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ーーカーハインドに戻って数日。
領主邸にお客さまがいらっしゃいました。
「レオ様! ご無沙汰しております」
「久しぶりローラ。王都から戻ったと聞いてね」
「ええ。先日戻ったところです。
帝国の様子はいかがですか?」
「おかげさまで復興も落ち着いて、いよいよポーションを貿易にのせられそうだ。今日はその話をしに来たんだ」
帝国産ポーションの販売は始まっていましたが、まずは国内優先ということで、他国に向けての販売はされていませんでした。
それだけ帝国内の復興が進んだということでしょう。
レオ様のお話を聞くために、領地の主要メンバーを集めることにしました。
ーー
「改めまして、帝国への復興支援、ありがとうございました」
レオ様は集まったメンバーに、深々と頭を下げられました。
帝国の皇太子とは思えない行動です。
けれど、必要とあれば立場にこだわらず、こうして感謝を伝えられる方なのです。 そんな方だからこそ、多くの人から慕われるのでしょう。
「いよいよ帝国産ポーションの輸出が始まります。そこで本日は提案に参りました。
ポーションの封印紙に、帝国の紋章と並べてカーハインドの紋章も押しませんか?」
レオ様の言葉に、私たちは顔を見合わせました。
「そりゃまたなんでだ? カーハインドが名を出した方がいい理由でもあんのか?」
皆が抱いた疑問を、マルクお兄様は臆することなく尋ねられました。
「カーハインドの名を出すことは、聖王国の妨害や他国のやっかみなど、面倒ごとも引き寄せるでしょう」
レオ様の指摘に、皆も異論はありませんでした。
「ですが、それ以上に」
「カーハインドという名を世界に示し、その信頼を築く大きな一歩になると私は考えています」
「……なるほど」
おじい様が腕を組み、ゆっくりと頷かれました。
「……名を売るための投資、というわけですな」
「はい。短期的には面倒も増えるでしょう。しかし長期的に見れば、それ以上の利益をもたらします」
「帝国が品質を保証するポーションに、カーハインドの名が並ぶ。それだけで各国の見る目は変わるだろうね」
ハイリお兄様が目を細められました。
「ええ。私の推測ですが、カーハインドは中央の庇護に頼らず、自立した領地運営を目指しておられるのではないですか?」
私は思わず目を瞬かせました。
独立を目指していることは、レオ様に一度もお話しした覚えがありません。
「もし私の推測が当たっているなら、カーハインドにとって、国際社会からの信頼を得るこの機会を逃す手はないのではないでしょうか」
すぐには誰も言葉を返すことができませんでした。
やがて沈黙を破るように、
「……そこまでお見通しでしたか」
お父様がふっと口元を緩められました。
「ご推察の通り、カーハインドは自立した領地運営を目指しています。……いえ、国からの独立を考えています」
「お父様!?」
私は思わず口を挟みました。
まさか、独立という最重要機密を、ここではっきりと認められるなんて。
「共同事業をしている以上、帝国にも関係のある話だ」
お父様は手を挙げて私を制すると、レオ様に向き直りました。
「帝国の信用を借りて、カーハインドの信用を世界へ広げさせていただける。そのように受け取ってもよろしいでしょうか」
「はい。それで間違いありません」
レオ様はお父様の目を真っ直ぐ見据え、力強く頷かれました。
そして、ふっと表情を和らげると、
「恩は少しずつでも返していかないと、溜まる一方ですからね」
少し照れくさそうに頭を掻かれました。
どこか重苦しかった空気が和らぎ、思わず皆の口元にも笑みが浮かびます。
「でしたら、ポーネにも同じようにお願いしてみましょう」
お母様はふわりと笑っておっしゃいました。
「ポーネは大きな国ではないから、輸出できるポーションの数は限られるでしょうけれど、封印紙にはカーハインドの紋章も一緒に押印していただけるよう、伝えてみるわ」
――こうして、聖王国以外で販売されるポーションの封印紙には、カーハインドの紋章も押印されることになったのです。
帝国とポーネからポーションが販売されると、その事実は世界各国ですぐさま大きな話題となりました。
そして、封印紙に帝国やポーネの紋章と並んで押されたカーハインドの紋章にも、多くの人々の注目が集まったのです。
ーー
「また間者ですわぁ」
エルザが大きなため息をつきます。
「今度はどちらの国ですか?」
「共和国と……それから聖王国ですねぇ」
「また聖王国ですか……」
私も思わずため息が漏れました。
ポーションの販売が始まってからというもの、カーハインドには各国が競うように間者を送り込んでくるようになったのです。
特に聖王国の間者は、何度追放しても、またすぐに新しい者が送られてきます。
こうなることを見越して、領地の防衛を強化していましたから、今のところ領地に危害を加えられるような事態は阻止できています。
しかし、狙われたのは領地だけではありませんでした。
王都では、カーハインドに関する噂が次々と流されるようになったのです。




