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side:レオン
領主邸に使いに出した者が戻った。
どうやらすぐに面会を受けてくれるらしい。
ありがたい。
ローラの父だ。当然こちらの状況を把握しての判断だろう。
「―― 本日は急なお願いでしたのに、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。
マケイド商会カーハインド支店を預からせていただいております、レオンと申します」
初めて会ったローラの父親は、シルバーブロンドの髪を一本にゆるく結んだ、柔和な顔をした男だった。
優しげな目元はローラによく似ている。
――だが、俺が引っ掛かったのはそこではない。
もっとよく似た誰かを、知っている気がした。
誰だ……思い出せない……
その既視感に妙な胸騒ぎを感じる。
だが、今はそんなことに囚われている場合ではない。
「初めまして。領主のカロルドだ。
何やら大変なようだね」
「はい。
その件で、本日は支援のお願いに参りました」
「ほう……支援?」
カロルド殿の視線が鋭くなる。
「はい……」
カーハインド領がここまで豊かになったのは、ここ十年程のことだという。
それまでは領主が私財を投じ、領地を支えていた時期もあったそうだ。
その際、帝国が何か支援をしたかと言えば――そんなはずもない。
貧しい、それも他国の辺境領に手を差し伸べる理由など、帝国にはなかった。
侵略する価値すらないと、見向きもしなかったであろうことは想像に難くない。
にもかかわらず、こちらが窮地に陥った途端に助力を求める。
良い気がしないのも当然だ。
だが……今は助けを乞うしかないのだ。
「ポーションをお譲りいただきたいのです。
もちろん、対価は充分にお支払いいたします」
「ポーション?」
カロルド殿は、意外なことを言われたかのように眉を上げた。
ポーションの支援を乞うのは、一般的だと思うのだが……まさか備蓄していないのか?
ローラならば、必ず備えていると思ったのだが。
「現在、我が国では建物が倒壊し、怪我人が多数出ております。
ポーションがあれば救える命が増えるはずです。
……お願いできないでしょうか?」
「君は国へ戻るつもりか?
山道は塞がれているぞ」
カロルド殿がわずかに目を見張った。
「危険は承知しています」
「だが、今は山火事も起こっている」
その情報もやはり知っていたか。
「それも存じています。
しかし、私に戻らないという選択肢はありません」
「……ポーションは我が領でも貴重な物だ」
カロルド殿は探るような目を向けた。
「もちろん理解しています。
ですから無理は言いません。
……少しでも良いのです。お願いできませんか?」
「……」
目を伏せ考え込むカロルド殿に、俺は深々と頭を下げた。
「――ふむ。よいだろう」
「――!」
「ただし、条件がある」
「私にできることならば」
なんだ……?
俺は怪しまれているようだからな。
もうこの地へ来るなとでも言われるのか。
……もうローラに会えないのか。
「君の身分を詮索するつもりはない。
ただ、それなりの立場にある者だと思っている」
「……」
帝国に対して何か要求があるのか?
俺一人で判断できることならば良いが……
「カーハインド領は、帝国の災害復興を全面的に支援しよう。
だが、その際に知り得た機密に関して、情報の開示を求めないと約束してほしい」
「……それは国として、でしょうか」
「もちろんだ」
「――私の権限を超えています。
皇帝陛下のご裁可を仰がなければ……」
俺は苦渋に顔を歪めた。
「ほう……。帝国は受けた恩を仇で返す国だと」
「いえ! 決してそのようなことは!」
カロルド殿の冷ややかな視線に、背筋が伸びた。
そうだ。恩を仇で返すなど、あってはならない。
帝国内の意思統一は、俺がやればいい。
「お約束いたします」
無言のまま見下ろすカロルド殿の目が「できるのか?」と問うている。
「身命を賭して守ります」
カロルド殿を真っ直ぐ見据え、言い切った。
「よかろう」
カロルド殿は短くそう言うと、ふっと表情を和らげた。
その穏やかな笑みは、ローラによく似ている。
「よかったよ。君が覚悟を決めてくれて。
ローラに"機密のために人を見捨てるのか"と詰められてね」
苦笑混じりに語っていたカロルド殿だったが、不意に表情を引き締める。
「だが私は領主として、この地を危険にさらす選択はできない」
静かな声だった。
「……理解しております」
常識外れの技術。
そして、まだ隠されているであろう数々の切り札。
知れば、必ず狙う者が出るだろう。
「だから、君に賭けよう。
君が、その立場に見合う覚悟を示したからね」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
カロルド殿は、最初から俺の覚悟を見極めようとしていたのだ。
「それに、ローラの人を見る目は確かだからね」
そう言って、どこか誇らしげに笑った。
――ローラが後押ししてくれていたのか。
その事実が、妙に嬉しかった。




