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試飲会の翌日、領内会議が開催されました。
皆忙しいでしょうし、本当は昨日の試飲会で済ませてしまいたかったのですが。
……あまりにも人数が増えてしまい、機密性の高い話ができる状態ではなかったですからね。
「いやあ昨日の酒は美味かった」
マルクお兄様の言葉にお父様も深く頷いていらっしゃいます。
ん? お母様も小さく頷いていらっしゃいますね。気に入ってくださったなら良かったです。
実は、収穫できた葡萄やリンゴを使って、ブランデーの原酒も作ってあります。ですが、時間加速装置が空いていないため、まだ熟成には回せていません。
ちなみに、これに関しては箝口令を敷いていて、会議のメンバーにもまだ伝えていません。
だって、試飲会の催促があまりにも……あまりにもで……お酒のことはすべて見通しが立ってから話そうと決めたのです。
そろそろ果実酒も、最初に漬けたブルーベリーやオレンジなどは飲み頃なのですが、試飲会は必要ですか?
だって本当にめんど――いえ大変な騒ぎで。
それはさておき――今日はウィスキーをボトルに入れ紋章で封を施し、さらに立派な木の箱に入れて贈答品の形にしたものを持参しました。
箱の蓋にもカーハインドの紋章が焼き付けてあり、さらにボトルとお揃いのグラスも用意してあります。
結局ボトルは、すでに販売している一年未満のウイスキーは、今まで通り樽で。
装置に一ヶ月入れおよそ三年熟成したものを、シンプルな透明のボトルに。
三ヶ月入れおよそ七年熟成したものを、カットを施したボトルに。
半年入れおよそ十五年熟成したものを、金箔入りのボトルに入れることにしました。
といっても十五年ものはまだ出来上がっていないので、中身は空ですが。
「これを近隣諸国の商会にご挨拶代わりにお配りしましょう」
お母様が七年熟成を指しておっしゃいました。
そうですね、三年ものよりも違いが顕著ですし、ボトルも美しいですからね。
噂を聞きつけた王家や王都の者があとから文句を付けてくる懸念もあるので、十五年ものは一般販売はせず、特別な献上品として秘蔵しておくことに決めました。
「エルザ、商会の目星は付きましたか?」
「ええ、ある程度の資本金や販売物、経営状況などを調べて、大店から順にピックアップしてありますわぁ」
「ではハイリお兄様、通商局として動き出してください」
「そうだね、ちょうど雪解けの時期だ。すぐにかかろう。
そうそうローラ、その時間加速装置、魔石の充填にも使えないかな?」
「魔石の充填に、ですか?」
魔石研究室が見つけた魔石の充填法は、もとい再利用方法は、魔石を一週間純水に漬けたあと乾燥させ、適した場所におよそ一月から二月置いておくというもの。
「それいいじゃん! さすがハイリンヒ兄様!
実験してみなきゃわかんないけど僕は使えると思う」
アルフお兄様が言う通り、確かにいいかもしれません。
魔石を置くのに適した場所というのは望む属性によって異なり、例えば土の魔石にしたいなら地中、光の魔石にしたいなら太陽や月の光が当たる場所、水の魔石にしたいなら水瓶の中――のように、それぞれ使いたい属性に合った場所に一定期間置いておくのです。
ただそれで土の成分が変化したり、水瓶の水が減ったりということはないので、農作物を時間加速させたときのように、周囲に影響を与える可能性は少ないはず。
今、魔石研究室では「魔石は周囲の状況に合った属性に変化し固定する環境適応能力があるのでは?」という仮説のもと、実験が重ねられています。
もし魔石に時間加速装置が使えれば、再利用魔石の使い勝手は更に良くなりますし、どんな環境に置けば良いのか未だ解明できていない魔石や、より効率の良い充填環境の研究も捗るでしょう。
「ですがアルフお兄様、時間加速装置は増産できるのですか?」
「それは大丈夫! 一回作ったから複製は難しくないよ。
必要な材料も珍しい物は時間魔石ぐらいだけど、これもシルが王都のお土産に沢山くれたから。
……ただ装置が大きいから、置き場所は考えなきゃだけど」
王都では、魔石は魔法の触媒にして使う方法しか知られていないので、あまり価値が高くありません。
なぜなら、例えば火魔石を触媒として魔法を使っても、生み出せるのは種火程度であり、攻撃に用いられるほどの威力はありません。
水魔石も、せいぜいティーカップ一杯ほどの水を出せる程度です。
そうなると、貴族は必要性を感じませんし、生活に余裕のない民にとっては、使い捨ての魔石より火打石や井戸のほうが実用的になります。
結果として、魔石を購入するのは旅人や巡礼者、あるいは行商を行う商人くらいに限られ、魔石は余りがちになっているのです。
特に時間魔石のような使い道が知られていない魔石は、"捨て値で売られていた"とシルが言っていましたが、まさかお土産に買い込んでいたとは。
「さすがお兄様です!
装置の場所は魔石研究室と共に決めていただいて、魔石の充填に使えるのか、周囲に及ぼす影響がないのかも含めて実験をお願いします」
「オッケー。魔石研究室と一緒に試してみるよ。
サイズも多少なら変更出来るだろうし」
私がお酒の大樽が入るサイズで作るよう依頼しましたからね。
魔石用ならもっと小さいほうが使い勝手が良いかもしれません。
「姫、それなら保健局にも時間加速装置が欲しい!
ポーション作りにも活かせるかもしれない」
ロルフが目を輝かせて挙手しています。
ポーションは現在、教会の総本山がある聖王国の専売品で、私が領内で生産できないかと保健局長のロルフに成分分析を依頼していたものですね。
装置をポーションにどう使うのでしょう?




