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side:宰相
ここ五日程カーハインドの者を物見に探らせているが、いかに見ても優れているようには見えない。
娘は基本宿に引きこもり。来て早々は衣料品や服飾品を購入するために外出したようだが、これはこちらとの面会の準備だと思われる。
それ以降は何をするでもなく、おとなしく宿でこちらの招待を待っているようだ。
それにしても領地からドレスの一つも持ってこなかったのか?
こちらで着られる品質のものが領地で用意できなかったのか?
確かに地方では服飾のレベルもたかが知れているだろうが、通常は時間をかけてでも良い物を作り持参するだろう。
思えば王都に上がるように要請してからこちらに来るまでの期間も短かった。
そのため仕立てる時間が足りなかったとも考えられるが、ならば理由をつけて往訪を遅らせればよかったのだ。
呼ばれたら一刻も早く往訪する。確かにそれも大切だが、準備もままならぬまま向かわせるなど、まるで娘を追い出しているようにも見える。
さらに娘は、店の者にバカにされても怒りもしなかったという。
そしてそんな娘を庇っていたのは、まだ成人もしていないような幼い従者一人だけだったとも聞く。
……もしや娘はカーハインドでは厄介者か?
こちらで娘を押さえることでカーハインドから富を引き出す算段だが、娘が厄介者ならばそんな娘を盾にしたところでカーハインドは動かんかもしれん。
ーー
共に来た息子の方は娘とは対照的に毎日遊び歩いていると聞く。
隣に妖艶な美女をはべらせ、朝な夕なと街に繰り出しどんちゃん騒ぎを起こしているようだ。
金払いは良いようだが、普通貴族が行かぬような下賎な店にも顔を出し、ときには下民と肩を組み酒を酌み交わすこともあるという。
下民と席を共にするなどありえぬ。
そもそも貴族は必要以上に下民に近づかれることさえ嫌がるものだ。
あいつらは何をしてくるかわかったものではないし、なかには現状に不満を持った者や、敵対勢力に雇われた者が、こちらを殺しにかかることもあるのだから当然だ。
考えなしのバカなのか、襲われても返り討ちにする自信があるのかは知らんが、妹を気遣うことなく自分だけ王都を満喫しているのは間違いない。
ともかく一度こちらに呼んで直接話してみなければ。
当初は二人まとめて呼ぶつもりだったが、あの兄がいると妹が口を開かぬまま終わりそうだ。
それに気弱な妹の方がこちらも御し易い。
カーハインド領の内情を細かく聞くならば娘一人で呼び出すのが得策か。
名目は茶会でよいだろう。妻も同席させ、まずは娘だけ呼び出し内情を探るとするか。
◇
side:王都にある教会本山の者
カーハインドの者が王都に来ているらしい。
宰相め、こちらの情報を元に呼び寄せたくせに、まともな報告も寄越さないとは。
あの領地は絶対におかしい。滞在に許可証がいる時点で異常だ。
表向きは山賊対策だとか疫病対策だとか言っているが、余所者を排除しているようにしか見えない。
それに民の間で流れている「カーハインドは民に優しく住みやすい楽園のような地だ」という噂も気になる。
世話役に紛れ込ませた間者は、大した情報を得る間も無く追い返されたという。
しかし、路地を覗いても浮浪者の一人も見当たらず、領内を移動している最中に痩せこけた孤児の一人さえ見掛けることがなかったと言うではないか。
あの地の教会からは、今まで通り上納金が納められている。
しかし問い合わせても、「特に変わったことはない」という返答しか返ってこない。
そんなはずがない。
王都でさえ、路地裏には死んだように倒れている者が幾らでもいる。孤児も、探さずともそこかしこに溢れているのだ。
王都以上に厳しい環境にある辺境で、何事もなくそのような者たちが消えるなど、あり得ない。
滞りなく上納金が納められている以上、わざわざ辺境まで監査に赴くことには周囲の理解が得られなかった。
だが――この違和感を、見過ごしてよいのだろうか。
今回王都に来たカーハインドの者から、宰相が何かしらの情報を掴んでくれれば良いのだが。




