34
「――できたっ! ローラできたよ!!」
あれから三月も経っていないというのに、アルフお兄様から時間加速装置ができたと連絡が入りました。
さすがアルフお兄様です。
「一日装置に入れることで三十日分時間の経過を早めることができるはずだよ。
ほんとはもっと伸ばしたかったんだけど、下手にこだわるより早く渡した方がいいかと思って」
「――!充分ですわ」
本当に。三日でも早まれば御の字だと思っていたのに、こんな短期間で一月分も早められるなんて信じられません。
早速先日仕込んだウィスキーの樽を装置に入れてみましょう。
経過を観察する必要がありますから、小樽に分けて装置に入れていないもの、入れる期間を変えたものなど何パターンか試して、出来上がり次第、試飲会を開きましょう。
◇
「ローラ、試飲会はいつ開くんだい?」
今度はお父様ですか……。
時間加速装置の完成を知らせてからというもの、ひっきりなしに試飲会の開催予定を聞かれます。
さらにどこからか試飲会の話が回っているのか、工事をお任せしている親方や研究所の研究員、色々な工房の職人など、元々誘う予定のなかった方々にも「呼んでくれ」と頼まれ――いや懇願されて、試飲会の規模がどんどん大きくなっています。
本当は半年ほど置いて十五年ものを出したかったのですが、待ちきれないようですので、七年ものが出来次第試飲会を開くことにしました。
試飲会当日
領主館でも一番広い会議室に人がごった返しています。
――足りるでしょうか。不安になってきました。
今日はウィスキーの試飲会です。
まずはそれぞれ開封し、少しずつ透明度の高い硝子のグラスに注いでいきます。
「――おぉっ! 色が全然違う」「黄金色のお酒なんて!」
むさくるしいおじ様と、ときどきお姉様方が身を乗り出しグラスを眺め歓声を上げています。
早く飲ませろと言いたげな無言の圧がすごいですね。
まずは装置を取り付けていない、二ヶ月経過の物をさらに小さなグラスに注いで配ります。
「うめぇ!」「このガツンとくる刺激がたまらん」「やっぱり美味しいわね」
飲み慣れた味でしょうに盛り上がりますね。まあ蒸留酒自体、他で作っているところを聞かないので、こんなにアルコール度数が高いお酒はケルファではカーハインドでしか飲めないでしょうけれど。
このペースだと日が暮れてしまいますので、熟成の浅い順からどんどん配って行きましょう。
「すげえ……」「なんだこの香りは!」「まろやかだわぁ」
会が進み七年ものを呑む頃には皆さん出来上がってきていて、試飲会なのか飲み会なのかわからない有様になってきました。
ただわかったことは皆さんそれぞれ好みがあり、熟成期間が長いものほど人気が高いという訳でもないことです。
それでも熟成させることでお酒が別物に変わるということは身をもって理解してくれたようで、"これは商売になる"と口を揃えて断言してくれました。
おかわりを求められましたがこれ以上呑ませると本当にただの飲み会になってしまいそうですので、ここらでお酒は片付けてボトルの紹介に移りましょう。
一つ目は透明度の高いシンプルな四角いボトル。
二つ目はボトルの下部にカットを施した光の反射が綺麗なボトル。
三つ目はガラスに金箔を混ぜ込んだ華やかなボトルです。
「ほう……」
どれも職人の技が光る素晴らしいボトルですから、皆が感嘆の声を上げるのも当然ですね。
「これは芸術品だね」「ボトルだけで売れそうだ」「もっとカーハインド産だとわかりやすくしたいな」「転売対策も必要ね」
確かに転売対策は必要ですね。
素直にボトルの価値で売るなら兎も角、空のボトルに安酒を入れて「カーハインドの酒だ」なんて売られては堪りませんから。
ボトルとコルクの間に封蝋を施す――いえ、封蝋にする必要はありませんね。
紋章を押した紙をコルクからボトルにかけて貼り付けて、破らなければ開けられないようにすればセキュリティーになりますし、カーハインド産だと主張もできます。
それに紋章の模倣は重罪ですから、模造品を抑制する効果も期待できるでしょう。
ちなみにカーハインドの紋章はフクロウと、初代当主が商人をしているときに見つけ持ち帰った、多肉植物の丸い葉が描かれたものです。
初代様は丸い葉が硬貨にそっくりだと気に入って育てていらしたようですよ。




