表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】知識チートで目指せ独立国家〜王家とのご縁は遠慮します!〜  作者: 花日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/121

100

 side:紳士クラブに通う古参貴族


 紳士クラブでは、一人の男の周りに領地経営に行き詰まりを感じている者や、新たな投資先を血眼で探している貴族たちが集まっていた。


 空飛ぶ船で突如王都に現れた、カーハインド家の前領主。バルドだ。


 奴の商才は昔から有名で、若い頃はよく王都にも顔を出し、多くの貴族と親交を深めていた。


 最初は「辺境の者に何がわかる」と馬鹿にしていた者も多かったが、奴が商売で結果を出すたびに評価は一変し、やがてそんな言葉は誰の口からも聞かれなくなった。


 それどころか、奴の助言で救われた者も少なくない。


 ところが、領主になった頃からは滅多に王都へ姿を見せなくなり、一線を退いたあとは名を聞くことさえなくなった。


 いつしか、「もう奴の時代は終わった」と囁く者も現れ、落ちぶれたものだと笑っていた。


 だがそんな奴が空飛ぶ船に乗り、さらには幻と言われる酒を携えて王都に現れたのだ。


 金の匂いに敏感な者ほど、その存在を無視できないでいた。


 もちろん儂もそのうちの一人だ。


 誰もが、奴の口から何が飛び出すのかを待っていた。


 バルドは葉巻の煙をゆっくりと燻らせながら、隣の席の男が漏らした不景気な愚痴に、さも世間話の体で言葉を返した。


「――確かに、既存の南回り航路は関税も海賊の危険も増すばかりですからな。ですが……その航路を使わずに済むとなれば、どうでしょう」


 その場の空気が、わずかに張り詰めた。


「もしそうなれば……東方の特産品は、これまでの半分の値で我が国に届く。関税の縛りもない。投じた金など、すぐに回収できましょう。さて、その先は十倍か百倍か……それは商売次第ですな」


 バルドがグラスを傾ける頃には、いつの間にか周囲の会話は止んでいた。誰もが奴の一挙手一投足に鋭い視線を注いでいる。


「……航路を使わずに、どうするのというのですか?」


 ある者が恐る恐る問いかける。


「空には航路などありませんからな」


 バルドはニヤリと笑った。


 その言葉に多くの者がはっとした。


「……空飛ぶ船、ですか」


 奴は否定も肯定もしない。ただ静かにグラスを口元へ運ぶ。


「もし、定期的に飛ぶのなら……」


「いや、そんなものが実現するはずが……」


「しかし、実際に彼は乗ってきた」


 囁きが次第に大きくなり、貴族たちは互いに顔を見合わせる。


「おや。皆様もお気づきでしたか」


 バルドは周囲を見回し、肩をすくめた。


「空飛ぶ船――我々は飛行艇と呼んでおりますが、もしあれが定期的に荷を運ぶようになれば……」


 奴は笑みを深くして言った。


「東方の品は最短で届く。季節物も鮮度を保ったまま並び、海賊に荷を奪われるリスクもない。商売は根本から変わるでしょうな」


 ごくりと誰かが喉を鳴らす音が響いた。


「もしや飛行艇は、あれ一隻ではないと……?」


 その言葉にバルドは眉を上げた。


「閣下は領地経営のために、馬車を一台しか持ちませんかな?」


「まさか。そんなわけがないでしょう。一頭の馬、一台の馬車を失っただけで滞るような生ぬるい計画を、私は商売とは呼びませんよ」


 バルドは手元のグラスを軽く揺らし、怯えと驚きが混ざった相手の目を真っ向から見据えた。


「そんな脆い商売に、私が手を出すとでも?」


 奴の言葉に誰も何も返せなかった。


 だが、次の一言で空気は一変した。


「ですが、飛行艇を定期便として運航するには、荷を集める者、保管する者、売る者……多くの者の力が必要になりますなあ」


 バルドは静かに周囲を見回す。


「領地が海に面していなくとも、大型船が寄港する港を持たなくとも、この事業には関われる余地があるのですよ」


 語りかけるように続ける。


「これまで港を持つ領地だけが得てきた利益を、内陸の領地も手にできる時代が来るかもしれませんな」


 そう言うと、それ以上は語らず、ゆっくりと酒を味わった。


 ーーさすがの手腕だな。


「うちの領地でも参加できるということですか!?」


「具体的には、何をすれば……!?」


 当然、その場は一斉にざわめいた。


 バルドは不敵な笑みを崩さない。


 ただ重厚な革椅子に深く腰掛け、我々の反応を見定めているようだった。


 ざわめきがひと段落した頃、奴はゆっくりと口を開いた。


「焦る必要はありません」


「王都にカーハインドの支店を置くことが叶えば、そこが物流の要になるでしょう」


「そうなれば、王都近郊に領地をお持ちの皆様も……ね」


 ーー


 バルドが去ったあとも、場に満ちた熱気は一向に収まる気配がなかった。


「カーハインドの支店か……これは、王都の物流が根底からひっくり返るぞ!」


 バルドが去った席を囲み、興奮した若手領主たちが声を弾ませる。


「落ち着け」


 儂は声を上げた。


「カーハインドの支店設置について、宰相閣下は反対のお立場だぞ」


「宰相閣下が……? なぜです、国が潤う話ではないですか」


「国益だけの話ではない。誰が利益を得て、誰が利益を失うかという話だ」


「カーハインドが王都に巨大な拠点を構え、飛行艇で安価な物資を大量に流し込んでみろ。割を食うのは誰だ? ――これまで王都の市場を牛耳ってきた大商人たちだ。彼らの売上が落ちれば、そこから税収や献金を得ていた主流派の貴族どもが黙っておらん」


 彼らは顔を青くした。


 バルドの計画は魅力的だが、同時に王都の既得権益を敵に回す可能性に気付いたからだ。


「……だが、だからこそ、だ」


 そのとき一人の伯爵が、ぎらついた目で声を上げた。


「宰相が渋っている今だからこそ、我々が動く価値があるのではないか?」


「主流派の鼻を明かし、カーハインドを王都に引き込む。そのための泥をかぶる覚悟を見せれば、バルド殿は決してその恩を忘れまい」


 その意見も一理ある。


 障害が大きければ大きいほど、成功した時の果実は甘い。投資の基本だ。


「仕掛けるならば、主流派が動き出す前だな……」


 儂が呟くと、周囲も小さく頷く。


 バルドが去ったあとの紳士クラブは、もはや単なる投資話の場ではなく、王都の勢力図を塗り替える算段を巡る密談の場へと変わっていた。



記念すべき100話目は、バルドの凄腕商人っぷりがわかるお話になりました!


いつも読んでくださり、ありがとうございます。

リアクション、星、お気に入り、どれも励みになります。

またよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ