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知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 side:サイブル帝国マケイド商会会頭


(なぜこんなことに・・!?)


「おもてをあげよ」


 威厳のある低い声が城の応接間に響く。


 恐る恐る顔を少し上げると、鈍く光る革靴が見えた。あの緻密で上品な艶、コードバンか?


「こっ・・この度は拝謁の栄誉をたまわり―」


 緊張のあまりいらぬことを考えていたら、噛んでしまったわ。冷や汗が出てくる。


「よいよい、そう硬くなるな。今日は非公式の場だ」


「―ははっ!」


 幾分か声を和らげた陛下が、向かいの席を示す。


 立ち上がったことで、その姿がよりはっきりと視界に入った。まさかこんなに近くで拝謁する機会に恵まれるとは。

 未だに信じられない。


 陛下は黒のスラックスに絹の白いシャツ、肩に濃紺の外套を羽織るだけの簡素な装いだった。

 

 だが、一介の商人に過ぎない私からすれば、それでも息が詰まりそうなほどの威圧感がある。


 皇家特有のペールブルーの髪には、ところどころ白いものが混じり始めていたが、それすらも長く玉座に座り続けてきた者の重みのように見えて、自然と背筋が伸びた。


 皇帝のすぐ後ろには護衛が二人。さらにその少し後ろに控えている黒髪の若い男は誰だ? 秘書か?


「そちが黄金酒を扱う商人で間違いないか?」


「はっ!」


(やはりあの酒のことか!)


「急に呼び立てて悪かったな。

 えらく旨い酒があると聞いてな。

 その噂の酒を、儂も一度味わいたいのだ。

 無論、ただでとは言わぬ。相応の対価は支払おう」


「はっ!謹んで献上させていただきます!」


「よいよい、対価は払うゆえ。

 それでいかほど用意できる?」


「それが元々あまり本数のない物でして。

 すぐにご用意できるのは、二本のみでございます」


 その二本も、すでに売り先が決まっている物だが仕方がない。相手には事情を説明して待ってもらうしかないな。


「ふーむ。もう少しなんとかならんか?

 皇妃たちも興味を持っておるゆえ共に楽しみたいのだが、なにぶん我が国の皇妃は三人おる。二本ではいささかまずいのだ」


 陛下は茶目っ気のある顔で肩をすくめた。

 先ほどまでの威厳のある姿との落差に、私は思わず目を瞬かせる。


 皇妃様方へプレゼントされるおつもりか?

 となると最低三本。いや、陛下本人の分も入れて四本か。加えて試飲役の侍従や護衛もいるだろうし、安全性を考慮するならば、何本かある中から選んでいただいた方が良い。


「仕入れ先に行けばご用意出来るかもしれないのですが、実はこちら隣国の品でして。少々お時間をいただけませんでしょうか?」


 次の入荷はまだ三月以上先だ。待っているよりは、私が直接出向いた方が早いだろう。


「なんと! 隣国というと共和国か?」


「いいえ、ケルファ王国でございます」


「ケルファだと!?

 あの国が革新的な品を生み出すとは……。取引の際、相当吹っかけられたのではないか?」


 陛下に哀れむような目を向けられた。

 やはり帝国から見てもケルファの印象は良くないようだな。


「それならば其方に無理を言うのも悪い。皇家からケルファに書簡を送ろう」


「いえ、それが取引相手から、酒のことでケルファの王家や院政家に連絡を取るのはやめてほしい、と事前に申し伝えられておりまして」


「ほう・・? それはいかな訳だ?」


 陛下はわずかに眉を寄せ、訝しげな視線を向けてくる。静かな問い合かけなのに、それだけで空気が張り詰めた気がした。


「はっ! 取引相手は、カーハインド家のお抱え商人ですが、どうやらカーハインドは、ケルファではあまり良い扱いを受けておらず、中央とは疎遠のようです。

 この酒も、ケルファの中央にはまだ出回っていないかと」


 私の言葉を聞くと、陛下は先ほどまでの鋭い雰囲気をふっと和らげ、一転して楽しげな表情を浮かべた。


「なるほどなるほど。カーハインドか。あそこは昔から優秀な商人が多いのだ。

 では其方に任せた。よしなに頼む」


 興味深い玩具でも見つけたかのように口元を緩め、ゆっくりとを顎を撫でる陛下に一抹の不安を感じながらも、私は胸を撫で下ろした。


 とにかく一刻も早く、カーハインドに行けるよう予定を調節しなければ。


「そうだ。カーハインドに行く際は、この者も共に連れて行ってくれぬか?」


 陛下の視線の先にいるのは、後ろでずっと静かに控えていた黒髪の男だ。


「まだ若いが筋が良くてな。いずれ外交を任せることになるやもしれぬ男だ。若いうちに国の外を見せてやりたい。

 頼めぬか?」


「はっ!かしこまりました。

 あまり平坦な道のりではございませんが、よろしいでしょうか?」


「あぁ問題ない。

 泣き言を言うようであれば、捨て置いて構わぬ」


 早急に予定を調整し、改めて連絡することを約束すると、私は御前を辞した。

 応接間を後にすると、どっと疲れが襲ってきた。

 

 今日は真っ直ぐ家に帰ろう……。





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