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マルクお兄様がお戻りになった翌々日の昼過ぎ、宰相から招待状が届きました。
一月後に王城で顔合わせを兼ねたお茶会を開くそうです。
王城を使うとなると警備の手配や諸々の手続き等、面倒なことが多いはず。宰相はその手配を丸一日ほどで終えたことになります。
随分急いだようですね。
早く予定を押さえておかないと、私たちが領地に帰ると思ったのでしょう。
宰相をここまで迅速に動かすとはさすがはマルクお兄様です。
お茶会がどうなるかわかりませんが、これで領地に戻る目処が立ちましたね。
私は王子との顔合わせの際も、宰相と会ったときに着ていたものと同じドレスで行く予定でしたが、宰相から届いた招待状の中にドレスショップの紹介カードが封入されていました。
少しでもマリウス王子に良い印象を持たれるように着飾ってから来い、ということでしょう。
当日の着替えやヘアメイクもドレスショップで頼むようにと書かれていますが、こちらは遠慮しましょう。
私は王都に入ったときから変わらず、顔色が悪く地味に見えるメイクをして、くすんだ髪色になるように染髪していますから、事情を知る侍女にしか任せられません。
宰相から紹介を受けておいて行かない訳にもいきませんので、今日はドレスショップに出掛けましょう。
街に出るのは久しぶりですね。
◇
宰相の紹介カードを持ってドレスショップに行くと、驚くほど丁寧なもてなしを受けました。
前に行った服飾店よりもさらに高級な一見様お断りの店ですが、このもてなしはお店のモラルが高いのか宰相からの紹介だからなのか、どちらなのでしょうね。
華やかなで上品なドレスが、次から次へと運ばれてきます。
宰相の根回しがあるのか、やたらと緑系統のドレスばかり勧められましたが、丁重にお断りして水色のドレスを選びます。
マリウス王子の瞳が緑なのは調査済みです。
ドレスを作るほどの時間はないので今回も既製品ですが、サイズのお直しや手直しの為に一週間程預かりたいと言われました。
前回行った服飾店ではそんな提案はありませんでしたが、ドレスのような体に沿うものは着用者に合わせてミリ単位の調整を繰り返すもの。これが普通の対応でしょう。
しかしこの場でできる簡単なお直しだけお願いしてすぐに持ち帰ることにします。預けている間に変に手を加えられても困りますからね。
私が当日のヘアメイクもお断りする旨を伝えると、店の者は困った顔をしました。
「ドレスの費用と共に準備の資金もすでに宰相閣下より頂いております」
やはり根回し済みでしたか。ですが私のヘアメイクは自領の者にしか任せられません。
「お嬢様の良さを最も引き出せるのは、長年お嬢様にお仕えしている私たちをおいておりません!」
ここで侍女が口を挟みます。
通常主人の許しも得ずに侍女が口を挟むなどあってはならないことですが、今の私は周りに軽んじられている設定ですからね。素晴らしい対応です。
「それとも王都の方は、私たちでは力量が足りないとおっしゃるのですか?」
侍女の言葉にますます困ったように、周りと顔を見合わせる店の者たち。
「私はあなたたちの力量をわかっています。ですから、次の準備もいつものように全てあなたたちにお任せします」
私がそう侍女に伝えると、侍女は満足そうな顔をしてうなずきます。
「申し訳ありませんが、宰相閣下にはよろしくお伝え下さいませ。素敵なドレスをありがとうございました。
それでは失礼いたします」
私は頭を下げると、そそくさと店を後にしました。
ドレスの支払い? もちろんしていませんよ。だって宰相閣下がプレゼントしてくださるんでしょう?
なによりカーハインド領は税金を下げたせいで領主一家にはお金がない。私はお金をかける価値もなく安宿に放り込まれた娘。
ということになっているのに、ここで高級なドレスの支払いをポンッとしてしまえば齟齬が生じますからね。
素直に甘えておきましょう。
何より私のドレスの新調を願ったのは宰相ですから。これで貸しを作ったとは思わないでしょう。




