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side:マルクス
晩餐会で少しは流れを変えられたようだな。
あの場に出席していた家だけでなく、噂を聞きつけたのであろう他派閥の人間からも接触を受けるようになった。
今日もそのうちの一人から食事に誘われ、王都でも老舗の飲食店にやってきた。
院政家でも重鎮の一人で、宰相とは別の派閥に属するダグラス家の嫡男、アンドレ殿だ。
四十代に差し掛かる頃か。もう当主になっても良い年齢だろうに、父親が引退しないようでまだ家督を譲られていないらしい。
ただ、実権はこの者がほぼ握っているようだ。
ある程度食事や酒が進み場が温まった頃。
「今日は君と腹を割って話したいと思ってね。
単刀直入に聞こう。君は王子殿下が婿入りすることに反対かい?」
あまりにストレートな問いかけに驚く。
でもありがたい。俺はあまり持って回った言い方が得意じゃねえからな。
「率直に言って反対です」
俺もストレートに返す。が、ストレートすぎたか?
アンドレ殿が絶句した。
「もちろん殿下の婿入りは我が家にとって名誉なことです。しかし我が家は伯爵家、やっかみを受けるのは間違いありません」
慌てて取り繕う。
「他家からのやっかみが反対の理由かい?
宰相閣下は国の未来を考えているんだよ」
この男、宰相の回し者か? だが俺に嫌悪の感情はなさそうだ。どちらかというとこちらを試すような、楽しげな目をしていやがる。
「宰相閣下は確かに国のことを考えていらっしゃるのでしょう。このままでは王族の品位保持費用は増える一方ですからね」
お、目付きが変わったな。なるほど、俺がどこまで理解して反対しているのかを計りたかったのか。
「しかし婚姻をその手段にするのはいかがかと」
「ほう? 婚姻以外に王籍離脱の理由になり得るものがあるかい?」
「そうですね。例えば私の母の母国では、王族は王家が存続できる人数を残して、成人すれば例外なく王籍を離脱します。
新たな爵位は与えられますが、軍部に入ったり王の補佐をする文官になったりと、自らの才覚で働き家を盛り立てて行かなければなりません」
「なんと……!元王族が臣下となって働くというのかい?」
「私からすればそれが当然かと。
それこそ国のためになるというもの」
俺の話を聞いてアンドレ殿はしばらく考え込んだ。
「……確かにそれが出来れば最善だろう。でも今の王家にそんなことを言って納得するとは思えない」
まあそりゃそうだろうな。働くと言う概念がない奴らだ。
これを実現しようと思えばそれこそ幼少期からの教育を変えるでもしなけりゃ、一朝一夕では無理だろう。
だがそれは俺たちの知ったことじゃない。
「ではこのまま元王族を各地の貴族の下へ婿入りさせていきますか? 国の各地に王家の権威が散らばることになる。必ず欲をかくものが現れると思いますが」
アンドレ殿は一つ唸るとまた深く考え込んだ。
◇
side:アンドレ
宰相がマリウス殿下を他家に婿入りさせ、王籍の剥奪を画策しているという情報が入った。
マリウス殿下からは我ら院政家への不満もよく漏れ聞こえてくるため、王籍剥奪の実績を作るための生贄に選ばれたのだろうと当初はあまり興味はなかった。
しかし宰相にライバル心を持つ父が、このまま奴の手柄になるのは我慢ならんと騒ぎ出した。
いい歳をして宰相への対抗心で未だに家督を譲らぬ父だ。
面倒なことになったと思いつつ、仕方なしに情報を精査したところ、どうやら婿入り先は伯爵家、それも歴史の浅いカーハインドだという。
歴史が浅いゆえに軽んじられているが、私が調べた限りカーハインドの領地運営は優秀だ。
これに王家の権威が重なれば、王都での発言力も増すことになる。
彼の家も喜んでいることだろうと思ったが、なんと王都に来ている次男が反対しているという。
確かに王族を迎えるとなると煩雑な手続きや出費もあるだろうが、それでも地方が王家の権威を手に入れる恩恵は大きいはずだ。
何を思って反対しているのか興味が湧き、一席設けることにした。
ーー
現れたのは人好きのする笑みを浮かべた、がっしりとした体躯のなかなかの色男だった。
酒や食事をしながら話しをする中で、あまり回りくどいことを好まない男のように思えたので、婿入りについて率直に問うことにした。
まさか問いかけた私以上に率直な意見を返してくるとは思わず面喰らったが、よくよく話してみるといちいちもっともな話ばかりであった。
品位保持費用の問題も理解しており、宰相が婿入りを持ちかけた理由もわかっていた。
わかっていてなお、国のためにならないと反対したのだ。
確かに元王族が国の各地に散れば、国を割ることにもなりかねない。
王家の権威を餌に元王族の面倒を見さされる者からすれば、権威を利用して少しでも高い地位に這い上がってやろうと考えて当然だからな。
地方の領地を後ろ盾につけた元王族が蜂起し、我こそは正当な王だと自称することも考えられる。
……そうなれば待っているのは各地の元王族との争いだ。
無論これは極端な例かもしれないが、今後王族の婿入りを進めるのならば、考えておかねばならぬことだ。
それにしても、カーハインドにとっては降って湧いた幸運だったはず。
それに安易に飛び飛びつかず、国のためにならぬのなら、自らの家の利益を蹴ってでも反対する。そんなことができる者がどれほどいるか。
まだ若いのに大したものだな。
彼がいるだけでカーハインドはこれからも安泰だろうと思える。
どうなるかと思ったが予想以上に良き時間を過ごせた。




