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レオン様に学校の案内をして、数日。
案内のお礼にと、マケイド商会から帝国の伝統的な柄の織物が届きました。
ここで自分ではなく、商会名義で送ってくるところが、あの方らしいです。
「美しいですね」
織物を眺めながら、レオン様との会話を思い返します。
あの方は間違いなく人の上に立つ方。
理想だけでは国が回らないことも、為政者が時に残酷な選択を迫られることも、理解していらした。
きっとそんな方から見れば、私の目指す先など夢物語に思えたでしょう。
だけど、鼻で笑うことも否定することもせず、理解しようと質問を重ねていらした。
その上で私を心配するような、それでいてどこか悲しみを思わせるような、そんな目をしていらしたのが印象的でした。
カーハインドの技術を広めることで、帝国を良くしたい。
そう思っていらっしゃるのは間違いないでしょう。
ですが、露骨に探りを入れることも、禁止区域に立ち入るようなこともせず、私の話を真剣に聞いてくださった。
発明者の情報や、技術の根幹に関わることではなく、民に与えた影響ばかりを尋ねていらした。
少なくとも彼には、力ずくでこちらを取り込もうという意思は感じられませんでした。
「この地は笑顔に溢れていますね」
そう言って、眩しいものでも見るように目を細める姿を思い返すと――少しは信用してもいいのかもしれない。
そう思いました。
――カタカタカタカタ
物思いに耽っていると、不意の揺れに思考を中断されました。
「地揺れかしら……」
滅多に起きるものではありませんが、地揺れそのものは珍しい話ではありません。
「……長いですね」
揺れ自体は小さいものの、なかなか収まる気配がありません。
しばらくして揺れはやっと収まりました。
「被害の確認をしましょうか」
カーハインドでは、古い建物や耐久性に難のある建物は、建て替えや補強工事を済ませてあります。ですから、あの程度の揺れであれば大事にはなっていないと思いますが、念のため。
報告を待っていると、情報局の者が駆け込んできます。
――まさか被害が出たの!?
焦りを滲ませる顔に、背筋が冷えます。
「領内の被害は人、建物共にゼロ」
その報告に胸を撫で下ろします。
しかし――
「帝国で大きな被害が出たようです」
なんですって?
「詳しい被害状況は?」
「まだ詳しくは。
先ほど帝国で活動中の者から、通信機で連絡が入ったばかりでして。
現在、エルザ局長が引き続き聴取しています」
確か今、帝国には情報局の他に通商局の者も交易のために滞在していたはず。
皆、無事でしょうか……。
「そうだわ、レオン様は……」
レオン様はまだご存じないでしょう。
でも彼はきっと帝国でも立場のある方。
彼がいないことで、帝国側の指揮や調整に支障が出ているかもしれません。
伝える……?
でも通信機のことを知られる訳には……
――いえ、今はとにかく行きましょう。
続報が入る可能性もあるので、普段は領主邸の外に出さない通信機も持って、馬車に乗り込みます。
マケイド商会の支店へ向かいながら、私は必死に通信機の言い訳を考えて……
――違うでしょう。
人命が懸かっているというのに、私は機密を守ることばかり――。
まるで人命より機密を優先しているかのような自分に気が付き、息を呑みました。
「―♪―♪―♪」
愕然としているところへ、不意に通信機の呼び出し音が鳴り響きます。
びくりと肩が揺れ、次の瞬間には、どくどくと心臓が脈打ち始めました。
――被害報告でしょうか。
「……はい」
「ローラ様? やだ、そんな強張った声だして。
大丈夫ですよぉ。うちの者もシルのところも、みんな無事ですって」
エルザの明るい声に、肩の力が抜けました。
「……よかった」
――本当に良かった。
「ただ、しばらくこちらには戻れないようですわぁ。
地震で山肌が崩落して、峠道が埋まってしまったそうです」
――っ!
それではレオン様が帰れません。
あの山を迂回するとなると、かなり大回りが必要になります。
飛行艇を使えば山を越えられるでしょう。
でも機密が……ああ、また私は……
いえ、レオン様が戻ることを望まれるとは限りません。
お立場のことだって、結局は私の想像でしかないのですから。
とにかくレオン様の様子を伺ってから考えましょう。
そう思い直し、エルザから帝国の被害状況を聞きつつ、馬車の揺れに身を任せました。




