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新しく来た子供たちも少しずつ孤児院に馴染み始め、果実酒作りも人手が増えたことで随分楽になった――と、院長から報告を受けた、そんなある日のこと。
カーハインド領都に、隣国サイブル帝国の帝都を本拠地とするマケイド商会の支店が作られました。
実は商会長のマケイド様からは、随分前から支店開設の打診があったそうです。
ですが以前に来た、あの怪しい男の件もあったため、お父様は帝国資本が領内へ入ることを警戒し、許可を出されませんでした。
マケイド様は、帝国の皇帝陛下がカーハインド領の熟成酒を大変気に入っておられること、そして今後円滑に取引を行うためにも支店が必要なのだと、何度もお父様のもとへ足を運ばれました。
しかし、お父様は一向に首を縦に振られません。
――ついに痺れを切らしたのでしょう。
ある日マケイド様は、皇帝陛下直々の書状を携えて訪ねて来られたのです。
その書状には、カーハインド領の自治へ介入する意思はないこと、そして熟成酒を心から気に入っていることが丁寧に綴られていました。
そこまでされては、さすがのお父様も断り切れません。
こうして遂に、マケイド商会の支店開設が許可され、本日の開店を迎えたという訳です。
孤児院の一件でご縁もできましたので、今日は私も開店祝いに伺いました。
店内には、帝国から運ばれてきた香辛料や色鮮やかな織物、細工の美しい食器など、 見慣れない帝国の品々が所狭しと並べられています。
「素敵ね!」
侍女と共にきゃっきゃと店内を見回っていると、マケイド様が顔を出されます。
「これはお嬢様。ご来店ありがとうございます」
「マケイド様、ご無沙汰しております。
この度は支店の御開店、おめでとう御座います」
「ありがとうございます。御領の発展の一助になれるよう、精一杯努めさせていただきます」
マケイド様は穏やかな表情で、丁寧に頭を下げられました。
ところが、顔を上げたマケイド様は、こちらの後方を見るなり、一瞬だけ苦い顔をされました。
――なにかしら?
周囲を見渡し、後ろを振り向いた私は、思わず息を呑みます。
そこにいたのは、あの抜群に顔の良い正体不明の男。
私たちの視線に気づいた男は、にこやかに口を開きます。
「ご機嫌よう、ご令嬢」
「――なぜあなたが」
「本日よりこちらの支店を預からせていただくことになりました。
どうぞ末長くご贔屓に」
にこやかに頭を下げる男に、思わずマケイド様へ視線を向けます。
驚きのあまり、少々きつい目になってしまったかもしれません。
そのせいでしょうか。
マケイド様はうなだれた様子でおっしゃいます。
「本当はもう少し店が落ち着いてからご紹介する予定だったのですが……。
基本的には、このレオンがこちらに詰めることになります」
「よろしくお願いいたします」
マケイド様とは対照的に、男は終始笑みを浮かべたまま。今にも鼻歌でも歌い出しそうなほど、上機嫌です。
「――あなた、見習いだったのでは?」
私は小さく眉を寄せます。
「出世しまして」
男は笑みを崩すことなく、さも当然のように言ってのけました。
……いくらなんでも、出世が早すぎるでしょう。
マケイド商会ほどの大店なら、古くから勤める者などいくらでもいるはず。
そんな者たちを差し置いて、見習いから支店を任されるなど、普通ではありえません。
そのあまりの図太さに、私は小さく息を吐きました。
「あまり信用されていないようですね」
男――レオン様は困ったように笑います。
「当然でしょう」
即座に返すと、彼はなぜか少し嬉しそうに目を細めました。
……なぜそこで嬉しそうになるのでしょう。
「手厳しい」
「見習いだと名乗っていた方が、突然支店を任されましたと言って現れれば、誰でも警戒します」
「それはごもっとも」
くすくすと笑うレオン様に、私はますます眉を寄せます。
この方、まるで堪えていません。
「ですが、ご安心ください。
少なくとも御領に不利益をもたらすつもりはありませんので」
「“少なくとも”?」
「ああ、いえ。今のは失言でした」
わざとらしく口元を押さえるレオン様に、私は深々とため息を吐きます。
――やっぱり胡散臭いです。




