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slde:院政家の当主
カーハインドの次男、宰相から聞いていた話と全く違うではないか。
物腰は丁寧で、機知に富んだ会話もできる。
ときどきウィットに富んだジョークを交えて話す様など、倅に見習わせたい程であった。
見栄えも決して悪くない。どころか良い。
がっしりした体躯に甘いマスク、握手をしてわかったが剣の腕も相当だろう。
私に年頃の娘が居れば売り込んでおったかもしれん。
その上、自分の身分が低いことを理解しつつも過度に卑下することも卑屈になることもなく、自然体で我々との会話を楽しんでおった。
自分より遥かに身分の高い者に接するときはこの塩梅が難しいものなのだ。それをあの歳でできるとは驚愕に値する。
時々そのそつのない姿に嫉妬した若いものが、嫌味を言ったり攻撃的な発言をしたりしたが、顔色一つ変えることなく穏やかに流しておった。
これを粗暴者と判断した宰相の調査能力に疑問を感じる。
それに王子を辺境においやるのは良いが、子息が言っておった通り『戻りたい』と言われて止められる者がおらぬ家では、確かに面倒なことになる。
王子の気性を考えると、辺境に兵を出させてこちらに攻めてくる可能性もあるのではないか?
諫める者がいない地に追いやれば、ますます助長し手がつけられなくなることも考えられる。
良い案だと思っていたが、先々のことを考えればもう少し慎重に動いたほうが良いかもしれん。
王子に自らの手足となる兵を与える訳にはいかぬのだから。
◇
side:宰相
やられたわ。
登場から皆の視線を奪い、終始自分のペースで会話を進めおった。
腹の探り合いに慣れた院政家の者まで手玉に取る様は見事としか言えぬ。
おかげで奴の話を聞いた者の中から、カーハインドに王子を婿入りさせるのは考え直すべきではないかと言う者が出始めた。
確かに諌める者の居ない家に王子を出す危険性は理解するが、そんなことを言っていてはいつまで経っても王族が減らぬ。
増え続ける品位保持費用を補填する為に、汝等が懐に入れている税を出すのか?
王族の為に自らの特権を手放す者などおらぬだろう。
ならば品位保持費用を下げるか? 今居る王族を全員納得させられるか? 骨を折るのは誰だ?
多少のリスクを負ってでも、王子を婿入りさせるのが一番手間がかからぬはずだ。
カーハインドの息子のせいで風向きが変わってしまったわ。院政家をまとめる前に派閥の者を納得させることから始めなければならなくなった。
余計な手間をかけさせおって。本当に面倒なことをしてくれたな。
そもそも奴ら王家の権威を得る為に尻尾を振って娘を連れて王都まで来たのではなかったのか?
なぜ邪魔立てするようなことを言うのだ。
もしや王子が婿入りすることで、妹の権威が上がるのを嫌がっておるのか?
それでも家として王族の権威を得られるメリットは大きいはず。
それとも家督の継承順位の問題か?
王子に家を継がせる必要はないと内々に伝えるか?
それにこれがこの息子だけの判断なのか、家としての判断なのかでも事態は変わる。
些細を調べたいがなにぶんカーハインドは遠すぎる。今から調査に人を出しても戻ってくる頃には状況が変わっているだろう。
田舎者に王族の権威を高く売り付けてやるつもりだったのに、いつの間にか押し売りをせねばならなくなるとはおかしなものだ。
このままでは奴ら本当に領地に帰ってしまいかねん。
幸い兄の話によれば、妹は王子と婚姻を結ぶことに前向きなようだからな。こうなれば顔合わせを早め外堀を埋めていくしかない。
もっとしっかり根回しをして、せめて王子がごねないようにしておきたかったのだが……仕方がない。




