艇を戻しますか?」
「いえ、それには及びません」
マルクス殿は懐に手を入ると、四角い何かを取り出した。いくつか魔石が付いているところを見るに、魔道具か。
また新しい魔道具……
思わず半眼になる俺と、興味深そうに覗き込む陛下。
その前で何やらボタンを押し、横についているダイヤルを回すマルクス殿。
何が起こるのかと訝しんだそのとき――
『マルクスか?』
魔道具から男の声が聞こえて、俺は腰を抜かしそうになった。
「おー、兄貴。許可は得たぞ」
『本当ですか!?
ではもう支援を始めても?』
目を見開いていると、今度は弾んだ女性……ローラの声が聞こえた。
「もしかしてこれは……」
「はい、通信機です」
『今レオン様の声が聞こえましたね!
レオン様、ポーションの――』
「ちょっと待て、ローラ」
『落ち着きなさい、ローラ』
早速支援の予定を話し始めようとするローラに、二人の兄からストップがかかる。
「くっくっく……」
その様子に、陛下が喉を鳴らしておられる。
「いくつか話しておかなきゃいけねえことがある」
陛下に向かって肩をすくめたマルクス殿は、落ち着いた声で話し出した。
「まず、カーハインドの支援は皇太子殿下の名の下に行うことになった」
『皇太子……』
『……信頼できる方なのですか?』
通信機の向こうの声が、不安気に変わった。
皇太子の判断次第で、カーハインドが危険に晒される可能性もある。心配するのも当然だ。
「そこでもう一つの知らせだ。
皇太子殿下、ご挨拶いただけますか?」
マルクス殿が悪戯をする前の子供のような顔をして、俺に軽く頭を下げる。
そこにいるのかと慌てる声が聞こえる中、俺は深く息を吸った。
「……ご挨拶させていただきます。
レオン改め、レオニール=サイブルと申します。
カーハインドのことは、私が必ず守ります。
支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします」
『……へっ?』
ローラの気の抜けた声が聞こえた。
怒られるか呆れられるか……
商人だと騙していたのだ。
非難されても文句は言えない。
次に何を言われるのかと思うと、胸がざわついて落ち着かなかった。
だが――
『だったら安心ですね!』
その明るい声は、俺の予想をあっさり裏切った。
『レオン様、じゃなくてレオニール様になら、お任せできます!
ね、ハイリお兄様』
『そうだな。彼ならば信じられる』
通信機から聞こえてくる声に、胸が熱くなる。
堪えきれず下を向いた俺の背を、陛下が力強く叩いた。
「愚息を信じてくれてありがとう。
支援、よろしく頼む。儂も協力は惜しまぬ」
「陛下!頭をお上げください!」
頭を下げる陛下をマルクス殿が慌てて止める。
その声を聞いた通信機の向こうが「陛下がいるのか!?」と大騒ぎになっている。
「はははっ!」
思わず笑い声が出た。
その騒がしい声を聞いていたら、肩の力が抜けた気がした。
支援を始めれば、きっと新たな困難もあるだろう。
だが、カーハインドの協力があれば乗り越えられる。そう思えた。
いよいよレオンの正体が明かされました!
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