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side:マルクス
あー、どうすっかなあ。
俺はハイリ兄みたいに頭も良くねえし、アルフみたいにすげーことが思いつく訳でもねえ。
王都のやつらから見れば貴族とは思えねえ粗暴さだろうし、俺もお高く止まるつもりはねえ。
俺にできるのは遊び歩いて周りを巻き込み、エルザの情報収集に協力するぐらいだ。
そんな俺から見てもこの状況はやっかいだ。
いっそ第三王子を消しちまえば話は早いんじゃねえのか、なんて思わないでもねえ。
だけどそれじゃダメだってエルザに止められた。
あいつはローラの側に居てローラの気持ちを理解してるやつだから、俺のやり方ではローラの目指す未来には辿り着けないとわかってる。
ローラは人を大切にする。家族はもちろんだけど、側近や世話係、下働きから領内の孤児まで、カーハインド領の全ての者を守りたいと思ってる。
だから俺がここで短気を起こして王都と争いを起こすわけにはいかねえ。
だが王都の都合でローラに王子を押し付けることだけは、絶対許せねえ。奴らと争いになったとしてもこれに関しては引くつもりはねえ。
それは親父やハイリ兄たちも同じだろう。
◇
side:宰相
今日はカーハインドの息子を呼んでの晩餐会だ。
といっても私と倅、それと同じ派閥の院政家の当主や嫡男など総勢二十人にも満たない内輪の集まりだ。
粗暴と噂のカーハインドの愚息を見極めてやろうと皆意気込んでおるわ。
ーー
「お初にお目にかかります。カーハインド家カロルドが次男、マルクス=カーハインドと申します。
本日は素晴らしい席にお招きくださり幸甚の至り。若輩者ですがどうぞよろしくお願いします」
――現れた男を見て皆が驚きの表情を浮かべておる。
斯く言う私も驚いている。
赤みがかった金の髪を綺麗に撫で付け、オートクチュールのタキシードを見事に着こなす姿は、とても粗暴者には見えぬ。
服の上から見てもわかる鍛え抜かれた身体。洗礼された動き。堂々とした口上。王都におればさぞ浮名を流したであろう甘いマスク。
どれをとっても申し分ない若者だ。
本当に報告の者と同一人物か?
「よく来てくれたね。今夜は身内の集まりだ。気兼ねなく楽しんでくれたまえ」
食事が始まるが、カトラリーの使い方もマナーも完璧だ。
さらに本人は、人好きのする笑みを浮かべ既に周りと談笑しておる。
先日会った妹とはえらい違いだな……少し切り込んでみるか。
「そう言えば先日妹さんをお招きしてね。温厚で謙虚な素敵な女性だったよ」
私が妹の話を振ると、少し困ったような笑みを見せる。
「宰相閣下にそのようにおっしゃって頂けて、妹も喜んでいるでしょう。世間知らずなところがありますので……ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
そんな世間知らずの妹を安宿に放り込んだのか?
と言いたいところだが、さすがに言えぬな。
「とんでもない。妻も喜んでいてね。是非また招きたいと言っていたところだよ」
「それは良かったです。ただあまり王都の賑わいに慣れて、『戻りたくない』などと言い出しても困りますからね。そろそろ連れ戻そうと思っているのですよ」
こやつ妹から何も聞いておらぬのか? 王子との顔合わせのために王都を離れぬようにと伝えてあるのだが。
……あまり大々的に伝えたくなかったが、仕方ない。
「ここにおる者は私が信頼している者しかおらぬゆえ言うがね。そなたの妹と王子殿下の縁組の話がある。
王子殿下が婿に入る形でな。
その顔合わせの為にもうしばらく王都に滞在してもらいたいのだ」
若い者を中心に幾人か驚いた顔をしておる。
表沙汰にできぬ話ゆえ慎重に根回しを行っている最中だ。まだ知らぬ者もおるだろう。
「縁組の話は父から伺っています。しかし妹と実際にお会いになられた宰相閣下ならば、ご理解いただけたと思ったのですが……。
それゆえ妹が叶わぬ夢を見る前に連れ戻そうと考えた次第です」
こやつ私が妹と会えば縁組の話が流れると思っておったのか? だがこちからすれば正直なところ相手など誰でも良いのだ。
「なぜそう思われたのかわからぬな。王子殿下に相応しい素晴らしい女性ではないか」
「――ならば正直に申し上げましょう。
お恥ずかしい話ですが我が妹には大した器量もなく、人に誇れる物もない。
とても王子殿下の御心を繋ぎ止めることなどできません」
やはり兄妹仲はよくないようだな。
「それに王子殿下を婿にとおっしゃいましたね。
我が家は歴史も浅い伯爵家。妹が御心を繋ぎ止められず、王子殿下が『王都に戻りたい』とおっしゃっても、お諫めできる者がおりません」
それは確かにその通りだ。いくら除籍されたとはいえ元王子。伯爵家ごときでは如何様にもできぬのは確かであろう。
だがまさかこんな場で堂々と具申してくるとは。




