第66話 ナメクジ親子突撃して撃沈する
リチャードがブラックウッドの森の別宅にいるというのを聞きつけ、スピルバーグ伯爵親子が朝っぱらから押しかけてきた。
宰相の自分が後ろ楯として、婚外子の公爵を盛り立ててやるのだ。と彼は鼻息が荒かった。
本宅に朝から押しかけて来て、とんちんかんな理論をかまして、リチャードを困惑させたイザベラ。親が親なら子も子である。
一応、グリムロック王国の宰相だから邪険に扱うわけにもいかず、対応していたヨハンは、スピルバーグ親子を応接室に通した。
スピルバーグ親子は自信満々で、上から目線のままソファにどっかりと座って、リチャードが来るのを今か今かと待ち構えていた。
ドスドスドスドス
何やらものすごい足音が響き、
応接室のドアがカチャリと開いた。
スピルバーグ伯爵親子は応接室に入って来た人物を見るなり(誰?)と心の中で思った。
金色の髪に青い瞳、まさに美人の形容詞なのだが、軽く見ても、どう見ても、どこから見ても、太ましいオバさんだった。
太ましいオバさん、もといリチャードの母ララはスピルバーグ伯爵親子に微笑む。
「鶏よりも早起きなんですね、宰相様は!こんなに働き者なんですもの、王国はホント!!に安泰ですわ」
強烈な嫌味をかました。
しかしその嫌味を全く理解できなかったのか、スピルバーグ宰相はその言葉を完全にスルーしてしまった。
彼の心の中は、この目の前のオバさんが誰なのかという疑問でグルグル魔法陣になっていたのである。
コホンと咳払いをひとつついて、スピルバーグ宰相は意を決して尋ねた
「その…あなたは…どちら様であられる?私達はブラックウッド公爵を訪ねたんだが」
「リチャードなら、体調が思わしくありませんのよ!!なんかもう激しく人見知り病を発動してしまいまして…人によってはアレルギーを発症するので、会わせるわけには参りませんわ」
普通ならこれで引き下がるものだ。
だが流石は厚かましさに磨きがかかった厚かマシーン、イザベラだ。
「まあっ!!それは大変ですわ、お父様。今すぐ我が家の主治医に診てもらいましょう。そうすればそんな病はすぐに完治しますわ」
ララは氷点下の様な目つきで、イザベラを見た。
そして「鈍い親子が」とボソリと言った。
「お嬢さん、恋の病と人見知りは『お医者様でもルルドの泉でも治りゃせぬ』ですよ…お引き取りくださいな」
「お前はなんだ!我々はブラックウッド公爵に会いに来たのだ。何故、追い返そうとする!!」
「あら…ごめんなさい。自己紹介が遅くなりましたね。リチャード・ブラックウッド公爵の母のララでございます」
これでスピルバーグ伯爵親子を追い払える。
ララは確信の笑みを浮かべた。
スピルバーグ宰相の脳裏に、国王陛下がアーサー王子だった頃に、グリムロック王国に登城していた、うら若き可憐な乙女のララの姿が蘇った。
「いや…そんなはずは…ララ嬢は、はかなげで可憐で…」
今、目の前にいる太ましいオバさんが別人28号すぎて、スピルバーグ宰相の頭は困惑し、さっきまでの威勢はどこへやら、すっかり毒気が抜かれ、放心状態になった。
「お父様!!しっかりなさって」
イザベラは隣で父であるスピルバーグ宰相を揺さぶる。
そしてララの方に顔の向きを変えると、彼女をキッと睨んだ。
「オバさん、今日のところはこれくらいにしときますわ。でもこれで勝ったなんて思わないでね!!…イザベラ・スピルバーグは、グリムロック王国の宰相の娘なんですからぁー!!」
イザベラは、どっかのお笑い劇団と少女歌劇団が言いそうなミックスサンドの捨て台詞を吐いた。
「はいはい」と面倒くさそうにララは手払いした。
ララに手酷い応対を受けて、スピルバーグ伯爵親子は応接室を出ていった。
マーサとヨハンが一礼して、ヨハンが二人を玄関まで見送る。
「マーサ。砂糖あるかしら…あ…砂糖じゃないわね、塩だわ!!塩まいて溶かさないと、ナメクジは溶けなかったわね」
「奥様」
ララの言おうとしている事をすぐさまマーサは理解した。
ようはスピルバーグ伯爵親子をナメクジだと言ってるのだ。
「砂糖も塩も貴重でございます。ナメクジなら、足で踏みつぶすのが一番じゃないかと」
「あら…嫌だわマーサ。足で踏みつぶしたら、足元が汚れるじゃないの」
「そうですわね」
二人はお互いの顔を見合わせて微笑んだ。
自宅まで帰る馬車の中で、イザベラは悔しさのあまり爪を噛んでいた。
「リチャードの母かなんだか知らないけど、太ったオバさんが!!いいわ、私がリチャードの妻になったら、あんなオバさんは、姥捨て城送りにしてやるから、見てなさい」
心の中で呟けばよいものを、そうイザベラは吐き捨てた。
更に眉間に皺を寄せてギリギリと爪を噛む。醜悪そのものだった。
それにしても馬車の中で悪態をつく。
それはエドワード王子と同じ行動だった。
もしかして二人は似た者同士で仲良くなれたのかもしれない。エドワード王子の好みが特殊でなければ…
シュシュシュシュシュシュ!
風を切るような音が近づいて来た。
スピルバーグ伯爵親子の乗った馬車の横をそれが通り過ぎていく。
それはほんの一瞬だった。
それが何なのか、御者台の御者でさえ判別できなかった。
帰ってきたシンアシュリン&ジョンソン。
いよいよリチャードとの再会である。




