第81話 ブラックウッドの森の湖〜連行〜
バンッ――!
静寂を破って森に甲高い銃声が轟き、少し離れた草むらから獲物が力尽きて崩れ落ちる音が響いた。
「よし、仕留めたぞ!」
銃口から立ち上る薄い硝煙をふっと吹き消し、エカテリーナが満足げに口元を緩める。
「わあ、すごいですエカテリーナさん! 一発で仕留めちゃうなんて!」
アシュリンが素直に手を叩いて称賛すると、エカテリーナは待ってましたとばかりに胸を張り、手にした銃を愛おしそうに撫でた。
「ふふん、私の腕もあるが、やはりこの最新式銃の性能が素晴らしいのだ。見よ、この装填機構の無駄のない美しさ! 従来の銃身から押し込むタイプとは違い、内部構造の噛み合わせが滑らかで、撃発までのタイムラグが極限まで削減されているのだよ!」
熱弁を振るうエカテリーナだったが、当のアシュリンは「???」と頭の上に大量の疑問符を浮かべていた。
一応「はぁ、なんかすごいんですね!」と返してはいるものの、顔には『まったく意味がわからない』と書いてある。
その二人のやり取りを後ろで見守っていたアンドリューが、呆れたようにため息をつきながら口を挟んだ。
「殿下……銃の事を何も分かっていないご令嬢にそれを自慢されても、チンプンカンプンだと思いますよ」
「……そうなのか!?」
エカテリーナは本気で意外そうに目を見開いた。
「いや、たとえ銃の知識がなかろうと、この素晴らしさと機能美は感覚で伝わるものだと思っていたのだが……」
「伝わるわけないでしょう。前も言いましたが、普通のご令嬢は銃に興味なんてないです。ましてや仕組みなんて関心ありませんから」
アンドリューの至極まっとうなツッコミに、エカテリーナは「解せぬ」といった顔で銃とアシュリンを見比べた。
気を取り直したエカテリーナはフッと息を吐くと、腰のホルダーから一筋の鋭い狩猟ナイフを引き抜いた。
そのまま倒れたイノブタラの元へと歩み寄ると、躊躇なく獲物の喉元へと刃を滑らせる。
血抜きをし、素早い手捌きで不要な器官を取り除いていくエカテリーナ。
(…… エカテリーナさん、一体何をしてるんだろう?)
エカテリーナの一切の無駄がない手慣れた動きに、後ろで見ていたアンドリューは思わず目を丸くし、心底感心したように呟いた。
「これは……見事な手際ですね。まさか王女殿下がこれほど手慣れた下処理を行えるとは感服いたしました」
「ふん、肉の傷みを防ぎ、最高の状態を保つには狩った直後の処理が肝要だからな」
(え…そうなの?)
獲物はただ狩ればよいだけと思っていたアシュリンは衝撃を受けた。
その後、獲物を追っていつの間にかブラックウッドの森の湖まで来ていた3人は、エカテリーナの提案で一旦休憩を取ることにし、湖畔の大きな岩に腰を下ろしていた。
澄んだ湖面を眺めながら一息ついていると、やがて木々の奥からパカパカと複数の馬の足音が聞こえてきた。
森の陰から姿を現したのは、馬に乗ったアレンとテオ、そしてアレンが手綱を引く馬の上で全身を頑丈なロープで簀巻きにされ、身動きが取れなくなっているリチャードだった。
「ふん、遅かったな」
エカテリーナが立ち上がり、呆れたように声をかけると、アレンは馬を止め、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ブラックウッド公爵が素直について来られなかったので……手間取りました」
「まぁそうだろうな……その様子をみれば一目瞭然だ」
とエカテリーナは笑った。
「リィーナ、こんな事を命じたのはお前か!?」
「私は『どんな手段でもいいから兄上をこの湖まで連れて来い』と言っただけです……兄上が素直に言われた通りに、従ってくだされれば、簀巻きにされずにすんだと思いますよ」
エカテリーナは何でもないことのように肩をすくめて言い放った。




