表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/88

46

 side:ハイリンヒ


 サイブル帝国の商人、マケイド殿から早馬で書簡が届いた。


 どうやら皇帝に熟成酒を所望されたようだ。


 さすがは賢王と呼ばれる御方だ。動きが早い。

 熟成酒が帝国内で出回り始めて、まだそれほど経っていないというのに、もう噂を聞きつけたのか。

 普段から市井の動きにまで気を配っている証だね。


 それに比べて、我が国の王都からは何の音沙汰もない。


 あんなことがあったのだから、間者の一人ぐらい寄越すかと思いきや、その兆候さえない。


 どうやら、院政家は「こちらを刺激してもし問題が起きれば、誰が責任を取るのか」とか、「遠方まで出向いて何の成果も得られなければ、金と時間の無駄になる」だとか、そんなことばかりを気にして、互いに役目を押し付け合っているらしい。

 おかげで話は一向に進んでいないそうだ。


 こちらとしては楽でいいが、国の行く末を思うと溜息が出るね。


 とにかくマケイド殿が来る前に、熟成酒の在庫を確保して――せっかくだから十五年物もお披露目しようか。


 王都が文句をつけてきたときのために、と販売せずに置いていたけれど、このままだと在庫が溢れてしまうからね。


 ◇


「本日は急なお願いにも関わらず、お時間をとってくださりありがとうございます」


 少し疲れた様子のマケイド殿が、我が商会の応接室で深々と頭を下げた。


「いえいえ、お気になさらず。

 遠いところよくお越しくださいました。

 山を越えるのは大変だったでしょう」


「ええ……まあ。こちらの領内に入ってからは進みやすかったですが」


 我が領は交易のために山の整備も始めているからね。


 ローラは交易隊のためにトンネルを掘りたいそうだが、さすがに時期早々ではないかと思っている。


 そもそもトンネルの出口が他国なら、こちらが勝手に進めるわけにも行かないけれどね。


 マケイド殿は後ろに控える黒髪の男を気にしているのか、歯切れが悪い。


 護衛らしき者たちは他にも見えるが、男だけ纏う空気が違う。


「そちらの方は?」


「ええ……あの……」


「お初にお目にかかります。マケイド商会で見習いをしております、レオンと申します」


 まごつくマケイド殿を横目に、すっと一歩前に出ると男は丁寧にお辞儀をした。


 人を圧するような美丈夫だ。こんな目立つ男、マケイド商会には居なかった。

 それにマケイド殿を制するように口を開くさまは、とても見習いには見えないが。


「初めまして。ハイド商会のハイドと申します。

 新顔ですか?もう供回りを任せられているなんて優秀なんですね」


 男は一瞬ピクリと反応したが、私が手を差し出すと何事もなかったかのようにニコリと微笑んで、応えるように手を握り返した。


 ――剣を持つ者の手だな。それもなかなかの腕だろう。

 帝国の間者か?マケイド殿の様子を見る限り上に押し付けられたのだろうが。


 まあ仕方ない。想定内だ。


「レオン殿も席へどうぞ。後ろに立たれていると私が落ち着きませんので」


 そう伝えると男は素直に席に腰掛けた。

 だがそれを見たマケイド殿が、ホッと息をついたことに引っ掛かりを覚える。


 ただの間者じゃないのか?


「こちらお求めの熟成酒です。いえ帝国では"黄金酒"と呼んでくださっているとか。素敵なネーミングですね。

 ――ではこちらは"琥珀酒"とでも言いましょうか。どうぞ、新商品です」


 私がそう言いながら十五年物のボトルを差し出すと、二人が息を呑んだ。


「美しい……」


 思わずと言った様子で男の口から声が漏れた。


「ありがとうございます。

 こちらはまだ市井にも流していない秘蔵の品なのですが、誰よりも先に皇帝陛下ににご賞味いただきたく」


 男はわずかに目を細め――マケイド殿が口を開く気配を見せないのを見て、自ら口を開いた。


「……自国の王ではなく、ですか?」


「残念ながら、我が国ではこの手の酒を正しく評価できる方が多くはおりません。

 この酒は、舌より権威で飲まれる方には向きませんので」


 私が肩を竦めると、男は口元を隠すように軽く指を当てると、わずかに肩を揺らした。


「……そう来ますか」


 男の反応に、私は小首を傾げてみせた。


 そしてそのまま、話題を切り替えるように口を開く。


「さあ、御二方には輸送後に品質が保たれているかご確認頂かなければなりませんから、今から一本封を切りましょう」


 二人の視線を受けながら、琥珀色の液体を硝子杯へ注ぎこむと――瞬間、ふわりと甘く芳醇な香りが広がった。


 マケイド殿が目を見開く。


 だがそれ以上に反応を見せたのは、隣の男だった。


 先ほどまで余裕げに笑っていた顔が消え、注がれた酒へと真剣な視線を落としている。


「……香りの立ち方が違う」


 思わず漏れたようなその呟きに、マケイド殿がぎょっとした顔で男を振り返った。


 私は内心で小さく眉を上げる。


 香りだけでそこまでわかるとは。

 ただの見習いにしては、随分と舌が肥えているね。


「お詳しいようですね」


 探るようにそう言えば、男は一瞬だけこちらを見たあと、何でもないことのように肩を竦めた。


「酒場で少し齧った程度ですよ」


 その瞬間、マケイド殿が露骨に胃を痛めたような顔をした。


 酒場にこんな酒があってたまるか。


 ……面白い。


 帝国は随分と大物を寄越してきたらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ