22
side:カーハインド家 情報局古参の男
エルザさんの襲撃を請け負った闇ギルドは壊滅した。
数人生き残りはいるだろうが、規模は相当縮小するだろう。拠点もあの通り瓦礫の山と化したから、もしかするとこのまま消滅するかもしれないな。
それにしても楽な仕事だった。
マルクス様とローラ様が恐ろしくお怒りで、虎の子の爆薬も使って派手に潰せと御下命がくだったため、かかった時間はほんの三十分程だったからな。
お二人の怒気に新人の奴らは面白いぐらいビビってたな。お二人とも普段温厚な分、踏み越えちゃならない一線を踏み越えた者には容赦がないんだ。
まあカーハインド家の方は皆様そうだが。
それにしても今まで手の内を隠し俺たちの存在も表沙汰にならないように配慮されていたのに、こんなに派手に事を起こして良かったのか?
確かに王都の奴らはわかりやすく力の差を見せないと、こちらを弱者だと侮っていつまでも好き勝手するだろうから、舐められたままでいるのも良くないとは思うが。
さ、これからあのバカ共三人の屋敷に侵入してもう一仕事だ。こちらは気取られる訳にはいかないから、慎重にな。
◇
side:エルザ
マルクス様と宿に戻ると通信機で姫様に連絡を入れる。ずっと私の身を案じて待ってくださっていたようで、慌てたように通信を取ると無事を喜んでくださった。
全く危険な作戦ではなかったのに、ここまで心配をかけるとは……。
「次からは私がやります!」って姫様、あなたにそんなことさせられる訳がないでしょう。
「じゃあエルザもやめて下さい!」と言われても私は情報局の長なのだから、こういったことも職務の内なのよ。困ったわね。
そもそも私は没落貴族。姫様に心配していただくような身分でもないのに。
◇
私は元、王都貴族。子爵家の娘だったけれど、父が上位貴族との政戦に負け全てを失った。
引き際を見誤ったのでしょうね。父もまた王都貴族らしい権威と面目の為に生きている人だったから。
貴族位を剥奪され平民に落とされた父は、それでも平民として慎ましく暮らすことを良しとせず、仕事を探すこともないまま今までと変わらぬ生活を続けた。
もちろん王都貴族としての給金はもう頂けないのだから、家計はすぐに困窮したわ。
母は父が平民になったときに離縁して実家に帰ってしまい、頼れる者もいなかった私は幼い妹の生活を守る為に必死で働いた。
父が貴族時代の伝手を辿ってどこかのお屋敷の下働きにでも紹介してくれれば良かったのだけれど、父は私が下働きになるのは自分の面目が潰れると嫌がった。
それどころか私が市井で働いていることさえバレたくないと、仕事の保証人にさえなってくれなかったわ。
だから当時まだ十二歳で保証人も居ない私ができる仕事は限られていて、朝から晩まで働いても稼げる額は微々たるもの。
もちろんそんな日々が長く続くわけもなく、遂に首が回らなくなった父は信じられないことに私と妹を裕福な商人に売り渡そうとしたの。
元貴族の娘だと付加価値を付け、売り渡した後の扱いは如何様でも文句をつけないと証文まで書いて。
「家に怪しいおじ様が出入りしている」と妹が教えてくれなければ父の企みに気付くことなく、私も妹も酷い条件で売り払われていたことでしょう。
一刻の猶予もないと感じた私はその夜、とるものもとらず妹を連れて家を逃げ出した。
妹と二人、貴族として伸ばしていた長い髪を売り当面の資金を作ると、父の追手と人攫いを避ける為、顔を汚し男の格好をして王都を出たの。
そこからは二人で生き延びるため、それこそ口には出せない非道なことも沢山してきたわ。
各地を彷徨い、運良くマルクス様に助けられてカーハインド領に来なければ、今頃私も妹も薄汚いスラムで飢えているか殺されているか、どちらにしても生きてはいなかったでしょうね。
マルクス様に連れられ領主邸を訪れた薄汚れた私たちを、カーハインド家の皆様は温かく迎え入れてくださった。
そして私たちの身の上を聞いて大いに憤り心を痛め、住む場所や仕事を与えてくださったのよ。
久しぶりに温かい食事をいただき、ふかふかの布団で安全に眠れた夜、私は涙が止まらなかった。
だから私には、妹と共に生きる道を与えてくださったカーハインド家の皆様に、返しても返しきれない恩がある。
カーハインド家の為ならばこの命も惜しくないと思える程の恩が。




