13
約束の日、貸し馬車で宰相の邸宅に到着します。
王宮に程近い場所にある立派な邸宅です。重厚な門の両側には門番が二人。
「こちらで手荷物の改めと、ボディーチェックをさせていただきます」
その言葉に、私は思わず目を見開きました。
門番に招待状を見せた途端、信じられないことを告げられたのです。
自ら招いておきながら、手荷物検査に加えてボディーチェックまで受けろだなんて。
――あり得ません。
普通の貴族であれば、侮辱だと激怒し、兵を挙げてもおかしくないほどの暴挙です。
一体、どのような意図があってこのような真似をしているのでしょうか。
「手荷物検査は受け入れますが、私は未婚の令嬢です。ボディーチェックは受け入れられません」
どういう意図があるとしても、これはさすがに受け入れられません。
「それは困りますね。こちらは職務です」
「受け入れられないというなら、邸宅に入れるわけには参りません」
門番は毅然とした態度を崩しません。
しばし無言の時間が流れます。
「…………わかりました。
では本日はこれで失礼いたします。
宰相閣下によろしくお伝え願います」
さすがに従えません。
殿方に嫁入前の身体をまさぐられたなどと噂が立てば、私の女としての人生が終わります。
馬車に乗り込み引き返そうとした、そのとき。
「お待ちください!」
「申し訳ございません。そのままで結構です。どうぞお通りください。
門番にお嬢様の来訪がきちんと伝わっておらず……不手際をお詫びいたします」
執事服の男性が慌てたようにやって来て、丁寧に頭を下げました。
「「申し訳ございません」」
それを見た門番たちも、執事に習うように平然と頭を下げます。
これは――もしかすると私は試されていたのでしょうか?
どこまでの理不尽を許容するのか、自分の判断で動くことができるのかと。
それにしても危険なやり方です。ここで私が激怒して帰れば、カーハインドとの争いになる可能性もあります。
それとも私では家を動かすことなどできないと、高を括っているのでしょうか?
例え私が動かせずとも、カーハインドが乱を望んでいれば、これをきっかけに騒ぐ可能性だってあるというのに。
王都に喧嘩を売るものなどいない、もしものときでも下の者を切り捨てて謝罪さえすれば大事にはならない、そんな傲慢さゆえの戯れでしょうかね。
いずれにしても戦いはすでに始まっているということですね。
◇
side:宰相
「お客様がお見えになりました」
執事の言葉に立ち上がる。
さすがにボディーチェックは受け入れなかったか。
もし受け入れれば、カーハインドの弱みを一つ握れたのだがな。
まあよい。それでも声を荒げることも怒って帰ることもなかった。ある程度の無礼は許容する娘ということだ。
やりやすいことこの上ない。
執事の案内を受けて妻と共にティールームの一つに辿り着く。ノックもせずにドアを開けると、娘が慌てたように立ち上がった。
「お初にお目にかかります。カーハインド領主カロルドが娘、ローラ=カーハインドと申します。
本日はお招きくださりありがとうございます」
声が少し震えているか?
緊張しているのか挨拶もたどたどしいな。
「初めまして。遠いところよく来てくれた。
宰相をしているガラル=ヴァーデンハートだ。
こちらは妻のキャサリン」
「初めまして。キャサリン=ヴァーデンハートよ。
今日は私たちしかいないのだから、堅苦しくせず楽しみましょうね」
ドレスも髪型もパッとしない。まさに田舎娘そのものだな。
それに顔色も悪い。緊張からなのかもしれんが、普通なら化粧で隠すだろうに。
「はい、ありがとうございます。
辺鄙者ゆえ至らぬところもあるかと存じますが、よろしくお願いいたします」
「さあ座って、まずは紅茶を飲みましょう」
妻がそう言うとメイドが紅茶とお菓子をサーブしていく。
その間も娘は所在なさげに視線を泳がせ、時折り不安げに背後にいる従者に視線を送る。
――えらく幼い従者だな。
これが娘を唯一大切にしている者か。このような幼いものしか手の内におらぬとは。
「そうそう、門番が失礼なことをしたんですって? 大丈夫だった?」
妻が切り込む。女性との話は妻の方が慣れているからな。このまま妻に任せて成り行きを見守るか。
「いえ、あの……こちらこそ、その、こちらの作法を存じませんで……」
そんな作法あるわけないだろう。
「違うのよ〜、貴族なら紋のついた馬車で来るんだけど、あなたは貸し馬車で来たものだから、門番たちが誤解しちゃって」
「あなたお家の馬車はどうなさったの?」
嫌味な言い方だな。これだから女は怖い。
「あの、その、私の領地は山と森に囲まれておりまして、馬車で来るのが難しく……」
妻とて知っているだろうに。
それにしても鈍臭い喋り方だな。
「あら、そうなの。でもカーハインド領は最近栄えてるって聞くわよ。王都で馬車を仕立てる余裕ぐらいあるでしょう?」
なるほどそう繋げるのか。流石だな。
「栄えている? カーハインド領がですか?
………あ、それは税率を下げたからかも知れません」
は? 税率を下げた? なぜそれで栄える?
「税率を下げたらあなたのお家は収入が減るのよ? わかっていて?」
妻も怪訝な表情だ。
「はい、確かに当家としての税収は下がったようですが、その分民にゆとりができて、領地は賑わっています!」
「それでは何か新しい発明があったとか大口の取引相手を見つけたとか、そのようなことはないのか?」
思わず口を挟んでしまった。確かに噂は神職が民から聞いたもの。
民からすれば税率が下がるなど通常はありえぬことゆえ、楽園のように感じてもおかしくはない。
「新しい発明ですか………? 商売のことは私は詳しくありませんが、発明品も特に聞いたことはございません。
無知で申し訳ございません」
なんだそれは。それではカーハインド家が身銭を切って民に媚を売っているだけではないか。
とんだ茶番だ。




