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カーハインドに支店設置の許可が降りました。
当初は黄金酒だけの取り扱いになるかもしれないと思われていましたが、取り扱う品に制限がかけられることもありませんでした。
皆様の後押しのおかげです。
社交に励んだ甲斐がありました。
◇
支店は開店当初から、大層な賑わいを見せました。
公爵家の執事。
続いて大商会の主人。
宮廷に出入りする料理人。
貴族のご婦人やご令嬢が、自ら足を運ばれることさえ珍しくない光景です。
「例の酒は、まだあるか」
「あの干し果物はどちらに?」
なかでも黄金酒やドライフルーツは、入荷してもすぐに売り切れてしまう人気商品です。
もちろんカーハインドの領内が優先ですから、王都の需要を全て賄うことはできません。
ですが、その希少性が余計に皆様の購買意欲を掻き立てるようで、客足が途絶えることはありませんでした。
そして店頭に訪れた者は、目当ての品がなくても、帝国からの輸入品や珍しい香辛料など、「ここでしか手に入らない」品を見つけて買っていく。
それがまた新たな噂となり、人を呼ぶ。
「侯爵家のお茶会で出た菓子は、あの支店のものらしい」
「王宮の料理長も仕入れているとか」
いつしか貴族たちの間では、贈り物に困ればカーハインド支店へ――それが半ば常識のようになっていったのです。
また、あの日教会で話題になった汚れ落としの魔道具は、店頭には並べず受注販売としましたが、こちらも次々と注文が入りました。
「いつでも綺麗な髪でいたいわ」
「子どもの服はすぐに汚れてしまいますもの」
「使用人にも持たせたいわ」
用途はさまざまで、一家に一つでは足りないという方も少なくありません。
魔道具ということもあり、決して安くは設定していませんが、それでも「欲しい」と望まれる方は後を立ちませんでした。
とはいえ、支店の運営に加え、商品の仕入れや領地での生産もあります。人手には限りがあり、汚れ落としの魔道具ばかりを作るわけにはいきません。
そのため、お届けまでにはお時間をいただくことを、あらかじめご了承いただいていました。
ですがその待ち時間さえも、私たちにとっては王都の皆様との関係を深める大切な機会となったのです。
お世話になった方や、これから親交を深めたい方には、「特別にご用意できました」と少し早めにお届けする。
その心遣いを喜んでくださる方は多く、私たちの縁は少しずつ広がっていきました。
そんな中、おじい様が発案された飛行艇の定期輸送も始まります。
「うちの領地でも参加したい」
あの日、おじい様にそう詰め寄っていた貴族家が次々と協力してくださり、王都だけでなく周辺領地とも深い関わりが生まれていきました。
「ここまで来れば、独立も夢物語ではないな」
通信機越しに聞こえるお父様の声も、どこか弾んでいます。
「そうだな。土台は整ってきた。あとは機を見極めるだけだ」
おじい様も満足そうに頷かれます。
私たちの王都での役割は終わりました。あとは領地で機が熟すのを待つばかりです。
やがて支店が「珍しい店」ではなくなり、王都の社交界にとって、なくてはならない店になれば……
領地へ帰る飛行艇の中で、そんなことを考えていたとき、ふと疑問が湧きました。
「そういえば誰も飛行艇の秘密を探りに来ませんでしたね」
私が呟くと、おじい様はくつくつと笑われました。
「探ったところで、どうにもならんからな」
「え?」
「こんな見るからに金のかかりそうな代物、仮に仕組みを知ったとしても、作るのに莫大な費用がかかるのは明白」
「それに例え作れたとして、飛行艇一隻で商売はできん。荷を集める者も、運ぶ先も、売る者も必要だ」
「……あ」
「だから皆、技術を奪うより『仲間に入れてほしい』と考えた。それが一番儲かると分かっておるからな」
なるほど。欲しいのは飛行艇ではなく、飛行艇が運んでくる利益ですか。
私が頷いていると、お兄様が口を挟まれます。
「それでも探りたかった者は大勢居ただろうけどね」
「え?」
「でも、今それを口にすれば、二度とカーハインドとは取引できなくなる。これほどの利益が転がっているのに、自ら縁を切るような真似をする者は居なかったということだよ」
なるほど。そういった理由もあったのですね。
秘密は欲しい。でも今はそれ以上に、カーハインドとの良好な関係の方が価値がある。そんな計算があったからこそ、沈黙を選んだ者もいる、という訳ですか。
「では早々に王都を離れて正解でしたね」
「そうだね。あまり深入りすると、欲をかく者も現れるかもしれないからね」
「ああ、その通りだ。今は一緒に儲けられる相手だからこそ歓迎されている。だが、その利益が当たり前になれば、『自分たちだけで手に入らないか』と考える者も出てくるだろう」
おじい様は、窓の外へ目を向けながらおっしゃいます。
私はその言葉を胸に刻みながら、静かに頷きました。
おじい様はしばらく外を眺めておられましたが、やがてふっと笑みを浮かべると、
「――ところでローラ。帰ったら今度こそ酒を飲ませてくれるんだろうな」
そう言って揶揄うような目を向けられました。
はっ! そうでした。
おじい様をポーネから連れ帰るために、カーハインドのお酒を約束したのでした。
ですが、帰国して間もなく王都へ向かうことになり、その約束は後回しになってしまっていたのです。
「もちろんです!」
「黄金酒も琥珀酒もブランデーも果実酒も、全部ご用意します!」
「それは楽しみだ」
慌てる私に、おじい様は満足そうに喉を鳴らして頷かれたのでした。




