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知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 side:隣国サイブル帝国のとある商人


 今日は隣国であるケルファ王国の商会が挨拶をしたいとのことで、店で相手の到着を待っている。


 あの国は大した技術も商品もないくせに、高圧的な者が多いので乗り気はしなかったが、都合伺いに訪れた者が熱心で人柄も良かった為、その者の顔を立てて会うことに決めた。


 我が商会はこの国ではそこそこ大店で、もし商談を迫られていたなら紹介もない者と会うのは断っただろうが、挨拶くらいなら良かろうと思ったのもある。

 商人は繋がりが大事だからな。


 なんでも当国と隣接しているカーハインド領――ケルファでは辺境とされている領地のお抱えの商会だとか。


 海や山に囲まれた領地で、ケルファの王都に行くより我が国の帝都に来る方が早いそうだ。


 ――はてさてどんな人物が現れるかな。


 ◇


「お初にお目にかかります。ハイド商会会頭のハイドと申します。

 本日はお忙しい中、お時間を頂戴しましてありがとうございます」


(――え。これ商人じゃないだろ……)


 肩口で切られた緩くウェーブのかかった銀髪。女性と見紛うような綺麗な顔立ち。落ち着いた柔和な表情。どう見ても貴族だ。


 それともまさか詐欺師か?

 パトロンがたくさん付いている凄腕の詐欺師は、上流階級の人間よりもよほど裕福で振る舞いも優雅だと聞くが。


「そんなに警戒しないでください。私はただの商会の会頭ですよ。

 それもこちらとは比べ物にならない程小さなね」


 苦笑しながら眉を下げ、困ったように声を掛けてきた男に驚く。


 ――これでも長く商売をしている。

 内心を隠して笑顔を取り繕うなど慣れたものだ。

 まさかそれをこうも簡単に見抜かれるとは。


「……いやぁ申し訳ない。あまりに若く容姿端麗な姿に驚いてしまいまして。

 マケイド商会の会頭、マケイドです」


「いいえ、よく胡散臭いって言われるんですよ。

 何がいけないのでしょう? 髪型でしょうか?」


(間違いなく顔だよ!)


「――くくっ。いや失礼。面白いお方ですな」


 自分から胡散臭いなどとマイナス面を伝え弱みを見せることで、胸襟を開き打ち解ける姿勢を見せる。

 ――若いのになかなかやるな。


 ケルファの者とは思えないほどの低姿勢ぶりに、少なくとも苛立つ時間を過ごさずに済みそうだと、気分が上向いた。


「ほんとに悩んでるんですけどねえ……。

 この前なんて、私の顔を見た途端に回れ右して帰ってしまわれた方もいて。

 だからこそ、本日お会いいただけて本当に嬉しいのです。

 お礼と言ってはなんですが、当商会のとっておきをお持ちしましたので、どうぞお納めください」


 そんな風に言われて嫌な気分にはなる者は少ないだろう。

 すっと差し出された箱には紋章が押されている。


「この紋章は……?」


「当商会をご贔屓にしてくださっている、カーハインド家のものです。

 こちらは我が商会が専売品としてお預かりしている品でして……。

 驚いていただけるかと。是非中をご覧ください」


 箱にかかっている紐をほどき、蓋を開ける。


「なんと美しい……!」


 思わず声が漏れた。

 このボトルは硝子か? キラキラと輝いている。繊細なカットが美しい。


「素晴らしいですな。芸術品のようだ」


「ありがとうございます。

 ですが中身にはもっと驚いていただけると思います」


 中に入っているのは金色に輝く水。これは一体?


「よろしければ開封してご説明させていただいても?」


「もちろんです」


「では失礼して……」


 男は柔和な表情を崩さぬまま、新たな箱を取り出すと、中からグラスを二つ取り出した。

 これも美しい! ボトルと揃いに見えるな。


 そのまま男が封を破りボトルを開封すると、辺りに濃い酒の匂いが漂う。


「もしやそれはお酒ですか?」


「穀物を蒸留し、熟成させた酒です。

我々は“ウィスキー”と呼んでおります」


「ほう……」


「特にこちらは、長い年月を掛けて仕上げた特別な品になります。

 度数の高い酒ですので、一気に飲まず、香りを楽しみながら少しずつお召し上がりください」


 指二本分ほどの酒をグラスに注ぐと、男は見本を見せるように先に口へ含んでみせた。


我が国にも蒸留酒自体は存在する。火酒と呼ばれる、喉を焼くような強い酒だ。

ただ、味わいを楽しむ類のものではなく、寒い日に身体を温めるための薬酒として飲まれているようなものだ。


 どれ――酒は嫌いではないからな。新しい酒と聞けば、試してみたくなる。


「――ごほっごほっ!これは……」


「あぁっ大丈夫ですか? 火酒のように飲むと喉を痛めますので、少しずつですよ!」


 火酒の類だと思って勢いよく煽った瞬間、強い香りと熱が喉を抜け、思わず咳き込んでしまう。


 眉を下げた男は、空いたグラスへ手際よく水を注ぎ、こちらへ差し出してきた。


 水を飲み干した途端、先ほどの酒の芳醇な香りが鼻から抜ける。身体の奥からじんわり熱が広がっていくようだ。


(……なるほど、これは火酒とは別物だな)


「大丈夫ですか?

 水を足して飲んでも美味しいですよ」


「いやはや、新しい酒と聞き気が逸りましてね。驚かせて申し訳ない。

 ――せっかくですのでもう少しこのまま頂きます」


 今度は少しだけ口に含み舌の上で転がしてみる。なんとまろやかで深みのある味だ……。

 鼻から抜ける香りもたまらん。


 次は水で割ったものもいただく。

 ……ああ、これはこれで美味い。香りはこちらの方がよくわかるか?

 これは売れるな。間違いなく売れる。是非取引をしたいが、ケルファの貴族か……。


「お気に召していただけましたか?」


「ええ、とても」


「それは良かったです。ではこちらもどうぞ。

 先ほどのものよりお求めやすい価格の物で、これはこれで違った美味しさがありますよ。

 よければ従業員の方々とでもご一緒に。

 後日感想を聞かせていただけると嬉しいです」


 男は小さな木樽を置くと優雅に頭を下げた。


「ではあまり長居しても申し訳ありませんので、本日はこの辺で……」


「ちょっと待ってくれ!

 いや言葉を遮って申し訳ない。この酒の取引については、カーハインド家へ問い合わせすれば良いのでしょうか?」


「いいえ、取引についても全て我が商会に一任されております」


 なんの具体的な話もなく、本当に挨拶だけで帰ろうとするとは思わなかった。

 慌てて引き止めてしまったが、紋章の入った商品の取引を一任されているとは。


「ずいぶんと信用されてるんですね」


「いえ、御家は元が商人の家だったからでしょうか。現場での判断というものの大切さをよく存じていらっしゃいます。

 それと商売のことは商人同士で話し合う方がスムーズだ、ということもね」


 男はパチンと片目を閉じると、泊まっている宿の名を告げて帰ってしまった。



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