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新しい魔道具のお披露目に、領内は大いに沸いています。
私としては、川さらい機の方が遥かに凄い発明だと思っていたのですが、領民たちが最も目を輝かせたのは、魔道具化したクワやスキの方でした。
大規模な機械より、毎日自分たちの手で使う道具の変化の方が、実感として伝わりやすかったのでしょうね。
そんな中、学校の建設も始まりました。
荒れ地の整備や地盤の圧縮にも土魔石が活躍し、短い工期で基礎工事が進んでいきます。現場で働く皆も、目を丸くしながらも嬉しそうな様子でした。
せっかくなので、学校にはカーハインドの技術をふんだんに取り入れることになりました。規格化されたレンガやガラス窓を使った校舎、雨の日でもぬかるまない石畳の中庭など、領都でも目を引く洒落た造りにする予定です。
学校といえば、アンヌ様にお願いしていた学校の一期生についても、予想以上に希望者が集まっているようです。
もっとも、読み書きや計算といった基礎教育自体は教会や礼拝堂で既に行われています。今回作る学校は、その先――役所勤めや専門職を育成するための上級学校ですから、そこまで希望者は多くならないだろうと思っていたのですが……どうやら甘かったようですね。
役所仕事に必要な実務知識や、高度な計算、法律、測量、魔石運用などをまとめて学べるとなれば、役人を務める家や商人たちが注目するのも当然でしたか。
特に、家業を継げない次男三男や、地方では学ぶ機会の少なかった者たちからの応募が多く、既に定員を大幅に超えているとか。
そのため現在は、どのような基準で生徒を選抜するべきか議論している最中です。
試験の成績を重視するべきか。推薦制を導入するべきか。それとも、卒業後に領地の行政へ携わる意思のある者を優先するべきか。
優秀な者を集めたい一方で、特定の家ばかりを優遇したと思われれば余計な火種にもなります。
将来役所で働く人材を育てることを考えるなら、孤児や貧しい家の子を積極的に集めるという手もあるでしょう。
ですが、恵まれない境遇の者ばかりを引き上げれば、今度は役人や商人の家の方々が面白く思わないかもしれません。
このように学校の運営にはまだまだ課題も多いですが、希望者が集まっているというのは悪い話ではありません。
むしろ、それだけこの領地に向上心のある者が多いということですからね。
魔石の実験も、新たな成果が出始めています。
水魔石は、水の循環濾過装置を接続することで。
風魔石は、強い風を送り続ける送風機を用いることで。
時間加速装置の中でも、問題なく充填出来ることが判明したのです。
どうやら風魔石に必要なのは“高所”そのものではなく、一定以上の風圧を受け続けることだったようですね。
さらに、光魔石の品質差についても、一つの仮説が浮かび上がってきました。
太陽光と月光――どちらを多く浴びたかによって、性質に違いが生まれているのでは、というものです。
現在は条件を細かく変えながら、太陽光主体のものと、月光主体のものとで、どのような変化が現れるのかを調査中です。
火魔石については、時間加速装置を耐火レンガで囲み、熱から保護する方法を試しました。
ですが、それでは魔石へ伝わる熱量が不足するため、現在は熱を蓄えながら内部へ伝える“蓄熱レンガ”を製作中とのことです。
――そんな前向きな知らせが続く一方で、気がかりなこともあります。
実は最近領地を回っていると、見慣れない顔を見かけることが増えました。
どうやら”カーハインド領は楽園のようだ”というあの噂が広まり、流民の数が増えているようです。
カーハインドでは入領に許可証が必要なため、流民たちも名前や所属、滞在目的などを申告したうえで領内へ入っています。
ですが、いくら正式な手続きを踏んでいるとはいえ、急によそ者が増えれば戸惑う者もいます。
それに、流民の多くは戦や飢饉で故郷を追われた者たちです。一時的な滞在ではなく、カーハインドへ定住するつもりでやって来る者も少なくありません。
そのため、住居や仕事の確保も必要になります。
現在は、大急ぎで建てた長屋へ住まわせ、公共工事へ参加させながら戸籍を整えることで対応していますが、この先さらに流民が増えれば、役所の負担が限界を迎えるのは目に見えています。
とはいえ、カーハインドに一縷の望みを託し、幼い子供を連れて遠方から命からがら辿り着く者たちを、簡単に追い返すことなどできません。
それに、仕事が増え続けている今のカーハインドにとって、彼らは貴重な働き手でもあります。
農業に慣れた者、商売の経験がある者、手先の器用な者――流民の中には、領の発展に力を貸してくれる人材も少なくありませんからね。
だからこそ、ただ食べさせるだけではなく、この地で暮らし、働き、根を下ろしていける仕組みを整える必要があります。
残念ながら今の世代では、考え方や習慣の違いから軋轢が生まれることもあるでしょう。それは簡単には無くせないかもしれません。ですが、子供たちは違います。
共に学び、遊び、カーハインドの文化を覚えて育った子供たちは、やがてこの領を支える新たな世代になってくれるはずです。
ですから流民の子供たちにも教育を受けられる環境を整えたいと考えています。
――先のことはともかく、とにかく今は役所の負担を和らげなければなりません。
もうすぐ王都に出していた情報局の者たちも、人員縮小を受けて戻ってくる頃でしょう。しばらくは他国への諜報を控え、役所仕事を手伝ってもらった方が良さそうですね。
……とはいえ、情報局の者たちは裏働きこそ得意でも、役所仕事など慣れていないでしょうし、どこまで戦力になるのか。
そんなことを考えながら領内を視察していると、王都へ出していた者たちが帰還したとの知らせが届きました。
しかも彼らは、王都で燻っていた優秀な人材を何人も引き抜いてきたらしいのです。
「それは、本当ですか!?」
思わず足を止めました。
急ぎ領主邸へ向かうことにしましょう。




