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約二月ぶりにカーハインド領へ戻ってきました。
私たちの帰還を皆嬉しそうに、安心したように迎えてくれて――ようやく帰ってきたのだと、ほっと胸を撫で下ろしました。
数日ゆっくり過ごさせてもらいましたので、今日からまた領地改革を進めましょう。
王都へ赴いて痛感したのは、圧倒的な力と経済力の差を示さなければ、我が領地の穏やかな独立は難しいだろうということです。
王都には地方を軽視し、見下す風潮が想像以上に根深く広がっていました。
多少豊かな程度の領地であれば、自らの権威と歴史を盾に容易く取り込めると考えている者も少なくありません。
ですがその一方で、おかみさんのような温かな人が居ることも知りました。
ですから王都との武力衝突を望まない気持ちに変わりはありません。
ただそれをを為すためには、誰の目にも明らかなほどの圧倒的な軍事力と経済力を備え、「戦うべきではない」と思わせる必要があります。
これまでは王都に目を付けられないよう、目立たないことを優先した改革を進めてきましたが、これからは多少のリスクを恐れずより早く、より強く、より豊かな領地を目指して大きく動き出そうと思います。
それに今なら、王家との婚約話も相手側に非がある形で白紙となった直後です。王都としても、こちらへ強く干渉しにくいでしょうから、動くには悪くない時期です。
ただこれはあくまでも私の意見です。明日開かれる家族と六人の局長を集めた領地会議で議題に挙げて、皆の意見を踏まえた上で領としての方針を定めなければ。
つらつらと考え込んでしまいましたが、今日は視察に行く予定です。急がないと。
◇
まずは今年こそ実をつける果樹があるのではないかと皆が楽しみにしている果樹園へ。少し遠いので飛行艇で向かいます。
果樹園から少し離れた場所に飛行艇を降ろすと、農家の皆が笑顔で駆け寄って来てくれました。
「姫様!りんごと葡萄の木に実がつきました!」
「ブルーベリーはもう収穫できます!」
「まあ素晴らしいわ!皆の献身のおかげね。
実が出来るまで時間がかかるから不安だったでしょうに諦めずによく続けてくれたわ!」
山裾の冷涼な気候を生かす為に始めた果樹の栽培ですが、苗木を植えて実をつけるまで最低でも三年はかかる見通しでした。
果樹農家の方々はカーハインド家で雇用し、毎月決まった給金を支払っていましたから、生活への不安はそこまで大きくなかったと思います。
それでも、農家の方々にとって『実りが見えない』という状況は精神的に堪えるものです。きっと、モチベーションを保つのも大変だったでしょう。
ですが腰を据えてやり遂げてくれました!
これでまた領地の新たな名物が生まれます。
収穫を手伝わせてもらいつつ、他の果樹も見て回ります。このまま順調にいけば今年は葡萄も収穫できそう。
果物は足が早いですから、収穫物の利用先を今から決めておかなければ。忙しくなりますね。
◇
果樹園を出て飛行艇に乗り込むと、領主邸まで戻ります。領主邸の隣にはアルフお兄様のいらっしゃる研究所がありますから、今度はこちらの視察です。
まずはガラス工房。ガラス窓に使えるような、透明度が高く歪みが少ない板ガラスは製造が難しく、ケルファでは超高級品です。王城や一部の貴族家にしかないでしょう。
しかし私が簡単な製造方法を伝えたことで、ここには沢山の板ガラスが並んでいます。
カーハインドでは、現在のところガラス窓が使われているのは領主邸や教会くらいのものです。
しかし室内の明るさは木板窓とは比べものになりませんから、そろそろ領都を中心に、領地全体へガラス窓の普及を進めていきたいところですね。冬場の寒さ対策にもなりますし、住民たちの生活水準向上にも大きく貢献してくれるでしょう。
次に来たのは魔石研究室。これまで魔石は、手で握り、魔法を行使する際の触媒として使うのが一般的で、用途も限られていました。
しかし私が魔石を道具の動力源として利用できる可能性を示してみせると、そこからすごいスピードで研究が進みました。
今では、これまで使い捨てだった魔石を再利用できるようになり、魔石を動力源とした魔道具を開発する"魔道具研究室"まで設立されています。
ここで生み出された便利な魔道具も、領地全体へ普及させていきたいですね。
他にも薬の研究室や金属の精錬所、作物の品種改良場、化学工房などの施設も視察しましたが、どの施設でも素晴らしい成果が出ています。
この成果を早く領民に還元していきたいですね。
最後に騎士団の訓練場へ顔を出して、本日の視察は終了です。
行きたい場所が多すぎて一箇所の滞在時間は短かったですが、とても有意義な一日になりました。




