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【完結】知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


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 王都本山の大聖堂。その最深部に位置する「断罪の間」は、高い天井から差し込むわずかな光と、無数に揺らめく蝋燭の火だけで照らされています。普段の礼拝堂が持つ厳かな温かみは消え失せ、冷徹な石造りの壁が重苦しい沈黙を際立たせているようでした。


「カーハインド伯爵家当主、ならびにその一族よ。前へ」


 すり鉢状になった部屋の中央、冷たい石畳の上に私たちは立たされています。


 正面のひな壇に居並ぶのは、白と金を基調とした法衣に身を包んだ審問官たち。


 彼らはまるで、獲物を品定めするような冷酷な視線をこちらに注いでいます。しかし、中央に座る大司教からは、無表情ながらもどこか満足気な雰囲気が漂っていました。


 大司教はもったいぶった仕草で羊皮紙を広げると、わざとらしく咳払いを一つして、朗々と内容を読み上げます。


「――其方らにかけられた嫌疑は、禁忌の手段をもってしてのポーションの生産、および流通への加担である。弁明の余地はあるか」


 部屋の四方に配された護衛の聖騎士たちが、威嚇するように一斉に槍の石突を床に打ち鳴らしました。ドン、と重い音が石壁に反響し、尋常ではない威圧感が空間を支配します。


 もし一人でここに立たされていれば、この空気だけで恐怖に震え、罪を認めてしまうかもしれません。


(それにしても……ポーションの流通はともかく、生産については大司教の推測でしかないでしょうに。それに禁忌の手段なんて、言いがかりでしかありません)


 心の中で白けた目を向けていると、


「弁明、ですか」


 私の隣に立つお父様は、眉一つ動かさずに言いました。 


「では我々が、禁忌の手段を用いてポーションを生産しているという証拠はありますか?」


 お父様の言葉に大司教がニヤリと唇を引き上げました。


 ーー嫌な予感がします。


「……ございますとも」


 一瞬、場が静まり返ります。


「ですが、証拠の提示は、あなた方の弁明を聞いた後にいたしましょう」


 大司教は余裕たっぷりに口元を緩めると、「どうぞ」と言わんばかりに、お父様へ掌を向けました。


(これはブラフでしょうか? ですがあの余裕の笑みが気に掛かります)


「形ばかりの審問など時間の無駄でしょう。真に我が家を異端と断ずるだけの証拠があるのなら、とうに提示されているはずです。最初から結論ありきの出来レースに付き合う義理はありません」


 お父様はわざと相手を挑発するように、ふっと口元を緩め、冷ややかな笑みを浮かべられました。


 あえて挑発し、相手がどう出るかを見るおつもりなのでしょう。手札は早いうちに晒させた方がいい、ということですね。


「不敬な!」


 審問官の一人が顔を真っ赤にして机を叩きますが、お父様はそれを一瞥すらしません。


 さらに、おじい様は「やれやれ」と小さく頭を振り、アルフお兄様は退屈そうに爪を眺め、ハイリお兄様とマルクお兄様に至っては、この部屋の構造や審問官たちの配置を冷静に分析するように薄い笑みを浮かべています。


「……そこまで仰るのであれば、ご覧いただきましょう」


 私たちの様子を見て、大司教は苛立ちを押し隠すように薄く笑みを浮かべると、ゆっくりと頷きました。


 その合図を受け、傍らに控えていた書記官が分厚い帳簿を抱えて進み出ます。


 書記官はそれを私たちの前の机へ、どん、と重々しい音を立てて置きました。


(これは一体……?)


「――これはケルファ王国の税関および国境守備隊が記入し、王宮にて保管されている過去数年分の交易台帳です」


 大司教は、勝ち誇った顔で交易台帳を指差します。


「ここには、カーハインド家が教会の禁じる禁忌の薬物を、他国の密輸商人を介して大量に買い付けていた記録が、確かに残されている!」


(そこまでしますかっ……!)


 背筋に冷たいものが走りました。


 国家の交易台帳にまで、存在しない密輸の記録を書き加えるなんて……。


 国家の公式記録を書き換えられてしまっては、この閉ざされた審問会で潔白を訴えたところで、覆せるはずがありません。


 情報局のレーザー盗聴器を使った調査で、院政家の一部が教会と結託し、何か不穏な企みを進めているところまでは事前に掴んでいました。


 けれど彼らは王宮の最深部や教会の懺悔室など、窓が一つもない石造りの部屋で密談を重ねていたため、ガラスの振動を拾うレーザー盗聴器では、肝心の内容まではどうしても聞き取れなかったのです。


 ですが、まさか国家の公式記録を改ざんするという、そこまでの暴挙に出るとは思ってもいませんでした。


 もちろん、そんな密輸など身に覚えはありません。


 ですが、一度「カーハインド家が禁忌の薬物を密輸した」と国家の交易台帳に記録されてしまえば、それは公的な事実として扱われます。


 外部の人間が、その国の公文書やデータベースの改ざんを証明することなど、ほぼ不可能。


 王宮という立場だからこそできる、制度そのものを悪用した卑劣な罠です。


 私は思わず、お父様へ視線を向けました。


 ですが――いつもどんな窮地でも落ち着いた笑みを崩さないお父様の眉間が、かすかに険しく歪んでいます。


 国家の公式記録の偽造。それだけは、お父様も想定外だったのでしょう。


 その一瞬を、大司教は見逃しませんでした。


 満足そうに頷くと、手元の木槌を振り上げます。


「神の御名において判決を下す。カーハインド伯爵家を『異端』と認定し――」


 四方を囲む聖騎士たちが、一斉に槍を構えます。


 鋼の穂先が、じりじりと私たちへ迫る。


 本当に――これで終わってしまうのですか……?



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