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知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 side:宰相


 なんと言うことだ! なんと言うことだ!!


 散々待たせておきながら失敗しただと!?

 しかも逃した!?


 ふざけるな!! 息子の手綱ぐらいきちんと握っておけ!

 とにかく勝手なことをする前に見つけ出して連れ戻さねば。


 廊下を足早に歩いていると衛兵が駆け寄ってきた。


「宰相閣下、先ほどマリウス王子が院政会議の場に」


「なんだと!? なぜ通した!?」


「必死でお止めしましたが、武力を行使するわけにもいきませんので……」


 最悪だ。とにかく会議の場に行くしかない。


 ◇


 会議室は入る前から異様な空気に包まれていた。

 開け放たれた扉の向こうで、誰かの肩を抱くマリウス王子の姿が見える。

 あれは誰だ? 幼子のようなフリフリのドレスを着て、王子にしなだれかかっているが。


 仕方なしに入室すると、会議室の視線が一斉に私に注がれた。

 ――その目に映るのは哀れみか嘲笑か。


「これは何の騒ぎだね? マリウス王子もこんなところで何をされているんです? ご説明いただけますか?」


 王子はフンっと鼻を鳴らし蔑むような目を私に向けると、隣の女をさらに強く抱き寄せた。


「今ここで私の婚約を発表したところだ。

 ここにいるオリビアこそが私の婚約者に相応しい」


 あぁ……院政家の会議の場でなんとバカなことを。それにしてもこの娘は誰だ?

 王都貴族の娘であれば見覚えがあってもおかしくないが、全く記憶にかからない。


「オリビア譲? 家名をうかがってもよろしいか」


「はぁい! オリビアはぁーサーストン家の娘ですぅー」


 なんだその頭の悪そうな喋り方は。

 それにしてもサーストン侯爵家にこんな娘がいたであろうか? サーストン家の令嬢は皆もう少し年嵩で、全員嫁に出ているはず。


「失礼だが君を王都で見かけた記憶がないのだがね」


「あぁそれはぁーオリビアがサーストン家に来たのが最近だからじゃないですかぁー?

 オリビアのお母様はお父様の愛人だったんですけどぉー最近ようやく正妻が死んだからって家に呼んでもらえたんですぅー」


 つまりは庶子か。院政家の一人であるサーストン侯爵を探すが見つからない。そういえばしばらく奥方の喪に服すゆえ休暇を取ると連絡があったな。喪に服している最中に愛人を招き入れたのか。呆れたものだ。

 こうなればもうサーストン家に王子を押し付けるしかないか。


 私が思案していると、許可も取らずに娘がまた喋り出した。


「でもぉーサーストン家の元奥様ってぇーほんと心が狭くてぇーオリビアたちぃーずぅっと大変だったんですぅー。お母様を第二夫人にするのも嫌がっちゃってぇー貴族のくせに心が狭いですよねぇー」


 ん? 貴族のくせに? まるで平民のような言い方を・・っもしや母親は平民か!?

 サーストン夫人からすれば平民が第二夫人になるなど許せなくて当然だ。


 しかしもし本当に母親が平民ならば庶子として生まれたこやつは、我が国では貴族とは認められぬ。

 そもそも今も家に呼んだだけで婚姻関係を結んでいないのではないか? いくら後妻だとしてもサーストン家当主が平民を正妻にするとは考えられぬ。

 だがそうなると婿養子をサーストン家に押し付けるのが難しくなる。


 仮にこやつが王子に嫁ぐならばどこかの家の養子にするなどまだやりようはあるが、養子先に王子が婿入りなどできるわけがない。

 夫婦ともにその家の血を引いていないとなれば、それはただのお家乗っ取りだ。


 如何ともできぬか……。ただサーストン家が娘を王家に出すことに反対する可能性は高い。あやつはケチだから高額な婚姻費用など出そうとはせぬだろう。

 せめてサーストンの反応を見るまではカーハインドの者を王都に引き留めておきたい。周囲の激しい反対に会えば馬鹿二人も心変わりするかもしれんからな。


「そんな酷い目にあってもオリビアはいつも前向きで、素晴らしい女性なんだ。

 私の心に寄り添ってくれる優しいオリビア、私の伴侶は君以外あり得ない!」


 人前でいちゃいちゃべたべたと。恥じらいもないのか。こんな頭がお花畑のような女が王家に増えれば、ますます苦労が増えるのは確実だ。

 やはりカーハインドを諦めるわけにはいかぬ。


「もう二度とあのような地味な芋娘との縁談など持ってくるなよ!

 野蛮な辺境で育った娘が王家に相応しいわけがなかろう。そんなこともわからんとは宰相も随分と鈍ったものだ」


 やかましいわ。態度だけ一人前の無能王子が。

 此奴カーハインドの娘をどこかで見ていたのか。――あの地味な姿を見てこの暴挙に出たのだな。

 だが何としてもその田舎にお前を飛ばしてやるわ!


 ひとまずこの件は箝口令を敷き情報を封鎖して……。

 頭の中でカーハインドを引き留める算段を立てていると


 パチパチパチパチ――

「マリウス王子おめでとうございます!」


 誰だ! こんな馬鹿どもに拍手を送るのは。

 後ろを振り返ると、そこに立っていたのはカーハインドの息子だった。嬉しそうに笑みを浮かべて一人で拍手を続けておる。


「やはり当家とはご縁がなかったようですね。残念ですが辺鄙者ゆえ身の程は弁えておりますからご安心を。宰相閣下、私たちは領地に戻らせていただきます」


 しまった! 聞かれたか。だが逃がすわけにはいかぬ!


「いやいや、そんなに急かずにもう少しゆっくりしていけば良いではないか」


 何の策もないがとにかく引き留める!


「いえいえ、地味な芋娘などと言われて妹は気落ちするかもしれませんからね。

 王都にいると叶わない夢を思い出してしまうこともあるでしょう。一刻も早く領地に戻ろうと思います」


 うぐっ――顔合わせに呼び出しておいて散々待たせたあげくにこの有様。しかも王子が楽しみにしているなどと嘘八百を並べ立てていたのだ。

 こいつが心から妹の心情を慮っているわけでないのは百も承知だが、内情を知らぬ皆の前でそれを盾にされると強く出られぬ。


「皆様も、辺境の若輩者に親切にしてくださりありがとうございました。急ぎますゆえ簡易ですがこれにてお別れの挨拶とさせていただきます。

 ああそうそう、先ほど王子殿下からも忠告いただきましたが、カーハインド家は二度と王家の威光を求めることなど致しませんので御安心を。では、失礼いたします」


 こちらが反論する間もなくカーハインドの息子は踵を返すと颯爽と会議室から出て行った。


 後に残ったのは満足そうな王子とニコニコと何も考えていないような顔をした女、それに冷たい視線だけ。



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