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やりましたね! 目標達成です!
まさかマリウス王子があそこまで馬鹿――いえ単純? 素直? だとは思いませんでしたが、こちらとしては嬉しい誤算です。
宿に戻ると私たちは即座に領地に戻る準備を始めました。もうすぐ夕暮れですが、要らぬ横槍が入る前に王都を出てしまいましょう。
宿のおかみさんに親切にしてくださったお礼を述べて、前金で支払っていた宿代とは別に多めの礼金も支払います。
おかみさんは目を白黒させて「こんな大金受け取れないよ」と困惑していましたが、無理矢理押し付けました。ずっと私を案じて心を砕いたもてなしをしてくださいましたからね。
「マリーさん、何か困ったことがあればカーハインド領へお越しください。必ずお力になると約束します」
私が力を込めて言うと、おかみさんは一瞬目を瞬かせて「ありがとう。元気でいるんだよ」と微笑んでくれました。
さぁ、帰りましょう! カーハインド領へ!
◇
side:情報局 局員
「オリビア嬢、ありがとうございました。こちらお約束の謝礼です」
「どーも。このドレスももらっていいんだよね?」
「はい。今まで使用したドレスや宝飾品もすべてどうぞ」
「やったぁ。太っ腹! あのくそおやじとはえらい違い。
でもほんとにこのまま王子様の婚約者にされちゃったりしない?」
「それは問題ないかと。王家との婚姻には莫大な費用がかかります。
サーストン侯爵がそこまでして王家との縁を望むとは思えませんから」
実際、以前にサーストン侯爵家の三女が第二王子の婚約者候補として名前を挙げられたことがあったが、侯爵は王家との婚姻を嫌い、三女の婚約者を早々に決めることでその話から降りた聞く。
「なら良かった。あんな頭空っぽで生活力なさそうな男と結婚とかまじ勘弁だから」
「私共はしばらくはあなぐま亭に滞在しておりますので、何か不都合がございましたら遠慮なくお訪ねください」
――うまくいって良かった。
オリビア嬢が、サーストン侯爵家の庶子だったのは事実だ。もっとも、本人がそのことを知ったのはつい最近のようだが。
それまでは酒場で働く母親と共に、どこにでもいる平民として暮らしていた。
生活は楽ではなく食事にさえ困る日もあったが、実の父親であるサーストン侯爵からの援助は一度たりともなかったそうだ。
それでも二人きりの毎日はそれなりに幸せだったという。母親も侯爵とはとっくに縁が切れており、ただ懸命にオリビア嬢を育てていた。
そんな生活が一変したのは、侯爵夫人が亡くなったあとだ。
何を思ったのか、侯爵は突然オリビア嬢たち母娘を侯爵家へ呼び寄せたのだ。しかも拒否権などないも同然の、半ば強制的な形で。
だが、元愛人とその娘が歓迎されるはずもない。
使用人たちの視線は冷たく、親族たちは露骨に侮蔑を隠そうともしない。そんな侯爵家での暮らしは豪華ではあったが、息苦しく、不自由なものだったという。
オリビア嬢も母親も以前の慎ましくとも穏やかな暮らしへ戻りたいと願っていたが、侯爵はそれを決して許さなかった。
おそらく、オリビア嬢は平民育ちにしては器量が良かったため政略の駒として利用できると考えたのだろう。サーストン侯爵家にはすでに年頃の娘がいないからな。
――これは使える。
院政家の弱みを探るため諜報活動を進める中でこの話を掴み、我々情報局はオリビア嬢への接触を図った。
「我々の作戦にご協力いただけませんか?報酬は、サーストン侯爵家からの解放。そして市井へ戻った後も、しばらく生活に困らないだけの金銭をご用意いたします」
オリビア嬢は貴族としての作法こそまったく身についていなかったものの、頭の回転は非常に速かった。
そしてこのまま侯爵家に留まれば、育ててもらった恩義すらない家の都合で、見ず知らずの男へ嫁がされる可能性が高い。そう理解すると、作戦への参加を決意してくれたのだ。
そう――つまり、今回王子がオリビア嬢と出会った瞬間から、すべて我々情報局が仕組んだ作戦だったということだ。
もっとも、まさかあそこまで簡単に王子が踊ってくれるとは思わなかったがな。
我々は王子が頻繁に出入りしている劇場や夜会の情報を掴み、そこでオリビア嬢との“運命の出会い”を演出した。
そして、彼女にすっかり気を許した王子が、顔合わせから逃れたいと愚痴を零した際、
「可哀そうなマリウス様。ほかに婚約者がいれば、そんな田舎娘と婚約させられずに済んだのに……」
そう彼女が呟いただけで、王子は完全にこちらの思惑通り動き始めたのだ。
それにしても、あれほど多くの貴族が集まる場で、最後まで堂々と役目を演じ切ったオリビア嬢の胆力と演技力は凄まじい。
いっそ舞台女優にでもなったほうが、才能を活かせるのではないだろうか。
……あるいは、カーハインドへ来てもらうのも悪くない。
あれだけ頭が回り、度胸もある人材なら、任せられる仕事はいくらでもある。
一応、声だけはかけておくとしよう。
次からいよいよ本格的な内政パートスタートです!
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