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「姫に頼まれたポーションの分析でさ、一つだけよくわからない物があって。
調べてみたら月光草の成分だったんだよね」
月光草?
月光草はその名の通り月の光のような青白く美しい植物ですが、葉をめくると裏側は無数の黒い斑点に覆われていて、私の知識には"非常に毒素の強い草""表の見た目に惑わされて安易に触らないように"としかありません。
……まさかポーションに毒を入れるわけではないでしょうし。
「月光草って結構強い毒物の一つだから僕は元々知ってたんだけど、毒さえなければ優秀な回復能力を持つ薬草にもなるんだよね。
死にそうな傷を負ったときに側にあれば一か八か食べてみようかなと思うぐらいの」
それは知りませんでした。ロルフは勉強熱心ですね。
「まあ僕みたいに毒に慣らしてない人間だったら、仮に傷が治っても月光草の毒で死んじゃうだろうけど」
「そんなに強い毒ならポーションになんて入れられませんよね――まさか浄化?」
「そう、多分ね。
聖王国は浄化で毒素を消した月光草をポーションに使ってるんだと思う」
浄化の魔法は長らく教会で真摯に祈りを捧げた者に発現するとされている魔法です。
確かアンヌ様もお使いになられたはず。
また協会の総本山がある聖王国では、浄化魔法を持って産まれる聖女がいると聞きますが、こちらは聖王国側が「聖女が唯一産まれる我が国は神に愛された国である」と吹聴しているものの確証は得られていません。
教会が浄化魔法を使い死者の魂を浄化することで、アンテッド化を防いだり瘴気の発生を抑えたりしているのは事実で、葬儀を執り行うことが多い教会では欠かせない魔法ですが、まさか毒消しにも使われていたなんて。
「私も浄化の魔法が使えますのでロルフさんに頼まれて実験に参加いたしましたが、月光草に浄化をかけると驚くほど綺麗に裏面の黒点がなくなりました」
まあ! アンヌ様まで実験に参加してくださっていたのですか。お忙しいでしょうに。
「アンヌ様が浄化してくれた月光草を調べたら、予想通り毒素が完全に消えてたよ」
ということは、あの裏側の黒点が毒素ということですか。
「ただ月光草は浄化を施しても翌日に確認すると、また薄っすらと黒点が浮かんでおりました。
それに浄化魔法は精神的な疲労が伴うため、お役に立たず申し訳ないのですが、私一人で領内のポーションの必要量を確保するのは難しく……」
アンヌ様には他にもお仕事が沢山ありますし、そもそも誰か一人にしか作れない依存度の高い物を生み出すつもりはありません。
「でね、毎回アンヌ様に頼るわけにはいかないし、姫が求めてるのもそんな方法じゃないってわかってるからさ。
他の方法を探してたんだ」
「その通りです。さすがロルフですね。
ではその方法に時間加速装置が必要だと?」
「うん。月光草っていうんだから、月の光に関係があるんじゃないかって思って、一晩月光にあてて様子を見たんだ。
そしたらほんの少しだけど黒点が薄くなっててさ。
これだ! って喜んだんだけど日中には元に戻っちゃって……」
私は月光草という名は、その姿からつけられたものだと思っていたのですが、ロルフは違う意味があると考えたのですね。
――それにしても消えたはずの毒素が戻る、ですか。
月光だと毒素を分解する力が弱く、実際には分解出来ていなっかったからすぐに見た目が戻った?
――いいえ、浄化魔法をかけ毒素が完全に消えた物も翌日には黒点が浮かんでいた……つまり――
「原因は太陽光?」
「さっすが姫!
俺たちその答えに辿り着くまで時間かかったのに〜」
月光草は月の光で毒素が薄まり、太陽の光で毒素を溜め込む、と。
「それに気付いてからは、夜は月光にあてて、太陽が昇る前に光が通らないところに保管場所を移して、って時間をかけて実験してるんだけど、月光の力だけだと弱いのか、太陽光が当たってしまっているのか、薄まってはいるんだけど、まだ完全に黒点が消えたものがないんだ」
「それは大変な実験ですね……!
毎朝早くからありがとうございます。
アルフお兄様、もう一つ作れますか?」
「大丈夫だよ。設計図があるから僕じゃなくてもできるから。
ついでにお酒用の装置も増産しておくよ」
「やったあ!」
数が増えればブランデーも装置にかけられますね。
ありがたいです。
「ただどの段階で毒素を溜め込む性質が失われるのかな?
ポーションになってからはもちろん大丈夫なんだろうけど、乾燥させたとき? 粉砕したとき?
それがわからないと、ポーション作ってる最中に毒素を溜め込んだら大変だよ」
アルフお兄様のおっしゃる通り、そこも解明が必要ですね。
さすが研究者、問題を見つける視点に優れていらっしゃいます。
「ほんとだね! アルフレート様ありがとう!
そこもしっかり確認しながら実験するよ」
「私もお手伝い致しますので、浄化が必要なときはおっしゃってくださいね」
「アンヌ様もありがとう。
無理させたくないんだけど、どうしても比較実験は必要だし、またお願いするかも」
「気を遣っていただかなくても、続けて何度もかけなければ大丈夫ですよ。
お勤めの一つとして毎朝教会に浄化をかけていますが、なんら問題ありませんから」
毎朝教会を浄化されているのですね。
だから教会は清廉な雰囲気がするのでしょうか?
ともかく時間加速装置は色々な実験に利用できそうです。これで領の発展がまた進むでしょう。




