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知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 side:ハイリンヒ


「なー、まじで俺が抱えて飛ぶのかよ?」


 もうすぐ降下ポイントに着く頃、マルクスが口をへの字にしながら問うてきた。


「当然だろう。

 訓練もしていない者を一人で飛ばすなど、自殺行為だ」


「別に俺じゃなくてもいいんじゃね?」


 マルクスはハーネスを引きながら、不満気に眉を寄せる。


「降下地点は帝都裏の伐採跡地だ。

 しかも夜間降下になる。慣れた者でなければ無理だ。

 お前が抱えて降りるのが一番安全だろう?」


「まーそうかもしんねえけど……」


 なおも納得しきれない様子で、マルクスは頭を掻いた。


「何が不満なんだ」


「あいつ……なんかローラに似てる」


「はあ?」


 口を尖らせて言うマルクスに、思わず呆れた声が出た。


「可愛い妹に似てるなら、結構なことじゃないか。

 ローラだと思って大切に飛んでやれ」


 鼻先であしらう私に、マルクスは目つきを鋭くして言った。


「ちげえ。そうじゃねえ。

 ローラの、何しでかすかわからねえ感じに似てるんだよ!」


 ああ、なるほど。


「消火活動でも随分活躍したらしいね」


「そうなんだよ。あいつ今日初めて飛行艇に乗ったくせに。ちょっと前まで顔を青くしてたくせに。

 躊躇なく甲板の縁まで走って行きやがった」


 手袋をはめながら、深い溜め息を吐くマルクス。


「俺、あれに付いて行くのか……?」


 熱中すると周りが見えなくなるさまは、確かにローラに似ている。

 そして自分の身を顧みなくなるところも。


「彼が暴走しないように、手綱を握っておけよ」


「ぜってー無理」


「だろうね」


 私は肩を振るわせた。


 こいつは何だかんだと甘いところがあるからな。

 ローラにさえ振り回される男だ。


「まあ手に負えなければ放っておけばいいさ。

 ローラがどんな顔をするかは知らんが」


 口を半開きにして固まるマルクスの肩を叩いて、私はその場をあとにした。


 ◇


 side:レオン


 気づけば、俺はマルクス殿の前へ立たされていた。

 背後から伸びた腕が、慣れた動作で俺の身体を固定していく。

 胸元と腰へ次々と固定具が回され、硬い革帯が身体を密着させる。


 まるで荷物のように固定されていく状況に、何とも言えない敗北感を覚える。

 だが眼下に広がる闇を見れば、そんな意地を張っている場合ではなかった。


 緊張と恐怖で、心臓の音が自分でも煩いほどだ。

 分厚い手袋をはめた指先が、じっとりと汗ばんでいるのがわかる。


「肩の力抜け。身体が固ぇ」


 マルクス殿の低い声が、耳のすぐ後ろで響いた。


 はっとして深く息を吸う。


「大丈夫だ。俺が支える。

 ――いくぞ」


 次の瞬間、身体がふわりと浮き――俺たちは空へ飛び出した。


 胸を締め付けるような風圧に、肺が悲鳴を上げる。


 下を見ても、そこに地面があるのかさえわからない。

 黒い穴のような闇に吸い込まれているようで、呼吸が乱れる。


 そんな状況にも関わらずマルクス殿の動きに迷いはない。

 風を読むように静かに降下具を制御する姿に、恐怖とは別の震えがした。


 俺にはもう、闇の中を落ちているのか飛んでいるのかさえ判別できない。

 時間の感覚すら曖昧になってきた頃――前方に小さな光が見えた。


 あれが降下地点を示す灯火なのだろう。

 漆黒の森の中で、その小さな光だけが異様なほど鮮明に浮かんで見えた。


 唯一の目印であるその灯火へ向かって、マルクス殿は静かに高度を落としていく。


「着くぞ。膝を曲げろ」


 耳元で低い声が響いた次の瞬間、衝撃と共に地面が足元へ現れた。


 降下時間は、実際には数十秒だったのだろう。

 だが俺には、ひどく長い時間に思えた。


 地面に足がついたとき、安堵から全身の力が抜けそうになった。


 脚の震えがおさまらないまま装備を外していると、俺の護衛を抱えたカーハインド兵が二組、続けて資材袋を吊り下げた兵が三名、闇の中から降下してきた。


 自分と同じように震える護衛たちとは対照的に、カーハインド兵たちは平然としている。

 その差が、やけに恐ろしく感じられた。


 ――そのとき、ふと違和感を覚えた。

 あの灯火は、一体誰が用意した……?


 背筋が薄ら寒くなるのを感じながら顔を上げる。

 するとそこには、灯火を掲げて待機する兵と、既に繋がれた馬の姿があった。


 急遽決まった降下地点のはずだ。

 それをどうやって地上へ伝え、ここまで準備を整えたのか――理解が追いつかない。


 俺が混乱する間にも、カーハインド兵は手際良く準備を整え、マルクス殿と何やら話し込むと、数名を残して闇の中に消えていった。


 そのあまりに素早い行動に唖然としている俺たちの前に、マルクス殿がやってきた。


「落ち着いたか? そろそろ行くぞ」


 我に帰った俺たちは、慌てて立ち上がり馬に跨ると、カーハインド兵の先導で森の中を走り出す。


 彼らにとってここは、慣れない場所であるはず。

 さらに今は夜。

 にも関わらず、遮蔽物の多い森だとは思えないほどの速さで馬は進む。


 理解できないことが多すぎて、考えることにも疲れてきた。


 無心になって、前を走る馬の背だけを追いかける。


 しばらく走ると、帝都の街並みが見えて来た。

 だが、ほっとしたのも束の間、見慣れているはずのそこは、瓦礫が散乱し石畳が隆起し、まるで別の街のようだった。


 大きな被害を受けたとは聞いていた。

 だが実際に目にすると、その惨状は想像を遥かに超えている。


 森の中以上に走りにくい道を、馬の足が取られないように慎重に進む。


 帝都中央にそびえる皇帝の居城――帝城が見えてくる。



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