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知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 気が付けば、会長のマケイド様はすっかり気配を消し、代わってレオンと名乗っていらした若い男性が、自然と主導権を握って話を進めていらっしゃいます。


 しかもレオン様が興味を示すのは、市場で扱う品の多さや、カーハインドの街道の整備状況など――どうにも商人らしからぬことばかり。


 商会の見習いだと紹介されていましたが……この方、一体何者なのでしょうか。


 違和感を覚え始めたとき、部屋にノックが響き、慌てた様子のハイリお兄様が現れました。


「――ハイ……っ、ド様!」

 

 危なかった。危うくいつも通り"ハイリお兄様"と呼びかけてしまうところでした。


 お兄様が商会長としてお会いになっている方々でしょうから、うっかり偽名を台無しにしてしまわないように、気をつけないと。


「姫様、本日もお美しいですね。突然のお邪魔となってしまいましたこと、お許しください」


 そう言って私の手を取り口づける仕草は実にスマートで、妙な色気があり、妹の私ですら思わずドギマギしてしまいます。


「……っ、いえ。問題ありません。

 何かご用件がおありでしたか?」


「いえ、姫様でなく今日はそちらの方々に。

 予定されていた酒の保管庫へ顔を出されないと報告がありましたので、何かあったのかと心配になりまして」


 ――あら?孤児院への来訪は予定になかったということでしょうか?


「……えぇっと、それはですね……」


「せっかく領内へ伺ったのですから、孤児院も見ておきたかったのです。

 ……領地の空気は、こういう場所にこそ表れると聞きますので」


 焦ったように口を開きかけたマケイド様を、レオン様が軽く片手で制しました。


 ――見習いが商会長を制するなど、普通ならあり得ません。


 商人の世界には詳しくありませんが、やはりこの方はどこか普通ではありません。


 お兄様も目を細めていらっしゃいます。


「……そうですか。

 領地を見る目をお持ちとは。帝国の()()()()()は随分と優秀なのですね」


 お兄様はにっこりと微笑みました。


 けれど、その笑顔を見た瞬間、なぜか背筋がひやりとします。


 ……お兄様、完全に警戒なさっていますね?


 にこにこと微笑み合う二人に挟まれ、マケイド様は青い顔で視線を彷徨わせておられます。


「とにかく、姫様はもうお帰りの時間でしょう?

 馬車までお送りしましょう」


 お兄様がエスコートの手を差し出してくださいます。

 ――なるほど、私があまり関わらない方がよい相手なのですね。


 私がお兄様のエスコートで部屋を辞しかけた、その時。


「――お待ちください」


 振り返ると、レオン様がどこか真剣な表情でこちらを見ていました。


「申し訳ありません。最後に一つだけ、お聞きしても?」


「……なんでしょう?」


「カーハインドでは、なぜ入域許可証制度を?」


 入域許可証は怪しい人の炙り出しはもちろんですが、どこからどんな人がカーハインドに来ているのかを知ることで、周辺の情勢や人の流れを把握する役割もあります。

 

 そのため入領希望者には、身元や来訪目的など、詳細な情報の申告をお願いしているのですが、レオン様はきっと、そこに違和感を持たれたのでしょうね。


 ならば私がお伝えできるのは、これくらいです。


「――知らなければ、守れませんから」


「……守る」


 何かを反芻するように呟き、考え込むレオン様をその場に残し、私たちは静かにその場を辞しました。


 ◇


「お兄様。あの黒髪の方は、一体……」


 馬車に向かう途中でお兄様に問いかけます。


「わからない。帝国の上層部に派遣されて来たんだろうが……使いパシリをさせられる身分の者でもなさそうだったね」


 お兄様も思案顔をしていらっしゃいます。


「そうですね。興味の先が、商人とは違いました。

 話の端々に治める側の視点がありましたから、人の上に立つ方でしょうね」


「ああ。身分を隠して行動することに慣れていないのだろう。端々の態度も、見習いのそれではなかったよ。

 諜報に長けた者だとも思えないのに、なぜあの男が選ばれたのか……」


 帝国ほどの大国ならば、諜報を専門とする者もいるでしょう。

 ここまで怪しまれている時点で、間者ならば任務失敗です。


「それに間者には向かない、華やかなお顔立ちでしたわ」


「確かにね。わざわざ人目を引く容姿の者を送り込むのも引っかかる。

 そもそも何のためにカーハインドまで来たのか……目的がわからないのが不気味だよ」


 渋い表情をしたお兄様は、エスコートの腕にわずかに力を込められました。


 そうですね。熟成酒を探りに来たのであれば、予定通り酒の保管庫に行くべきでしょう。

 なぜ孤児院に――?


「マケイド殿に探りを入れてもよいのだけど、彼も多くは知らないようだったからね。

 それに彼を見ていると、胃を痛めていそうで気の毒に思えて来て」


 お兄様はやれやれと言いたげに肩をすくめられました。


 ずっと青い顔をして気配を消しておられましたからね。

 今回、一番貧乏くじを引いたのはマケイド様かもしれません。


「そもそも皇帝への献上品を取りに来て、観光してから帰る商人など聞いたことがないよ。

 一刻も早く届けようとするのが道理だからね」


「そうですね。たとえ彼が貴族だとしても、ならばなおさら余計な寄り道はしないでしょう」


 だとすれば、彼は商人でも貴族でもない。

 帝国の中枢に属する、特別な立場――


「特使か……いや、監督役か?」


 お兄様も同じ結論に思い至られたようです。

 監督役として派遣されているのであれば、あの自由な行動にも説明がつきます。


 それにしても、あまりに若い――そんな印象は拭えませんが。



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