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第91話心労の元凶…それは?

リチャードは現国王がまだ王子だった時に、恋人であったララ・ラプンツェルとの間に生まれた。二人は結婚することが出来なかった為に、リチャードは婚外子だった。故に国王は父上らしいことは何ひとつリチャードにしたことがない。

それでも、リチャードにとっては父だった。

王位継承の打診を拒んだこともアシュリンとの結婚も、最後には認めてくれた、彼は紛れもなく父だった。


「それで…父上は今どのような容態なんだ」

「流石に僕もそこまでは…」

「アシュリン…悪いが、しばらくここにいてもらえるか?」

リチャードは離れから王宮の本殿にある国王の私室に向かうつもりだった。立場上、婚外子である自分が堂々と見舞いに行けるわけがない。だが、それでも父の容態をこの目で確かめずにはいられなかった。


「仕方のない兄上だ」

とルイはリチャードが今からやろうとしている事を察して、息を吐いた。そして、老従者に向かって言った。

「ヤード、お前は兄上について行ってやってくれ!もし誰かに止められたら、僕の名前を出せ。『ルイの代わりに父上のお見舞いにうかがう』とな」

「畏まりました、ルイ殿下」

老従者ヤードが静かに深く頭を下げる。ルイの機転により、「王妃の子であるルイ王子の代理」という表向きの名分が出来上がった。

「感謝する、ルイ。アシュリンを頼んだぞ」

「心配いらないよ、兄上」


「そうですわ! ルイ君、私のつくったクッキーの残りがあるのです。それを出しますわね」

アシュリンはそう言って、ポケットからハンカチを取り出した。

包みから現れたのは――あの岩のようなクッキーである。

気のせいか、ハンカチが開かれた途端、ルイの顔が若干引きつっていた。

「あ……僕はあまりクッキーとかは食べないので……」

(そりゃそうだ。食べないで正解だぞ、ルイ)

安堵感を覚えつつ、リチャードは離れをあとにして王宮の本宮へと向かった。


離れと本殿を繋ぐ静まり返った渡り廊下を進み、厳重な警備が敷かれた本宮の内部へと足を踏み入れる。

国王の私室へと続く回廊へ差し掛かったその時、前方から、数人の近衛兵と文官を従えた一人の男が歩いてくるのが見えた。

胸元に豪華な刺繍が施された正装を纏い、威厳に満ちた、しかし冷徹な眼光を宿した男。現王政の中枢を担う――宰相のスピルバーグ伯爵であった。


鉢合わせとなった瞬間、スピルバーグ伯爵は足を止め、リチャードの姿をまじまじと見つめた。その薄い唇が、嘲るような笑みを形作る。

「……これはこれは、ブラックウッド公爵閣下ではありませんか」

スピルバーグ伯爵はこれよがしにゆっくりと歩み寄った。

「いったい何処からここへ入りこまれた? 閣僚以外の貴族は門前払いされておったはずだが」

「宰相とはいえ失礼ですぞ! スピルバーグ伯爵。ブラックウッド公爵はルイ殿下の元に来られて、国王陛下がお倒れになったことをお知りになり、殿下の代わりにお見舞いに」

ヤードが毅然とした声を張ると、スピルバーグ伯爵はくっくと鼻で笑い、芝居がかって肩をすくめた。


「それはまた…なんとも…悠長な…御自分が原因だと言うのに…」

「私が原因?」

リチャードの眉根がピクリと跳ね上がる。スピルバーグ伯爵は冷ややかな嘲笑を深め、指先をリチャードへと突きつけた。

「そうですよ…貴方が原因です。貴方が王位継承者を蹴るような事をしなければ…そしてあのルーカス伯爵の様な田舎貴族の娘と結婚する等と言わなければ、陛下は心労でお倒れになどならなかった!」

容赦なく言い放たれる理屈に、リチャードは一瞬、息を詰めた。


(私の心労……だと……?)

罪悪感がリチャードの胸を刺す。

しかしーー

「とんでもない言い掛かりだな! スピルバーグ伯爵」

リチャードの後ろから、朗々と響き渡る声が差した。

振り返るとアレンとテオを従えたエカテリーナが居た。

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