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数日前からハイリお兄様が商会の代表として、隣国であるサイブル帝国で挨拶回りをされています。
サイブル帝国は我が領地と、東にある山を隔てて隣接している国家です。
しかし、その国力と領土の規模は我が国とは比べものにならず、数多くの属国を従える大国として知られています。
また我が国とは違い、サイブル帝国は強力な中央集権体制を敷いており、皇室の権威も極めて強い国です。
そのため、歴代皇帝の力量によって国の盛衰が大きく左右される傾向があります。
もっとも、今代の皇帝はかなり優秀な為政者らしく、現在の帝国は国全体が活気に満ちていると聞きますが。
「この勢いのまま周辺国を併合しよう」などと言い出さない辺り、今代皇帝は我が国の上層部より、よほど理性的なのかもしれませんね。
なんにせよ隣国が落ち着いているというのはありがたいことです。
ただ残念なことに、サイブル帝国におけるケルファ王国の評判はあまり芳しくないようです。
情報局によれば、ケルファ出身の商人だと名乗っただけで露骨に嫌な顔をされることも珍しくないのだとか。
その影響は商会との折衝にも表れていたようで、帝都でも上位に数えられる大商会の中には、こちらが貴族家のお抱えであると伝えても面会すら拒み、門前払いしたところもあったと聞きます。
もっとも、後になって「我が商会には挨拶がなかった」などと難癖を付けられても面倒ですから、ハイリお兄様と通商局の者たちは手分けして、帝都で一定以上の規模を持つ食料品商会へ一通り挨拶に回ったそうですが。
しかし、大商会に門前払いされた話が広まっていたからでしょうか。
中には下働きに対応を押し付けるだけの商会や、挨拶の品だけ受け取ると早々に退出を促すような、露骨に軽んじた態度を取る者たちもいたそうです。
もちろん常識的な対応をとった所もあるそうですし、中にはハイリお兄様のお眼鏡にかなった商会もあるようですから、そろそろ私は隣国に向けて商品を運び入れるための商隊を組みましょうか。
取引先の選別はハイリお兄様と通商局にお任せしておけば間違いないでしょうからね。
◇
side:ハイリンヒ
挨拶回りを終え借りている宿で待機していると、ウィスキーを渡したほぼ全ての商会から、取引を望む書簡が届いた。
ただこちらが新興だからか私に威厳がないからか、舐めた態度を取る所も多く、中には事前連絡もなく突然宿まで押しかけてきて「今ある在庫を全て渡せ」と宣った所まであった。
一応、隣国とはいえ伯爵家のお抱え商会って設定なんだけどね。ケルファだからダメなのか……。
――まあ相手を見極める為にあえて低姿勢でやり取りした、私たちの態度にも原因があるのかもしれないけれど。
だがあのウィスキーを味わって、こちらが下手に出ているからと舐めた態度を取る所は、将来性がなさ過ぎる。
駆け引きのつもりだとしても悪手だ。
そういえば挨拶の際に散々な態度をとった商会も、平然と取引を望む書簡を送ってきたが、謝罪の一つもなかったな。
勿論そんな所とわざわざ取引をする必要はないので、結局こちらを対等かそれ以上に扱い、条件のすり合わせが出来た三つの商会と取引を始めることにした。
ただ熟成酒を売るのは、その中で最も大店のマケイド商会だけ。
他二つの商会には通常のウィスキーのみ卸すことになった。
これは熟成酒が高級酒であるため、ある程度の資本や取引先がないと売り先に困ることや、話題になったあとで他の大店に無理矢理奪われるのを懸念してのこと。
帝国でも上位につけるマケイド商会ならば、他の大店からの横槍が入っても渡り合えるだろう。
――それにあそこの商会長はなかなかやり手に見えたからね。
まあ通常のウイスキーでも充分商売になるだろうし、その他、カーハインド産の農作物や果樹の取引も行なうので、調子に乗って下手な商売をしなければ、この三家が急成長することは間違いない。
念のため契約締結前に情報局に、より詳細な調査を依頼したが、民からの評判も商会の内部事情も今のところ悪くはないそうだからね。
ただ我が領と取引をすることは大きな利益を上げる一方、面倒ごとも引き寄せるだろう。
商会が成長すれば内外問わず色気を出す者が現れる可能性もある。
しばらくはこの三家の動向を情報局に見守ってもらいたいところだが、こちらも人手が潤沢な訳ではないから難しいな。
さああとはローラが手配してくれた商隊の到着を待って、カーハインドに帰ろう。




