表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/92

68

 side:マルクス


 なんとか城が見えるところまで来た。


 そろそろ俺らはお役御免じゃねえ?

 そう思い「じゃあここで……」と踵を返そうとしたが、レオンに引き止められた。


「あなたはカーハインド側の責任者では?」


 驚くように言われバツが悪くなる。

 わかってるよ。

 兄貴にも"責任者として赴け"って言われてたからな。


 だがどう考えても面倒だろう。

 話がまとまるまでは、近くで野宿でもしていた方がいい。


 そう伝えたが、レオンは聞く耳を持たなかった。


「ここまで連れて来ていただいたのに、何の礼もせぬまま返すなど出来ません」


 真っ直ぐな視線に、ローラの影がだぶる。


 ――仕方ねえな。

 だがカーハインドの兵は連れて行けねえ。

 こいつらは平民だ。

 城内でどんな扱いを受けるかわからねえからな。


 レオンは「私が責任を持ちます」と引き止めていたが、ここは俺が譲らなかった。


 カーハインドの連中と別れ、城へと向かう。


 近づくにつれ、外壁の損壊が目に入った。崩れた箇所や走る亀裂――被害は小さくない。だが、それでもなお城そのものの崩壊は免れているようだった。


 レオンの護衛が先行して、門番に一言二言伝えると、静かに門が開かれた。


 レオンは門をくぐると、そのまま正面玄関には向かわず、何を思ったのか裏口へまわる。


「なんで正面から入らねえんだ?」


 訝しがる俺に、レオンは平然と言ってのけた。


「人に会うと面倒なので」


 はあ? こいつ密偵か何かなのか?

 立場ある人間じゃなかったのか?


 裏口近くに馬をつなぐと、レオンは懐から鍵の束を取り出し裏口の扉を開けた。


 訳がわからないという顔をする俺に、レオンは「着いて来てください」とだけ言うと、慣れた足取りで城内を歩き出す。


 深夜とはいえ城の中だ。すぐに見張りに出くわす。

 だが目を見張る兵をレオンは片手で軽く制すると、「騒ぎにするな」とだけ伝え、また歩き出す。


 深々と頭を下げて見送る兵の姿を見るに、やはりそれなりの立場にはあるのだろう。


 だが、そのまま城の奥深くまで歩みを止めないレオンに、俺は不安を感じ始めた。


 この辺りはどう見ても居住区だろ……


 俺を連れて、こんな所まで来ていいのか?


「おい。いい加減やべえんじゃねえか?」


 レオンが聞く耳を持たねえから、護衛共に声を掛けてみるが、あたふたするばかりで使えねえ。


 どうすんだよ……と頭を抱えそうになったとき、落ち着いた男の声が響いた。


「おかえりなさいませ」


 見ればレオンの前に、髪をオールバックに固めた男が立っていた。

 歳は俺と同じぐらいか?


 深夜にも関わらず、きっちりと執事服を着こなし、丁寧に頭を下げる男。


「遅かったな」


 男を見て薄く笑みを浮かべたレオンが、外套を手渡しながら言う。


「事前にご連絡がありませんでしたので」


 男が半眼になるが、レオンはまるで意に介さない。

 そんなレオンを見て男はひとつ息をつくと、こちらを見回した。


「……護衛の数がえらく少ないようですが?」


 男の探るような視線がこちらに向けられた瞬間、隣にいた奴が小さく肩を震わせた。


「こいつらはダメだ。鍛え直せ」


 レオンは一瞥だけで切り捨てるように言う。


「ふう……だから言ったでしょう。若い者ばかりでは心許ないと。だと言うのに陛下の干渉を嫌がって――」


「わかったわかった。悪かった」


 軽く手を振って制し、レオンは肩をすくめた。


「だが、こんな事態だ。できる者をこちらに残しておいて正解だっただろう」


 その言葉に男は呆れたように片眉を上げたあと、視線をこちらへ戻す。


「……大変お待たせして申し訳ございません。どうぞ、お部屋にご案内いたします」


 男は俺に向かって一礼し、すぐに俺の後ろに居る護衛共へと鋭い目を向ける。


「お前たちはもういい」


「……はっ!」


 男の冷たい声に緊張した返事を返すと、奴らは来た道を引き返していった。



 案内されたのは応接室。

 おそらく私的なサロンだろう。


 旅装で汚れた恰好で座るのが憚れるような、きれいなビロードのソファに腰掛けると、すぐに紅茶が入れられる。


「どうぞ」


 冷えた体に温かい茶がうまい。


「すぐに湯浴みの準備をいたします」


「待て」


 ベルを手に取ろうとした男を、レオンが制した。


「俺はすぐに陛下に目通りに行く」


 男が口を半開きにして固まった。

 そりゃそうだ。何時だと思ってんだ。

 しかもこんな恰好で謁見など、許されるはずがない。


 男の制止も聞かず、立ち上がり今にも部屋を出そうなレオンに、俺は堪らず声を掛けた。


「お前、ちょっと落ち着け」


 俺の声に、レオンははたと足を止めると、すぐにこちらへ向き直り、深く頭を下げた。


「急ぎ許可を取り付けてきます。申し訳ありませんが、しばらくお待ちください」


「おい——」


 呼び止める間も無く、今度は男へと視線を向ける。


「こちらの方は、俺の命の恩人だ。くれぐれも失礼のないように。湯浴みと……軽食も用意して、もてなしておいてくれ」


 男が目を丸くした。

 俺も目を丸くした。

 いつから俺はこいつの"命の恩人"になったんだ?


 呆気に取られる俺たちを尻目に、レオンは言うだけ言うと踵を返し、そのまま部屋を出ていった。


「……はぁ」


 思わず息が漏れる。


 親父の執務室に、先触れもなく突撃するローラよりもひでえんじゃねえか?


 頭を抱える俺と唖然とする執事。


 部屋の外から「お待ちください!」「誰か!」という騒がしい声が聞こえてくるまで、しばし部屋は沈黙に包まれていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ